トライアウト→J2琉球→セレッソ。鈴木孝司の人生が変わった半年間。

セレッソには柿谷やメンデスらアタッカーが豊富に揃っている。その陣容の中で鈴木孝司は成り上がることはできるか。 photograph by J.LEAGUE

 またひとり、泥臭い仕事人がセレッソ大阪に加入してきた。

 J2のFC琉球から完全移籍してきた鈴木孝司横浜F・マリノス戦(17日)で念願のJ1デビューを果たし、チームの連敗を2で止めた。

 初出場は、絶好のタイミングでやってきた。

 後半28分、1-1の状況でFWブルーノ・メンデスに代わって出場。ベンチには柿谷曜一朗田中亜土夢ら攻撃的な選手がいたが、ロティーナ監督は鈴木を指名。わずか4日前の13日に移籍してきたばかりだが、そこに指揮官の厚い信頼が見て取れた。

 その起用にも、鈴木に「緊張はなかった」と言う。

「前半ベンチから見ていて、雰囲気を肌で感じることができたので落ち着けていた。1-1に追いつかれての出場だったので、結果を求めていくだけでした」

J3、J2とゴールし続けてJ1デビュー。

 J3通算64試合31ゴール、J2通算112試合34ゴールと実戦で鍛えられ、経験を重ねてきた叩き上げの選手だ。緊張した様子など微塵も感じられず、ずいぶん前からいる選手のように大胆にプレーしていた。

 鈴木にとってJ1デビューとなった日産スタジアムは、F・マリノスのジュニアユース追浜に所属していた鈴木にとって“聖地”である。地元の友人が駆けつけて声援を送る中、鈴木はJ1のプロサッカー選手として、15年ぶりに聖地に戻ってきたのだ。

「マリノスのジュニアユースに育ててもらったので、このスタジアムでJ1デビューし、しかも勝利で飾ることができて本当によかった」

 鈴木は、笑みを浮かべてそう言った。

 だが、この瞬間に至るまでのサッカー人生は、決して順風満帆ではなかった。

 2012年に法政大からFC町田ゼルビアに入団し、翌年にはJFLで15得点を挙げてレギュラーに定着した。'14年はJ3で19得点を挙げて初代得点王になり、'15年はシーズン12得点に加え、大分との入れ替え戦で2試合3得点を挙げてJ2昇格に導いた。鈴木は町田のエースとして、その名に恥じない結果を出し続けていたのだ。

琉球のスタイルがフィットした理由。

 だが、2016年シーズン中盤にアキレス腱のケガで戦線を離脱。'17年8月に復帰したがチームはカウンター主体に変化し、出場機会を失った。'18年は30試合出場5得点を挙げたもののそのまま契約満了となり、7年間在籍した町田を去ることになった。

 そのシーズンの暮れ、トライアウトに参加し、琉球への移籍を決めたのである。

 琉球は、J3で70得点を挙げた攻撃的サッカーでJ2に昇格してきた。パス主体で連動して崩していくスタイルは、まさに鈴木が求めていたものだった。

 その琉球に鈴木のプレースタイルがフィットし、2019シーズンにブレイクを果たす。J2のシーズン途中の成績とはいえ、27試合15得点は、あっぱれな結果だ。

 それを実現したのは、選手の特徴を素早く把握する“眼”にある。

「選手の特徴を把握し、動きを合わせるのが早い」

 鈴木はこう話している。もともと中盤の選手だったこともあり、選手のどんな特徴を持っているのかをいち早く理解し、把握するのに長けていた。その意識が早く、上手く使えれば自分のためにも、チームのためにもなる。それは今も磨かれている。

加入5日目でも高い適応能力を発揮。

 実際、この日の試合はセレッソに加入してまだ5日目だった。それでも2トップを組んだ奥埜博亮について「自分がいい動き出しをすれば中盤らしい決定的なパスが出てくるので、すごくやりやすい」と相棒のプレースタイルを把握し、さらなる向上に手応えを感じている。FWとして「基本的に誰と組んでもすぐにうまくやれる」と言うように、パートナーを選ばない柔軟性と適応性があるのだ。

