走り方次第で“誰でも足が速くなる” 元盗塁王を指導…専門家が伝授する極意

プロトレーナーの安福一貴さん【写真:伊藤賢汰】

プロトレーナーの安福一貴さん【写真:伊藤賢汰】

プロトレーナーの安福一貴氏は片岡保幸さん、高橋由伸さんらをサポート

 打撃や投球と同じように、走塁の上達にも知識や技術が必要になる。足を武器に西武や巨人で活躍した片岡易之さん(登録名は当時、現・保幸さん)らプロ野球選手をサポートしているプロトレーナーの安福一貴さんが、速く走るために必要な「3つのポイント」を明かした。地面を蹴る動きや全力疾走は逆効果で、走る技術を身に付ければ誰でも今より足が速くなる可能性が十分にあるという。

 安福さんは走りを指導するプロとして、西武で4年連続盗塁王に輝いた片岡さんや元巨人の高橋由伸さんをはじめ、多数のプロ野球選手のパーソナルトレーナーを務めている。今月4日には東京・荒川区の中学軟式野球チームを訪れ、走り方やトレーニング方法を伝えた。

 安福さんは個々に走力の違いがあるものの、走り方次第で誰でも足は速くなると考えている。そのためには走る技術が必要と強調する。

「打撃や投球を上達させる時に技術が求められるように、盗塁や走塁にも技術があります。足の速さは盗塁の成功率や走塁の上手さと必ずしも比例しません」

 片岡さんも安福さんのサポートを受けて走る技術を習得し、プロ野球界を代表する選手まで駆け上がった。本格的に走りを追求し始めたのは2005年のオフ。この年、片岡さんはプロ1年目のシーズンで81試合出場に出場し、6盗塁に終わった。

中学生を指導した安福トレーナー【写真:伊藤賢汰】

中学生を指導した安福トレーナー【写真:伊藤賢汰】

地面は蹴るではなく「叩く」 接地時間を短くしてスピードアップ

 厳しい世界で競争を勝ち抜くには「足を武器にするしかない」と考えた片岡さんは、安福さんにサポートを求めて二人三脚で走る技術を磨いた。2006年は28個まで盗塁の数を増やし、2007年から4年連続で最多盗塁のタイトルを手にした。安福さんは、こう振り返る。

「走り方の基本を徹底的に鍛えて、盗塁数を増やすために何が必要か向き合っていました。技術を吸収しようする姿勢と覚悟が、盗塁王を獲るまでの選手になれた理由だと思います」

 安福さんが指導する走り方の基本は主に3つある。まずは、つま先で地面を叩くこと。速く走るためには、地面を蹴るのではなく、足と地面が接地する時間をできるだけ短くする叩く動きが重要になる。

「地面を蹴りたがる選手は多いのですが、地面をつかむ感覚がほしいからです。ただ、地面と足が接する時間が長くなるほど反発力は下がるので、スピードが出なくなります。地面をつかむのではなく離す、地面は蹴るのではなく叩く動きが大切です」

 地面をつま先で叩く動きは技術が必要で、例えば正面から両足の動きを確認した時に足の裏が見えるように足首を使う。ドリルを繰り返して、理想の動きを身に付けていく。

腕の振り方は「後ろを大きく」 力みにつながる全力疾走は逆効果

 腕の振り方にもポイントがある。安福さんが繰り返したのは「前は小さく、後ろは大きく」。空気抵抗は少ない方が速く走れるため、走り方は前傾姿勢が理想となる。そして、腕を振る時に後ろを大きくした方が前傾を保てる。安福さんは胸を張ってゆっくり歩く行進を例に挙げ「前を大きくして腕を振ると体が起きやすくなります。速く走る時は逆の動きが必要で、腕を後ろに大きく振って体がのけぞらないようにします」と説明した。

 3つ目のポイントは、全力で走らないこと。速く走りたい気持ちが強すぎて力を入れ過ぎると、力みにつながってスピードは出なくなる。打撃や投球でも、インパクトやリリースの瞬間に最大限の力を出すためには、いかに脱力するかが重要になる。

「思い切り走ることが一番速いという固定観念に捉われないことが大切です。今の力の入れ方では盗塁は成功できないのではないかというくらいの感覚の方が結果は良くなります」

 相手チームにプレッシャーをかける武器となる足。スピードを高めるには、打撃や投球と同じように技術の習得が不可欠となる。

○安福一貴(やすふく・かずたか) 東京都出身。プロトレーナーとして、2003年に独立。約20年間、プロアスリートをメインとして、計4000人以上のトレーニングを指導。数年間のインストラクター経験と整体学、整骨学の知識を活かし、プロトレーナーに。元巨人の高橋由伸氏、西武時代の片岡易之氏(登録名は当時、現・保幸)をはじめ、多くのプロ野球選手が師事。2016年に東京・五反田にパーソナルジム「STARTUG」オープン。2020年に株式会社スタークレス設立。(間淳 / Jun Aida)

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