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【内田雅也の追球】見えない心が“見えた” 阪神の勝利呼んだ梅野の気迫と考え

<日・神>9回1死、梅野は遊撃への打球で一塁にヘッドスライディングし、内野安打とする(撮影・椎名 航)

 ◇交流戦 阪神4ー2日本ハム(2021年6月10日 札幌D)

 阪神の勝利を呼んだのは梅野隆太郎だと見ている。

 一つは攻撃面である。5回表と9回表の安打が起点となって、ともに生還を果たした。

 5回表は併殺で2死無走者と好機が去ったかに見えた直後、中前打で出た。6月に入り、前日まで8試合で26打数2安打の打率・077。安打は5日のソフトバンク戦(甲子園)以来、13打席ぶりだった。

 次打者・近本光司の2球目に走った。相手の新外国人ロビー・アーリンは左投手でよくあるように、クイック投法は使わない。走者一塁でも右足を上げて投げる。手もとの計測で走者一塁時でも投球タイムの多くは1秒30以上かかっていた。

 つまり、けん制球さえかいくぐれば、二盗はたやすい。2回表にはジェリー・サンズも今季初の盗塁を決めている。恐らく、けん制のクセを把握していたのだろう。背景にはむろんスコアラーやコーチ陣の分析がある。

 この成功確信と言える梅野二盗が効いて、中野拓夢の右前打で先制の生還を果たした。

 9回表は1死から遊ゴロで疾走し内野安打で出た。何もヘッドスライディングだから書くのではない。目には見えない気迫が伝わる出塁だった。2死後、敵失で貴重な追加点を奪った。

 リードも光った。先発のラウル・アルカンタラを7回裏先頭で強襲打を浴びて降板するまで、無失点の好投を引き出していた。

 これまで当欄で指摘してきたが、課題だった走者を背負ってからの投球を克服していた。過去最も多く失点していた6回も乗り切った。なぜか。

 ドミニカ共和国出身のアルカンタラは真っ向勝負を好む。大リーグ流でもある。

 その大リーグで名コーチとして知られたクレイグ・R・ライト、トム・ハウスの共著『ベースボール革命』(ベースボール・マガジン社)に名捕手の言葉がある。同書は日本で1993年の発行で『21世紀への野球理論』と副題がついていた。もう28年も前の書だが、今にも通じている。

 「もし、投手の長所が相手打者の弱点を攻めることができるなら、そうするだろう。だが私は弱点と弱点を測るのではなく、長所と長所の闘いを信じている」

 梅野は、ボール球で誘う日本流を無理に強いることなく、ストライク勝負でいったのだ。

 この夜、アルカンタラが2ストライクと追い込んだ直後、ボール球だったのは14人中2球だけ。他はファウル3に3三振を含め凡退が9。無安打だった。0ボール2ストライク後、3球勝負にいった打者も5人あった。

 無理に日本式を求めず、投手の性格や長所を生かそうとしたのだ。

 『星の王子さま』でキツネが王子さまに言う。「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」

 ただ、時には大切な闘志や気迫、そして配球(考えや狙い)が見える時がある。この夜は梅野の心が見えた気がした。 =敬称略= (編集委員)

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