楽天の田中将大の退団問題に「メジャーから復帰時に高額契約したことが間違い」「三木谷オーナーの先見性に疑問」「ヤクルト以外に動く球団はない」と球界大御所がモノ申す
日米通算200勝まで残り3勝に迫っている楽天の田中将大(36)の退団が波紋を広げている。球団は水面下で行われた契約更改で、野球協約で定められている減額制限(1億円以上で40%、今回の田中の場合は1億400万円)を超えた減俸を提示。田中がそれに合意しなかったため、11月30日に提出する保留者名簿に名前を載せることができず、本人の希望を承諾して自由契約となった。田中は他球団での現役続行を希望しているが、巨人OBでヤクルト、西武で監督を務めた“球界大御所”の広岡達朗氏は「そもそも3年前の高額契約が間違っている」などと問題提起した。
「力は落ちている。来季10勝するのは100%無理だろう」
マー君の楽天退団が球界に波紋を広げている。
守秘義務があることから交渉内容の詳細は明らかにされていないが、日本シリーズ終了後から始まった契約更改で、球団は、今季推定年俸2億6000万円の田中に対して減額制限(田中の場合は約1億円)を超える減俸を提示し、右腕がこれに合意せず「最後は本人から自由契約にして欲しいということだった」(石井一久シニアディレクター)と自由契約を選んだ。
日米通算200勝まで、あと3勝に迫り、2013年には24勝0敗1Sの成績で球団初の日本一に貢献した。ポスティングにより7年1億5500万ドル(当時のレートで約161億円)の大型契約でヤンキースに移籍したが、当時のレートで20億円近くのポスティングフィーが球団に支払われている。
楽天復帰後は、負け越しが続き、期待に応えられなかったとはいえ、楽天のアイコンとも言える大功労者の退団劇に様々な意見が飛び交う事態となっている。
ロッテで日本球界初のGMを任され、楽天の立ち上げ期には、三木谷オーナーから球団運営についての相談を受けたことがある広岡氏は、今回のマー君の退団劇をバッサリと斬った。
「楽天もバカじゃない。年齢と共に力が衰えるのは自然の理。いくらを提示したか知らないが、1勝もしていない投手に1億円も払うことはしないだろう。1勝もしていない投手に大幅減額するのは当然だ。だが、そもそも3年前にヤンキースとの契約が終わり、力の落ちた田中を高額な契約で日本に呼び戻したことが間違っている。9億で2年?ナンセンスだ。田中は故障が多く、ヤンキースでもう力を使い果たしていたのだ」
マー君は、ヤンキースでの7年間で、6年連続で2桁勝利をマークし、計1054イニング3分の1を投げた。ヤンキースとの契約が終わりFAとなった段階で、メジャーのオファーもあったが、楽天復帰を決断し、NPBで史上最高額となる推定年俸9億円の2年契約を楽天と結んだ。当時は32歳。まだ力が落ちたわけではなかったが、1年目は、4勝9敗、防御率3.01、2年目は9勝12敗、同3.31に終わったため、契約更改で、減額制限を超える4億2500万円ダウンの推定4億7500万円となり、3年目も7勝11敗、同4.91と勝ち越せず、年俸は、さらに2億1500万円ダウンの推定2億6000万円+出来高払いとなっていた。
今季は昨年10月に行った右肘のクリーニング手術の影響もあり、開幕は2軍スタートとなり、1軍で登板したのはわずか1試合。その9月28日のオリックス戦では、5回93球を投げて6安打4失点で負け投手となっている。ストレートの最速は147キロだったが、平均球速は143キロで全盛期には程遠い内容。球団が1億円以上の減額を提示したのも無理はない。ただ各社の報道によると、一方の田中は、球団との協議は15分ほどで、自由契約を選んだのは、カネの問題ではなく「もう期待をされていない」と感じて居場所を失ったことだと明かしている。
広岡氏がこう続ける。
「3年前に復帰の最終決断をした三木谷オーナーの経営者としての先見性にも疑問が残る。今年の監督問題もそうだ。また1年でクビにした。経営者に我慢がなくて、チームの強化や、育成なんかできるわけがない」
