女子日本代表・六角が明かすクラブチームでプレーする理由 女子野球の課題とは?

「女子硬式野球 侍」でプレーする六角彩子【写真提供:竹村裕児】

「女子硬式野球 侍」でプレーする六角彩子【写真提供:竹村裕児】

世界一経験者自ら女子野球界発展に尽力

 今や野球は男女共に楽しめるスポーツとなった。女子野球の日本代表「マドンナジャパン」は昨年開催されたワールドカップで6連覇を達成するなど、世界でも無類の強さを見せている。それでも女子野球という競技について考えた時、国内外での普及・発展は長年の課題だ。

 現在、日本における女子野球は、男子同様にプロを頂点に、高校や大学、クラブチームなどが存在し、多くの選手が白球を追っている。世界ランキングでも堂々の1位に輝く日本は、まさに海外の手本となるべき存在だ。そんな女子野球界を牽引する旗頭の1人でもある六角彩子内野手に話を聞いた。

 六角は茨城県出身で9歳から野球を始める。小学生から日立リトルリーグに所属し、硬式野球を経験。その後は埼玉栄、帝京平成大学と進み、現在はNPO法人「女子硬式野球 侍」(以下、侍)でプレーしている。本職は三塁手で、里綾実投手(愛知ディオーネ)や、先日引退を発表した川端友紀氏(元埼玉アストライア)などプロ選手も出場したW杯で、これまで4度優勝の原動力となった。

 世界一も経験し、球界を代表するとなった六角は、なぜプロではなくクラブチームでプレーするのか。それはチームが掲げるモットーが深く関係している。

「侍のモットーは『女子野球の競技人口を増やす』と『指導者を育成し、競技レベルを引き上げる』の2つです。まさにこれらは女子野球全体の課題でもあります。特に、近年は競技人口が増えていると聞いているので、未来は明るいですね。後は競技自体の認知度をどのように高めるかも大事になります」

 侍では競技普及の一環として、毎年「SAMURAI BASEBALL FESTA」を行っている。昨年12月にも埼玉県立富士見高校で開催され、これで6回目を数えた。参加対象は野球が大好きな女性(年齢問わず)や初めて野球を体験したい人、よりレベルアップを目指す人。六角は「イベントには約40人の女の子が参加してくれました。中には普段は男の子に混じっていてプレーしていて遠慮しがちな人や、初めて女の子同士でプレーしたという人もいました」と参加者の様子を振り返る。

 競技人口が増えつつあるが、現状ではまだまだ選手の受け皿が少なく、特に中学では「女子だから」という理由で野球部に入れない事例もあるという。この状況を受けて六角は「女の子同士でもプレーできる環境整備が必要です」と力強く訴えた。女子野球W杯で6連覇という輝かしい成績を残すマドンナジャパンの姿を見て、プレーしたいと思っても続けることができず、諦めてしまうケースもある。実際に代表ユニホームを着て頂点に立った経験を持つ六角は、まさに多くの選手にとって「憧れ」の存在だ。だが、代表選手としての責務も知るだけに、自らの技術向上だけにとどまらず、球界全体の発展を願い、行動している。

世界にも広めたい競技普及の動き

 女子野球界の課題でもある「競技普及」は日本国内だけではなく、世界全体にも目が向けられている。現在、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が発表している世界ランキングでは、日本やカナダ、台湾など計14の国と地域がポイントを得ている。たとえランキング外でも女子が野球を楽しむ国や地域はあり、六角は昨年12月初旬、スリランカに足を運んだ。

「昨年12月、外務省が中心となって行っているスポーツ振興事業の一環でスリランカに行きました。他にも山田博子さん(全日本野球協会理事)や志村亜貴子さん(マドンナジャパンコーチ)、中島梨紗さん(元埼玉アストライア監督)が参加して野球教室をしました」

 野球教室開催にあたり、スリランカでは事前に野球に興味がある人を募集した。その結果、首都コロンボ、そしてスリランカ中部に位置するキャンディの2都市で、参加者の合計はなんと80人に上った。2018年4月、国内初の女子野球大会「スリランカ女子野球選手権」が開催されており、現地では盛り上がりを見せている。スリランカ女子野球は、主に軍隊と学生チームが中心だ。野球教室に参加した選手たちは広角に打ち分ける打撃や、捕球から送球するまでの一連の動作など、世界トップクラスの技術に釘付けになり、1つでも自分のものにしようと熱心な姿を見せたという。

 スリランカでは驚きの出来事もあったという。

「野球教室を見に来ていたスリランカの学校の先生が興味を持ってくれて『明日、学校で野球部を作る』と宣言したんです。そうしたら、次の日、本当に創部したそうなんです」

 日本が目指す「競技普及」が、思いがけないスピードで形となった。

 日本で行われる野球教室は、一般的に1度きりの開催で教えた選手とはその場限りの交流に終わるケースが多いが、スリランカから帰国後1か月が経過した今でも、六角の元には交流した選手からプレー動画が送られてくるという。

「野球教室で日本の練習方法を見せることは、参加者には強さの秘密を知る機会となります。それがより広がれば、スリランカをはじめ、海外の競技レベル向上につながると思います。こうして送られてくる動画を見ると技術的に上手くなっていますし、情報交換をすることでお互いに成長できるので嬉しいですね」と、六角は海外の選手と交流する喜びを語った。今回のスリランカに加え、過去にはニュージーランドや香港でも野球教室に参加。今後も海外の女子野球発展のために尽力していく。

「日本の練習を見せる」――六角が語ったこの言葉は、日本には強さだけではなく、世界の女子野球界を牽引していく役割があると訴えているようにも聞こえる。実際に2017年9月に香港で開催された「第1回BFA女子野球アジアカップ」では、試合前後にパキスタンやインドの選手たちに日本の技術を教えるなどの交流も行われていた。日本国内での競技発展のための活動はもちろんのこと、同時に世界にも貢献していく必要がある。やるべきことは多いが、その分伸びしろがある。今後の女子野球界全体の発展に期待したい。(豊川遼 / Ryo Toyokawa)

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