ドラフトでのオリックス6位指名を巡る「謎の20分間中断」の真相は…取り下げた「X」はスタンフォード大の佐々木麟太郎だったのか?!

 ドラフト会議が24日に終わり各球団の指名挨拶が始まっているが、今なおファンの間で「謎」として話題となっているのが、オリックスの6位指名を巡っての20分間の中断だ。オリックスは、NPB関係者の“説得”を受ける形で当初指名する予定の選手を取り下げて、NTT東日本の片山楽生投手(22)を指名したが、その取り下げた「X」が花巻高から米国の名門、スタンフォード大に進学した佐々木麟太郎内野手(19)だった可能性が浮上してきた。花巻東高に在籍していた昨年は、プロ志望届を出さず米留学を決めたが、野球協約では、海外の大学に進学した選手への年数や年齢制限はなくドラフト指名は可能だった。

 

 ドラフト会議で“謎の20分間”があった。
 中日が6位で聖カタリナ高の有馬恵叶投手を指名し、次にオリックスが6位を指名する順番になって、突如、会議がストップした。NPBの幹部らがオリックスのテーブルへかけつけて、湊通夫球団社長兼オーナー代行、福良淳一GM、牧田勝吾スカウト兼編成部副部長らと何やら協議が始まったのだ。初めてドラフトに参加すする岸田護新監督も困惑の表情でその様子を見守っていた。多くのファンで埋まっていた会場は、ざわついた。
「今しばらく再開までお待ちください」
 途中、場内アナウンスが入った。これも異例だ。
 結局、中断は、約20分。オリックスはNTT東日本の片山投手を指名した。
 スポーツ各紙の報道によると、湊球団社長は「該当する選手に載ってないので(NPBから)どうされますかと言われた」と協議の中身を明かした。。
 NPBが、プロ志望届を提出した選手などを対象に事前に作っていた「該当選手リスト」に名前のなかった選手をオリックスが、6位指名の選手としてテーブル上のパソコンに入力したのだ。湊社長は、その選手の素性や立場については「何も言えない」と言葉をつぐみ、NPB側の説明に納得した上で、その「X」を「最終的には取り下げて」片山投手に選択希望選手を変えたことを説明している。
 では、そのNPBの該当リスト外の「X」は誰だったのか?
 関係者の話を総合すると、浮かび上がってきた名前は、この9月からスタンフォード大に進学したばかりの左打ちの“超大砲”の佐々木だった。
 佐々木は、大谷翔平菊池雄星を輩出した花巻東高時代に、高校生の通算最多本塁打となる140本塁打をマーク。夏の甲子園でもベスト8へチームを牽引するなどの活躍をした。2023年のドラフトの目玉だったが、父で同校監督である洋さんのススメなどもあり、プロ志望届は出さずに「合格率3%」という超難関のスタンフォード大への進学を決めた。その際「覚悟を持って決断した。2、3年後には大リーグや日本のプロ野球のドラフト会議で指名してもらえるチャンスもあるので、未熟な部分をレベルアップして指名をもらえれば」との意向を口にしていた。
 佐々木は「2、3年後」という具体的な期間を示して、メジャーとNPBの両にらみであることを明かした。メジャーのドラフトは、4年制の大学では3年修了時点、または2年以上の在学で21歳以上の選手が対象となる。2026年4月に21歳となる佐々木が、メジャードラフトの対象選手となるのは2年後。しかし、NPBドラフトに関しては、その制限はない。
 野球協約の「新人選手選択会議規約」の第1条では、ドラフトの対象選手(新人選手)を「日本の中学校、高等学校、日本高等学校野球連盟に加盟が認められている学校、大学、全日本大学野球連盟に加盟が認められた団体に在学し、または在学した経験を持ち、 いずれのNPBの球団とも選手契約を締結したことのない選手。日本の中学校、高等学校、大学に在学した経験を持たない場合であっても日本国籍を有するもの」と定めている。

 

 

 さらに社会人に進んだ場合、高卒は3年、大卒は2年契約ができず、中退選手については、ドラフトの年の4月1日以降に退学した選手は対象外となることも規定されている。海外のプロチームと契約した選手についての規定はあるが、海外の大学へ進んだ選手についてメジャーのような年数制限や年齢制限などの規定はない。
 またプロ志望届は、翌年卒業見込みでの高校、大学生を対象にしたもので、卒業生に届け出の必要はない。つまりオリックスが、指名するつもりだった「X」が佐々木だったとしても、規定上は、なんら問題はなかったのだ。
 なのになぜNPBは「どうしますか?」と暗に指名の取り下げを求めたのか。
 米国の大学へ進学した選手に関しての規定がない盲点を突く形で、オリックスがスタンフォード大との事前の協議もないまま、ドラフト指名を強行した場合、野球界における“日米関係問題”に発展する恐れや、今後、日本からスタンフォード大への進学を目指す選手へ影響を及ぼす可能性もある。
 加えて過去に例のない形でのチャレンジを決め、難関を突破して授業料や寮費を免除される待遇で、この9月から晴れてスタンフォード大生となり、11月から始まる公式戦や、来年2月から始まる大学リーグを待つ佐々木が、それを蹴ってまで6位指名のオリックス入団に舵を切ることも考え辛い。
 これまで日本と外国の二重国籍を持ち、海外の学校に在学、あるいは在学していた選手を指名したケースはあった。昨年はヤクルトが育成1位で台湾の鶯歌工商に在籍していた高橋翔聖投手を指名。2022年には日ハムが育成3位で米テキサス大タイラー校中退の山口アタル外野手を指名した。いずれのケースも球団側が事前にNPBと連絡をとり、対象選手であることを確認した上でドラフトにかけられていた。
 だが、今回オリックスは、情報漏れを恐れたのか、それとも規定ではドラフトの対象選手であることから改めて確認の必要がないと判断したのか、NPBへの事前確認もなく、ドラフトの会議の場で、いきなり6位指名で、佐々木と見られる名前を入力したと思われる。テーブルでの20分間で、NPB側は、指名した場合に危惧されるそれらの問題を丁寧に説明したとみられ、ルール上、何も間違ったことはしていなかったオリックスも納得した上で佐々木の指名を取り下げたと推測される。
 ただ今回の問題は、これからも起こりうる可能性がある。年々、球児のメジャー志向が高まる中で佐々木が切り拓いた米大学への進学するパターンが成功すればなおさらだろう。来年のドラフトで、今度は、しっかりとした段取りを踏んだ上で、オリックスを含むどこかの球団が佐々木を指名する可能性も否定できない。
 佐々木は6月からメジャーへの登竜門とされるMLBドラフトリーグへ参加。25試合に出場して、86打数19安打で打率は.221と低かったが、満塁弾を含むリーグ2位タイとなる4本塁打をマーク。17打点でOPSは.782の数字を残し、国内外の評価をアップした。NPBは昨年より「海外の学校に在学中の選手」との交渉期間については、7月末まで延長した(国内の在学選手は3月末)。さらに時代に即した規定の追加や整備が必要なのかもしれない。
(文責・RONSPO編集部)

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