「大谷翔平は立っているだけで違いを生む存在感を示した」米メディアは“世界一”ドジャースの勝因として亜脱臼を負い「無理だと思った」と明かす7億ドルスターを評価

 ワールドシリーズ第5戦が30日(日本時間31日)、ニューヨークのヤンキースタジアムで行われ、ドジャースが7―6でヤンキースに逆転勝利し、対戦成績4勝1敗で4年ぶり8度目の“世界一”を成し遂げた。「1番・DH」で出場したドジャースの大谷翔平(30)は4打数ノーヒットだったが、8回に打撃妨害で出塁して勝ち越し舞台を演出、移籍1年目に悲願の世界一リングを手にした。米メディアはドジャースの勝因を分析する中で、第2戦で左肩の亜脱臼をした大谷を「ただ立っているだけで違いを生む存在」と評価した。シリーズMVPには第1戦の逆転サヨナラ満塁弾を含む、シリーズで4試合連続本塁打を放ったフレディ・フリーマン(35)が選ばれた。

「最高の終わり方ができて最高の1年だった」

 デーブ・ロバーツ監督はとっておきの勝負手を9回に打った。
 王手をかけた第3戦に先発したウォーカー・ビューラーを中1日でスペシャルクローザーとして7-6で迎えた最終回に8人目の投手として起用したのだ。2018年以来6年ぶりの救援登板となったビューラーは、7番のアンソニー・ボルペーから始まるヤンキース打線を3人でピシャリ。最後、アレックス・バートゥーゴのバットが空を斬った瞬間、いまかいまかとベンチの最前列に身を乗り出していた大谷がマウンド上の歓喜の輪に向かって走り出し、第2戦で勝利投手となった山本由伸も手すりを乗り越えてダッシュした。
 全ナインと抱き合い、世界一の喜びを嚙みしめた大谷は、フィールド上で中継局「NHK」で解説を務めていた日ハム時代の先輩である田中賢介氏の“世界最速”インタビューに応じた。
「新しいチームに来て最高の終わり方ができて最高の1年だった」
 それが第1声。
「ヒリヒリする戦い」を求めてエンゼルスからFAで10年7億ドル(約1040億円)のメジャー最高額となる大型契約でドジャースに移籍した。その選択は間違いではなかった。
 大谷は続けて「ドジャースはどんなチームだったか?」と聞かれ「良い選手でもあり、いい人達でもあり、まとまった素晴らしいチーム」と返して日本のファンへ感謝のメッセージを伝えた。
 表彰式では、ワールドチャンピオントロフィーを満面の笑みで抱きかかえた。すぐにロッカー内でシャンパンファイト。びしょ濡れになりながら、再び「NHK」のインタビューに応じた。
「最高以外の言葉がないというか本当に素晴らしい1年だった」
 シャンパンファイトはナ・リーグの西地区優勝、ディビジョンシリーズ、ナショナルチャンピオンシップシリーズに続き4度目となるが「最後は最後で1番格別のシャンパンファイトなので、もう先(試合が)ないですし存分に楽しみたい」と答えて、大はしゃぎしていた。
 3勝1敗で迎えた第5戦はヤンキースの大攻勢から始まった。
 1回に、このシリーズで沈黙していたアーロン・ジャッジが逆方向に先制2ランを叩き込み、第4戦から4番に抜擢されているジャズ・チザムJr.も連続アーチ。いきなり3点を奪うと、2回にも1点を追加、3回にはジャンカルロ・スタントンにも一発が飛び出して5-0と大量リードを奪った。
 その中で大谷は第1打席はゲリット・コールの初球を狙ってセンターフライ、3回二死一塁の第2打席は、なでるようなバッティングでレフトフライに倒れた。
 26日(日本時間27日)の第2戦で盗塁を試みた際に左肩を亜脱臼した。それでも1試合も欠場することなく、第3戦から強行出場を続け、試合を重ねるごとにスイングの強度は上がっていたが、まだ本来のフルスイングはできていなかった。

 

 

