【第3回】「Jのない県」からJを目指して― ある地方クラブの奮闘記「ホームゲームの1日」

サッカーの存在は身近になっても、意外と知られていないクラブの舞台裏。誰がどんな思いを持って、支えているのか。「THE ANSWER」の連載「『Jのない県』からJを目指して―ある地方クラブの奮闘記」は、元スポーツ紙記者の奈良クラブスタッフ・山川達也さんが地方クラブのリアルな実情を毎月紹介する。第3回は「とあるホームゲームの1日」。

J3昇格の正念場を迎える奈良クラブ【写真:奈良クラブ】

J3昇格の正念場を迎える奈良クラブ【写真:奈良クラブ】

JFL奈良クラブの“中の人”が「サッカークラブのリアル」をレポートする連載

 サッカーの存在は身近になっても、意外と知られていないクラブの舞台裏。誰がどんな思いを持って、支えているのか。「THE ANSWER」の連載「『Jのない県』からJを目指して―ある地方クラブの奮闘記」は、元スポーツ紙記者の奈良クラブスタッフ・山川達也さんが地方クラブのリアルな実情を毎月紹介する。第3回は「とあるホームゲームの1日」。

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 9月を迎え、日本のサッカーシーズンはクライマックスに向けて大きな盛り上がりを見せている。奈良クラブが所属する日本フットボールリーグ(JFL)も残り10節。J3昇格条件となる4位以内(かつJリーグ百年構想クラブのうち上位2位)を目指す奈良クラブにとっては気が抜けない重要な試合が続く。9月の2試合で今季初の連勝を挙げた勢いのまま、終盤戦に突入できればと願うばかりだ。さて今回は、サッカークラブにとっての最も重要な業務ともいえるホームゲームについてお話したい。試合開催日、クラブスタッフはどこで何をしているのか。いかにホームゲームは運営されているのか。知っているようで知らない試合日の1日を、特徴的な数字を交えながらお届けしたい。

「47」

 1日と言ったが、設営作業は前日から始まる。一番の大仕事は、クラブを支えてくださるパートナー(スポンサー)の看板や横断幕を、スタジアムの至る所に掲出することだ。奈良クラブが主にホームゲームで使用する「ならでんフィールド」は陸上競技場。陸上競技に使用するトラック部分を利用し、多数の看板を設置。またスタンドの手すりなどに横断幕を設置していく。その数、「47」。たくさんの企業や人々に支えられているのを実感する瞬間だ。47の看板や横断幕の他にも、担架や得点ボード、ベンチ裏など様々な場所にパートナー企業の名前が記載されている。ほかにもロゴと企業名が入った100を超える数ののぼりをスタジアムの内外に並べていく。無数の企業ロゴに見守られ、無機質なスタジアムは戦う場所となっていくのだ。

「23」

 15時キックオフの試合の場合、9時(試合開始6時間前)から設営ミーティングがはじまる。やらなければならないことは無数にある。ゴールやコーナーポストなどピッチ上の準備。記者会見室や運営本部などスタジアム内の諸室の準備。各イベントブースなどスタジアム外の準備。こういった準備を十数人のフロントスタッフだけで乗り切るのは不可能に近い。そこでボランティアスタッフの力が大きな意味を持ってくる。奈良クラブのホームゲームでは平均「23」人ほどのボランティアスタッフが運営を手助けてしてくれている。下は高校・大学生から上は70代の方まで、年齢層は幅広く、パートナー企業から手伝いにきてくれた方や、遠い県外から駆けつけてくれる方もいる。

多くのパートナーに支えられてホームゲームを運営している【写真:奈良クラブ】

多くのパートナーに支えられてホームゲームを運営している【写真:奈良クラブ】

 仕事内容は多岐にわたる。前述の設営準備はもちろん、VIP受付やグッズ販売、ゴミステーションの管理、チケットもぎりなどどれも運営に欠かせない仕事ばかりだ。クラブ毎にその内容は変動すると思うが、下位カテゴリーになればなるほど、その重要度は高くなるのは間違いない。また試合のない日には、奈良クラブのジュニアやジュニアユース、バモス(知的障がい者チーム)などの選手も試合のない日には運営を補助してくれる。多くのボランティアスタッフの協力なくして、地域クラブのホームゲームは成り立たないといえる。