 そしてストライカーとして一番必要な、得点感覚の鋭さもある。

「そこに行けばゴールが入るな、っていうのがなんとなくわかるんです。いいタイミングで動くこと。シュートブロックされることが少ないんで、相手のタイミングを外して打つのは得意だと思います」

 マリノス戦はシュート1本を放ったが、そのシーンでは相手に詰められることもなく、ほぼフリーの状況を作った。「ここに行けば」という絶対的な感覚を持っているのは、FWとして大切なことである。

 鈴木のゴールパターンは豊富なのは、その感覚が働いているからこそだ

ロティーナ監督の求めるピースに。

 また攻撃だけではなく、チームとして要求されている守備もしっかりこなしていた。「奥埜選手がすごく走っていたし、みんなも頑張っていた。これが勝つチームなんだなと思った」と、ピッチに入ってから味方の献身的な動きに刺激を受けたようだが、琉球時代も前線からしっかりと守備をしていた選手である。

 上手さとハードワーク、泥臭さを兼ね備えたプレーは、ロティーナ監督の求めるところ。それは水沼宏太藤田直之、奥埜らレギュラーとして起用されている選手たちを見ても容易に理解できる。

 初めてJ1のピッチを経験して、「スピード感が違うし、強度も違う」と、J2との差も感じた。自らのプレーにおいても「相手がハイプレスだったので裏を狙いたかった」と、もう少し冷静に状況を見てプレーすることを課題として挙げた。

 そしてセレッソは2トップなので、1トップだった琉球の時のように全員が鈴木を見て、ボールを出してくれるわけではない。自分がボールを引き出す動きを見せ、パートナーとのコンビネーションで打開していくところも探っていかないといけない。

 ただ、これらは時間を経て慣れていく部分だろう。

 むしろ味方の良さを引き出し、自分の特徴を引き出してもらうことで、攻撃の相乗効果を上げていける。ロティーナ監督は「メンデスとも共存できる」と語っており、今後は鈴木のスタメンも増えてくるだろう。

琉球には「感謝しかないです」。

 琉球に対して鈴木は「すごく濃い半年でした。感謝しかないです」と語っている。試合後、今年3月に琉球からF・マリノスに移籍した中川風希と一緒に写真を撮っていたが、「素晴らしいことですし、琉球のサッカーが評価されたということ」とも笑顔を見せた。

 トライアウトからチャンスを得て、J2昇格組の琉球でセンターFWとして起用される。その半年後にはセレッソに移籍し、30歳でJ1デビューを果たした。

 夢のある話だと思う。

 若い選手がこぞって海外に出ていく中、J2で結果を出して、J1のクラブへの移籍を実現していく。30歳という年齢に関係なく、結果で評価され、自分の夢を掴むことができた。鈴木のステップアップは、「次は俺も」と他の選手の大きな刺激になるだろう。

腐らずに結果を出せばJ1に来れる。

「ここまで簡単な道じゃなかった。ケガもありましたしね。でも、腐らずにプレーを続けて結果を出し、諦めずにやれば、こういう舞台に来れる。僕は、ここ(セレッソ)に来て満足していないし、ここがスタートラインだと思っている。このステージに長くいるためにはゴールが必要だと思っているんで、そこはこだわってやっていきたい」

 そういう向上心の強い、ゴールに貪欲な選手がセレッソには必要だった。

 この時期のオファー、この夏セレッソで唯一の獲得選手であることも鈴木は十分に理解している。

「FWとして5点以上は決めたいと目標を立てています。2試合に1点ぐらいのペースでいければ……それが最低限かなって思いますね」

 課したノルマは、鈴木の能力をもってすれば十分に達成可能だ。

 F・マリノス戦のセレッソイレブンはみな、白いユニフォームを泥だらけにして戦った。

 鈴木の加入でセレッソは仕事人がさらに増えた。今は全員が必死に走って、体を張る、そんな泥臭く勝てるチームに変貌しつつある。

「このくらいやらないと勝てない」

 デビュー戦の勝利でそれを実感できたことは、この先、さらなる高みを目指す鈴木にとって、ひとつの学びになり、いいスタートになった。

(「話が終わったらボールを蹴ろう」佐藤俊 = 文 / photograph by J.LEAGUE)

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