楽天は、交流戦で優勝を果たすなど最後までクライマックスシリーズ進出争いを繰り広げて4位に終わった今江敏晃監督を1年で解雇し、2軍監督の三木肇監督を再登板させた。1年でクビにしたのは、初代監督の田尾安志氏から始まり、マーティー・ブラウン氏、大久保博元氏、平石洋介氏、三木氏に続き6人目。広岡氏はかつて三木谷オーナーに経営者として我慢の必要性を説いたが、その頃からすぐにでも優勝したいとの考えがあり、「何も変わっていないな」と感じたという。
田中は他球団での現役続行を希望している。
そして自らのYouTubeチャンネルで「来季はどこでプレーするかというのは、まだ何もわからない状態ですけども、今の自分はいいコンディションで、いいトレーニングを積むことができています。来季は今年投げられなかった分、さらにしっかりと投げて、戦っていきたいなという風に思っているので、引き続きしっかりと準備をしてオフシーズンを過ごそうかなと思っています」と意欲を語った。
「田中は、なんとしても日米通算200勝を達成したいのだろう。今年は、ほぼ1年間何もできなかったが、故障が治った手応えがあり、最後に一花を咲かせたいと、来年にかけていたところで、その気持ちを折られるような球団の態度に思うところがあったんだと思う。だが、もう10勝するなんてことは100%ない。どこに移籍しても結果を残すのは難しいだろう。スポーツ新聞でヤクルトが興味を示しているという記事を見たが、ヤクルト以外に動く球団はないんじゃないか」
田中の投球術は評価されており、右肘に問題がなければ、複数の球団が獲得に乗り出すとの予想もある。一部のスポーツ紙はヤクルトが調査に乗り出したことを報じているが、広岡氏の見立ては厳しい。
「メジャーでの経験をチームに持ち帰り勝利に貢献したという選手がいないわけではない。今年のソフトバンクの有原航平や引退したヤクルトの青木宣親、広島の黒田博樹もそうだろう。だが、ほとんどのメジャー帰りの選手が、高額な契約にふさわしい結果を残していない。その典型が松坂大輔だ」
広岡氏が指摘するように、レッドソックスなどで活躍した松坂大輔は、ソフトバンクと推定3年12億円の契約で復帰したが、故障に苦しみ3年で1試合しか投げずに退団し物議を醸した。その後、移籍した中日で6勝をマークするなど復活を遂げたが、最後は、古巣の西武に移籍してユニホームを脱いでいる。
だが、一方でメジャーから日本復帰後に結果を残した選手がいないわけではない。投手では今季14勝7敗で最多勝を獲得して、ソフトバンクのリーグ優勝に貢献した有原航平もレンジャーズから復帰して2年目の右腕。復帰1年目も2桁勝利をマークしている。他にもレンジャーズから阪神の伊良部秀輝(13勝8敗)、メッツからヤクルトの石井一久(11勝7敗)、ヤンキースから広島の黒田博樹(11勝8敗)らも2桁勝利をマークしている。
また野手では、現日ハム監督の新庄剛志が2004年に日本ハムで打率.298、24本塁打、79打点の打率の自己ベストを含む好成績をマーク。2006年にはチームを日本一に導いた。マリナーズから阪神に入団した城島健司も復帰1年目だけは、打率.303、28本塁打、91打点の活躍を見せた。しかし、広岡氏が指摘するように、高額な契約に見合う成績を残せた復帰組はそう多くはない。
横浜DeNAの筒香嘉智は、推定年俸3億円の3年契約(3年目は変動)で開幕直後にメジャーから復帰して、ソフトバンクとの日本シリーズでは優秀選手賞に選ばれるなど“下剋上日本一”に貢献したが、シーズンではスタメンを外れる機会も多く、57試合に出場して、打率.188、7本塁打、23打点に終わり、期待されていた結果を残せなかった。
「今オフも多くの選手がメジャーに出ていくが、将来的に日本に帰ってくる際にもなんらかのルールを作っておく必要があるのではないか。そして契約について言えば、出来高払いに大きくシフトした契約にするべきだ」
広岡氏はそう問題提起した。田中の今後の動向に注目が集まる。
11/27 07:03
RONSPO