設営開始前にはボランティア、フロントも一緒になって円陣を組む【写真:奈良クラブ】

設営開始前にはボランティア、フロントも一緒になって円陣を組む【写真:奈良クラブ】

「2375」に表れる、Jのない地方都市に根付いたサッカー文化

「90」

 2時間半程で各セクションの設営を終えると、スタッフやボランティアは、それぞれの持ち場についていく。13時のスタジアム入場に先立って、12時(試合開始3時間前)にN.FES(奈良クラブにおけるイベント・グルメエリア)の会場がオープンとなる。毎節、お笑い芸人によるステージや働く車展示、スタンプラリーなど毎節趣向をこらしたイベントを展開しており、担当スタッフはその統括に忙しなく動いている。一方、スポーツ観戦には欠かせないスタジアムグルメステージでは、クラブ直営のキッチンカーにてカレーを煮込んでいるスタッフもいる。一日に消費されるカレーの量は「90」食程度。ほかにもハンバーガーやからあげ、ビールなど6~10店舗程度が毎回出店しており、小規模なフードイベントにも匹敵する量のグルメが、試合会場で消費されていることになる。

「2375」

 14時(試合開始1時間前)を超える頃から、多数のサポーターが四方八方からスタジアムにやってくる。場外の駐車場では空き駐車場への誘導などの対応に追われ、グッズ売り場には列ができるなど、スタジアム各所がにわかに熱気を帯びてくる。入場口では、チケットをもぎり、試合の詳細が書かれたマッチデープログラムを手渡す。今季ここまでの最多の観客数は「2375」人(その節のリーグ最多動員)。数万人を集めるJ1やNPBには及ばないものの、Jリーグのない地方都市にも確かにサッカー文化が根付いているのを感じる。

「300」

 キックオフ15分前を過ぎると、スタッフの多忙はピークを迎える。場内では分刻みでイベントが行われ、場外ではグルメやグッズを片手にイベントエリアから座席へと移動する人垣を誘導し、事故のないように入場させていく。各所の対応に追われる場外担当スタッフが気づかないうちに試合開始を迎えることは日常茶飯事である。無事にキックオフを迎えると、すぐさま撤収作業に移る。スコアや試合内容を横目で気にしながら、試合開始と同時に、イベントブースや場外看板等を撤収していく。試合終了後は、試合結果に一喜一憂する間もないまま、ファン・サポーターに次回来場を呼びかけたり、スタジアムで出たゴミの処理などを行う。ちなみに1試合で出るゴミの量は「300」キロ。この量を減らし、エコなスタジアムにしていく事もまたクラブに与えられた使命である。日が暮れる頃に撤収を終え、事務所への帰路につく。こうして長い長いホームゲームの1日は終わっていく。

今月1日の試合には2375人の観客が詰めかけた【写真:奈良クラブ】

今月1日の試合には2375人の観客が詰めかけた【写真:奈良クラブ】

「5」

 試合が終わるたびに、ボランティアスタッフからのフィードバック、来場者からのアンケートなどを経て、運営のブラッシュアップを行っていく。どれだけスタジアム外での取り組みが増えても、試合日のスタジアムがクラブにとって一番の「ハレ」の舞台であることは間違いない。選手やコーチングスタッフは勝利を目指して、フロントやボランティアスタッフは、来場者の笑顔が溢れる安全で楽しいスタジアム作りを目指して、それぞれの持ち場で戦っている。奈良クラブの今季ホームゲームは残り「5」試合。ぜひ一度スタジアムへ足を運んでもらえればありがたい。(奈良クラブ・山川 達也 / Tatsuya Yamakawa)

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