板倉滉が味わった屈辱とめんつゆ。コパ・アメリカで鬱憤を晴らす。

今季オランダに活躍の場を求めるも、出場ゼロに終わった板倉滉。悔しい思いをコパ・アメリカの舞台でぶつける。 photograph by Atsushi Hashimoto

 試合に出られぬ苦味と、それを癒す、めんつゆの甘じょっぱさ。

 板倉滉にとっての、この半年間の思い出の味である。

 今年1月、イングランドの超名門マンチェスター・シティへの移籍が決まった。すぐさまオランダのフローニンゲンへのレンタル移籍が発表され、新たな「欧州組」となった。

 最初の2カ月は、ホテル暮らし。まず、オランダの食事に驚いた。ステーキが、皿の中央にどっかり居座り、その周りにポテト、ポテト、ポテト。注文したくても、レストランのメニューにライスは、ない。それが、何日も続く。

「当初はステーキもポテトも、出されたものは全部、バクバク食べていたんです。チームメイトはみんなこういうものを食べて、あれだけ良い体をしている。体重が減るのは良くないし、僕もいけるだろうって。でも、やっぱりきつかったですね」

「まだ、お前のことを知らないんだ」

 ピッチの中でも、移籍当初はボールやピッチの質の違いに戸惑った。不慣れな右サイドバックのポジションで練習することも多く、Jリーグ時代にはあり得なかったようなミスもした。それでも2月23日、セカンドチームにあたるフローニンゲンU-21で“オランダデビュー”を果たす。

「U-21は、チームごとに対戦相手のレベルがかなり違います。けっこう強いなと感じるチームもあれば、Jリーグよりも圧倒的に劣るチームもある。僕自身が対戦相手の攻撃を見て、『そこでパスをつながずに蹴っちゃうの?』って思うこともありました」

 強度の高いフローニンゲンの練習にも徐々に慣れ、U-21の試合では本職のボランチでもアピールした。しかし、その場にトップチームのダニー・バイス監督の姿はなかった。

 トップチームのリーグ戦では、ベンチ入りは果たすものの、出番がないままタイムアップの笛を聴く日々。痺れを切らし、ある日、監督に直接尋ねた。

「なんで俺を、試合に使わないんですか?」

 指揮官からは、あっさりこう返された。

「まだ、お前のことを知らないんだ」

 フラストレーションと焦りを感じながら、時間だけが過ぎていった。

私生活でも自炊を、筋トレも増えた。

 移籍から2カ月後、ようやく新居が決まった。さっそく、キッチンに立った。

「ステーキやポテトばかりの生活は、コンディションや栄養面を考えても、やっぱり良くない。日本では自炊をしたことがほとんどなかったんですけど、バランス良く食べなきゃと思って」

 初メニューは、板倉流チキンソテー定食。フライパンでチキンとブロッコリー、アスパラを炒め、そこにめんつゆをぶっかけた。

「唯一、家にあった調味料がめんつゆだったんですよ。じゃあ、それでやってみるか。お、意外といけるぞって。以来、毎日のようにそれを食べてましたね」

 食生活だけでなく、ピッチ内での意識も変えた。

「監督が使ってくれないのなら、監督に必要だと思われるようにならないといけない。そのためにも、『自分』と『今』にフォーカスする。目の前の練習に集中する。試合に出られないのなら、その分、筋トレの量を増やせます。たとえ試合前日だとしても、ガンガン鍛えました」

今季は出場ゼロに終わる。

 バイス監督は、“守備の鬼”だ。次の対戦相手のスタイルを徹底的に研究し、どのようにしてプレスをかけるのか、どのようにしてボールを奪うのかを、練習中から事細かく指示する。球際で負ければ、容赦なくカミナリが飛んでくる。

「あの練習を経験したことで、守備の意識は変わったと思います。球際も激しく行けるようになりました」

 手応えは得た。シーズンも終盤に差し掛かり、「やれる」という自信はさらに深まった。家に帰れば、野菜や味付けのバリエーションも増えた“板倉定食”をもりもり食べて、デビューの瞬間に備えた。

 しかし、残念ながら2018-2019シーズン、板倉がオランダリーグのピッチに立つことはなかった。悔しさと、焦りを嫌というほど味わったことは、本人の表情を見れば、十分に伝わってくる。それでもあえて聞いてみた。

 欧州に行って、良かったと思いますか?

「無理やりにでもポジティブに」

「よく、海外組の人が『できるだけ早くヨーロッパへ行ったほうがいい』と言いますよね。僕の場合、試合にも出ていないし、まだ何も始まっていないですけど、それでも行って良かったと思います。言葉も通じず、普段の生活でも大変なことがある。日本に帰りたいと思ったことは何度もあります。

 それでも、今季の経験が絶対にこの先につながると、無理やりにでもポジティブに考えています。これまでの僕のサッカー人生も、ステップアップするたびに、まず壁にぶつかって、それを乗り越えてきましたから」

理想はブスケッツとヤヤ・トゥーレ。

 壁を乗り越えるチャンスは、突然やって来た。コパ・アメリカに臨む日本代表メンバー入り。その報せを聞いたときは、板倉自身も驚いた。正直、試合勘への不安はある。でも、それ以上に闘志と、責任感がある。

「選んでくれた森保一監督のためにも、しっかりやりたい。世界を代表するチームや選手と、コパ・アメリカの舞台で試合ができることは、自分にとって絶対にプラスになるはずです。負ける気はないです。ディフェンスの選手が言うことじゃないかもしれないですけど、点取ります」

 理想とするのは、セルヒオ・ブスケッツのように中盤で自在にパスを散らしつつ、ヤヤ・トゥーレのように自らボールを運んでゴールまで決めるボランチである。

 昨年1月のAFC U-23選手権では、パレスチナとの初戦でハーフライン付近からドリブルとワンツーで相手ゴール前に侵入し、決勝点となる見事な右足シュートを流し込んだ。

 今度はそれを、コパ・アメリカで。この半年で溜まった鬱憤を、ブラジルで晴らしてこい。

(「サッカー日本代表PRESS」松本宣昭(Number編集部) = 文 / photograph by Atsushi Hashimoto)

ジャンルで探す