「客寄せパンダじゃ失礼」なぜドラフトで清原ジュニアやセンバツ優勝捕手の箱山遥人らは指名漏れしたのか…今後進むべき道は?

 プロ野球ドラフト会議は感動のドラマを呼びその一方で指名漏れという悲劇も生んだ。西武、巨人、オリックスで一世を風靡した清原和博氏の長男である慶応大の正吾内野手(22)をはじめ、プロ野球選手のジュニアの6人、センバツ優勝捕手である健大高崎の箱山遥人捕手(18)や、イースタン・リーグで打率.323で首位打者を獲得したオイシックスの知念大成外野手(24)らも指名されなかった。彼らはなぜ指名漏れしたのか。

 東京六大学の選手は育成指名が難しい

 その名前は最後まで呼ばれることがなかった。
 清原は慶応大が指名された場合に備えて準備していた会見場に現れず、大型ショートの田中陽翔と共に会見場に座ってテレビ中継を見ていた健大高崎の箱山は、ヤクルトに4位指名された、そのチームメートを祝福する側に回った。今回のドラフトでプロ側から調査書が届きながらも指名漏れしたドラフト候補は全国で枚挙にいとまなかった。
 なぜ彼らは指名漏れしたのか。
 元ヤクルト編成部長として2014、2015年のドラフトの陣頭指揮を執り、阪神では関東担当のスカウトも務めたこともある松井優典氏は、こう説明した。
「もちろん選手によって理由は様々だが、プロ側は可能性のある候補には片っ端から調査書を出すのでそれがイコール指名の約束ではない。何かが足りなかったということでしょう。プロ側はドラフト前に選手の総合順位をつけておくのだが、その選手よりも上の評価の選手を指名できた、ポジションがかぶった、あるいは育成ではダメ、下位指名ではダメなどの指名縛りなどもある。各チーム共に支配下、育成で何人までと枠を定めている。そういう事情は表には出ない話なので、単純に力がなかったから指名漏れしたということでもない。ただ高校生は、大学、社会人で“もう少し見たい”という判断や、即戦力の社会人、独立リーグ、プロ2軍の選手などについては、年齢の問題も関係してくる」
 注目を集めた清原の指名漏れについてはこんな見解を持つ。
「ハッキリ言えば、まだ実力がプロのレベルになかったということ。話題性はあるが、客寄せパンダになれば失礼というプロ側の配慮もあったと思う。中学、高校と野球をやっておらずまだ本格的に初めて4年。体もできていないし、本塁打は打ってはいるが、内角の速いボールに対応できないという致命的な問題もある。ドラフトにかかる選手は、最低そこはクリアしていなければ、プロでの伸びしろも期待してもらえない。あるとすれば育成での指名だったのだろうが、東京六大学の選手は、早大から当時、ソフトバンクに入団した現阪神の大竹耕太郎投手のように、よほどの本人の強い意向がなければ、育成指名は難しい」
 中学はバレー、高校はアメリカンフットボール部に所属していた清原が慶応大で「4番・一塁」のレギュラーに座ったのは今春から。打率.269、7打点で東京六大学のベストナインに選ばれ、8月31日の東京六大学選抜と日ハム2軍のプロアマ交流戦では育成左腕の山本晃大からレフトへ特大の2ランを放ち、今秋のリーグ戦でも9月28日の明治大戦では2-3で迎えた9回に最速152キロを誇る右腕の大川慈英から価値ある同点弾をバックスクリーンまで運んだ。10月7日の東大戦では元ロッテのサブマリン渡辺俊介氏の息子で同じく下手投げの尚輝のカーブをレフトスタンドに叩き込んだ。ただ今秋の打率は.200に留まり確実性に欠けた。
 1m86、90kgの体格に加え、遠投100m、50m走6秒5と基本的な運動能力は高い。本格的な野球経験はまだ4年。プロへの可能性は完全に消滅したわけではない。

 

 

 気になる今後について松井氏は「独立リーグがいいのでは?」という意見。
「社会人は、“プロ待ち”をしてくれるところもあるが、事前に話ができていないと難しい。そうなると選択肢としては、社会人のクラブチーム、独立リーグ、オイシックス、くふうハヤテということになる。本人がどれだけの意思を持っているかが重要だが、もしプロへの道をあきらめていないのであれば、独立リーグでプレーするのがベストではないか。年齢的なもの考えると独立なら1年で解禁するし、今回のドラフトでも独立から支配下で7人、育成で8人が指名された。近年、一部の独立のチームは、施設や指導体制が整いより成長できる環境にある。それこそ清原のネームバリューで独立のチームからは引っ張りだこになるだろう。しかし一塁しか守れないようでは選択肢は狭まる。三塁や外野など、よりプロ側の間口が広がるポジションへ挑戦した方がいい」
 今回元プロ野球選手の父親を持つジュニア選手の候補は清原以外にも5人いた。
 日ハムで19年もユーティリティープレーヤーとして活躍した飯山裕志氏の息子の立正大の外野手、志夢、西武で先発、中継ぎ左腕として通算で36勝、54ホールドをあげた三井浩二氏の長男である浦和学院高の大型スラッガーの内野手、雄心、中日、ロッテ、西武で捕手としてプレーした椎木匠氏の息子の横浜高の捕手の卿五、中日、ロッテで捕手を務め、現在ソフトバンクの3軍バッテリーコーチの吉鶴憲治氏の息子の法大の最速151キロ左腕の翔瑛、そして前出したロッテ、ヤクルトで主に中継ぎ左腕として実働5年で79試合に登板した充氏を父に持つ健大高崎の田中の5人。だが、指名されたのは田中だけだった。
「飯山は、左打ちの安打製造機タイプで足も肩もあり、最も指名の可能性が高いと考えていたが、まだ線が細いと判断されたのかもしれない」と松井氏。
 指名漏れ選手の中でファンの間から「まさか」の声が聞かれたのは、センバツの優勝捕手で、U―18代表にも選ばれ「世代ナンバーワン捕手」の評価の高かった箱山だろう。強肩&俊敏なフットワークに加えて通算35本の長打力を秘める。
 だが、松井氏は箱山に関しては「課題はバッティングで、パワーはあるが外角の変化球への対応に苦慮している」との問題点を指摘していた。
 今夏の甲子園では2試合でヒット1本しか打てていない。
「指名縛りがあった可能性はあるが、やはり外角球に簡単に手が出る部分をプロでは致命的な欠陥だと判断されたのかもしれない。素材は間違いない。今後、大学、社会人でどう改善するか」
 また広陵の最速148キロ右腕の高尾響も指名されなかった。甲子園には春夏通じて4度出場。U―18代表にも選ばれたが、松井氏は「夏への成長が見られなかった点が、伸びしろという部分でマイナス材料だったのかも。高校の段階で出来上がってしまっている投手の見極めは難しい」と見ている。
 高尾はトヨタ自動車へ進む予定。
 横浜DeNAに関大の金丸夢斗の外れ1位で指名された三菱重工westの最速153キロ右腕の竹田祐は、履正社、明治大と2度プロ志望届を出しながら指名漏れを味わった。
 捲土重来――。彼らの未来はここが終わりではない

ジャンルで探す