 それでもドジャースはあきらめていなかった。
 5回にジャッジの落球、ショートのアンソニー・ボルぺーのフィルダーチョイス、ゲリット・コールが一塁ベースカバーを怠るなどヤンキースが犯した「3つのボーンヘッド」につけこみ、一気に5点を奪い、同点に追いついた。ヤンキースも粘り、6回にスタントンの犠牲フライで、再び6-5と勝ち越す、死闘となったがドジャースも負けていない。
 8回だ。キコ・ヘルナンデス、トミー・エドマンが連打。さらにウィル・スミスが四球を選び、無死満塁にするとラストバッターのギャビン・ラックスがセンターへ同点の犠牲フライ。さらに一死一、三塁の最高の場面で大谷に打順が回ってきた。
 大谷は初球からスイングした。ファウルチップに終わったが、直後に大谷がバットにミットが当たったという打撃妨害を球審にアピール。それが認められ、ムーキー・ベッツにつないだ。ベッツがセンターへ犠牲フライ。右手でガッツポーズを作ったベッツのそれが世界一を決める決勝点となった。
 大谷は試合後のフィールド内から生中継された「フォックススポーツ」の番組に出演。ヤンキースの“レジェンド”デレク・ジーター氏、アレックス・ロドリゲス氏、そしてレッドソックスの“ビッグパピ”ことデビッド・オルティス氏という豪華メンバーから次々と質問を受けた。
 第3戦で始球式を務めたジータ氏から「勝ったことで左肩が良くなったのでは?」とジョークを交え、亜脱臼を負ってもプレーを続けた責任感について聞かれると、「怪我をした直後はシリーズは無理かなと思ったが、その後の処置も含めて(チームとナインが)『必要だ』と言ってくれたことが僕にとってうれしかった。最後までプレーしたいという気持ちにさせてくれたのが大きかった」と正直な心境を明かした。
 米メディアからも大谷の存在感を称える声が相次いだ。
 地元紙の「ロサンゼルスタイムズ」は「歴史上最も素晴らしいチーム、歴史上最も素晴らしいポストシーズンの戦い」と絶賛。
「これはワールドシリーズMVPのフリーマンの強打、ベッツの躍動、テオスカー・ヘルナンデスの打棒、トミー・エドマンの一打、そして肩を痛めた大谷翔平のただ立っているだけで違いを生む存在感によるものだった」と勝因を分析した。

 

 

「不安定な先発ローテーションが金色に輝きブルペン陣が鋼鉄のように変わった」と、クレイトン・カーショー、タイラー・グラスノー、ギャビン・ストーンの先発の3本柱を欠きながらも、カバーした山本や安定していたブルペン陣を評価した。
 スポーツ専門局「ESPN」も大谷&山本らの大型補強効果を勝因にあげると共に、続出した故障者を乗り越えた団結力を評価した。
「ドジャースは、2人の世代を代表する選手である二刀流スターの大谷と若手の先発、山本に対し派手に10億ドル(約1529億円)以上を使った。グラスノーをトレードで獲得し巨額契約延長で合意した。テオスカー・ヘルナンデスも1年の大型フリーエージェント契約でやってきた」
 そう紹介した上で「故障者が2024年のレギュラーシーズンでチームを痛めつけた。山本、ベッツ、マックス・マンシー、ブレーク・トライネンやブラスダー・グラテロルが長期欠場し、グラスノー、カーショー、ストーンやエメット・シーハンらローテーションの鍵となるメンバーをシーズン終了となる故障で失った。さらに西地区の優勝が決定した試合でフリーマンが右足首を捻挫。ワールドシリーズで主導権を取った夜には、大谷が左肩の亜脱臼に見舞われた。しかし、ドジャースは進み続けた」と説明し、ポストシーズンの戦いを振り返った。
 また4-11で大敗した第4戦に勝ちパターンの中継ぎ陣を温存して、この日に8投手を投入したロバーツ監督の計算ずくの采配を称えた。
 USAトゥデイ紙も、「彼らは壊滅的な故障の数々に見舞われた。15人の投手が負傷者リストに入り、オールスター選手のベッツ、フリーマン、マンシーが数か月にわたり欠場した。チームは、しおれる代わりに、生き延び野球界の頂点に立った」と、ワールドシリーズで亜脱臼を負った大谷ら故障者が続出するチームの危機を乗り越えた“団結力”を賞賛した。
 同紙は、ロバーツ監督の優勝コメントをこう紹介している。
「我々がやり通したようなシーズンは決して予測できないものだが、そこにはしっかりと立ち続ける才能あふれる選手たちがいた。打撃を受けたが、組織的な力で適切な選手、適切な人間をチームは得ている。ただ才能は大きいが、それがすべてではない。団結しなければならない。クラブハウスに適切な選手たちを得るという点で素晴らしい仕事ができているのだと思う」
 ロバーツ監督も大谷と何度も抱擁し世界一の感激を共有していた。

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