「その穴をしっかりと埋めたい」中日が交渉権ゲットの関大“侍ジャパン左腕”金丸夢斗がドラファンの泣けるセリフ

 プロ野球のドラフト会議が24日、東京都内で行われ、大学№1左腕、関大の金丸夢斗投手(21、神港橘)は、巨人、阪神、横浜DeNA、中日の4球団が競合し、中日が交渉権を獲得した。金丸は、今季の最優秀防御率のタイトルを獲得した同学年の高橋宏斗投手(22)をライバル視。竜の左右二枚看板になることを誓った。ポスティングによるメジャー挑戦が容認された小笠原慎之介(27)の穴を埋める金丸が、3年連続最下位から脱出の起爆剤となるかもしれない。

 「夢をかなえたいと強く思った」

 マウンド同様にポーカーフェイスを貫いた。
 1位入札したのはセ・リーグ4球団。テレビ中継を見ていた金丸は交渉権を得た中日の井上一樹新監督が「脱臼したかと思った」というほどのド派手なガッツポーズを見せた瞬間も表情をピクリとも変えなかった。
 テレビの画面から指揮官に「金丸夢斗という素晴らしい名前。一緒に夢を叶えたいと思ってます。迎えに行きます」と熱いメッセージを送られると、キリッとした目で「待っています」と応え、「しっかりと夢をかなえたいと強く思った。ドラゴンズの力になれるようにすべてを尽くそうと思う」と剛速球で返した。
 神港橘から関大はあの伝説の剛腕投手、山口高志さん(74)と同じ系譜。関大から直接プロ入りとなる投手は同じ左腕で2005年に阪神へ希望枠で入団した岩田稔氏(40)以来となる。
 実際の胸中はどうだったのだろうか。
 当初は6球団が競合するとも言われたが、結果は4球団。12球団OKの姿勢ではあったものの、できれば在阪球団という希望もあった。しかし、当たりくじを引いたのは中日。それでも金丸は、心の揺れをおくびにも出さなかった。自分でコントロールできないことには興味がないのかもしれない。
 この日、唯一たじろいだのは名古屋の印象を聞かれた場面。神戸生まれの神戸育ちとあって「新幹線で通過したことはあっても降りたことがないので、分かりません。おいしい料理を食べたい」と珍回答するのがやっとだった。
 もちろん期待の大きさは百も承知だ。即戦力として1年目から先発として2ケタ勝利を目標に掲げ、クリアすれば、おのずと新人王も見えてくると明言した。
「とにかく勝てる投手になること。ドラゴンズの勝利に貢献したい」
 その自信もある。最大の武器は球質のいいMAX154キロのストレート。変化球はカーブ、スライダー、スプリット、チェンジアップと4種類あり、なかでもスプリットには絶対の自信を持つ。関西学生リーグで通算20勝3敗。2年春から3年秋にかけて18連勝をマークした。特に3年秋は無双状態。51回を投げて6勝無敗でうち4完投2完封、防御率0.35でMVP、最優秀投手、ベストナインの三冠に輝いた。最終的には連続自責点0の記録を72イニングにまで伸ばした。さらに今年3月にはプロに交じって「侍ジャパン」に招集され、欧州代表相手に2回をパーフェクトに抑え、全国区に躍り出た。
 日本生命の監督も務め、福留孝介仁志敏久らを送り出し、金丸を昨年まで指導した早瀬万豊前監督も「ストレートの質が抜群。フィールディングもいいし、クイックもできる。プロでも心配ない」と言う。
 気になるのは今年5月11日の関西学院戦で腰を痛め、骨挫傷と診断されたこと。このドラフトで4球団競合にとどまったのも、その影響を気にした球団が1位指名を見送ったとも考えられる。しかし、経過は良好でこの日も本人は「大丈夫。全く違和感はありません」と明言した。小田洋一監督も「休めばすぐ治るぐらいの軽症」と話し、プロ入りに向けては「奢ることなく、謙虚で主体的に練習に取り組んできた。これが大学での成長の礎になったと思うし、プロに行っても心配していません」と太鼓判を押した。
 中日は今季も最下位になったとはいえ、ベテランの涌井秀章をはじめ、大野雄大柳裕也と好投手がそろう。金丸が意識するのは同学年で最優秀防御率のタイトルを獲得した高橋宏斗だ。
「WBCで世界一にも貢献している。高校の時は手の届かない感じで、少しでも近づきたいと、いい刺激をもらった。同じ舞台で左右の二枚看板として活躍し、将来は越せるように、エースになれるようにがんばりたい」

 

 

 意識の高さは好きな言葉でもある「覚悟」の表れか。
 チームは、今季5勝11敗、防御率3.12の数字を残した左腕の小笠原のポスティングによるメジャー挑戦を容認した。
「その穴をしっかり埋められるように」とドラゴンズファンが泣いて喜ぶようなコメントをした。金丸が、5勝11敗の数字を逆転させれば、それだけで穴が埋まるどころか、最下位脱出が見えてくる。
 目標とする投手はカブスで2桁勝利をマークした体型も似ている同じ左腕の今永昇太だという。
「自分の武器はストレートとコントロール。今永投手はスピード以上に球の切れがあり、空振りが取れる。動画を見て、参考にしています。今後は変化球の精度も上げていきたい」
 名前の夢斗は「大きな夢に向かって、ひたむきに努力してほしい」との思いからつけられた。金丸は会見を見守っていた両親に感謝し「夢は叶えられたので今後はプロで活躍することで恩返しをしたい」と口元を引き締めた。
 父・雄一さん(48)は、今夏まで甲子園大会の審判員を務めたほどの野球一家。母・淳子さん(47)がつくるグラタンをエネルギー源に2つ上の兄と弟・夢斗とともに甲子園出場を夢見た。特に雄一さんは、将来を考えて、右利きの金丸を幼い頃に左利きに変えた。
「小っちゃいときはなんでも左手でやらせていたんです。そしたらそのうち左利きになりました」
 まるで現代版の「巨人の星」の星一徹だ。
 雄一さんは中京大中京時代の高橋宏斗を甲子園で見ており「素晴らしい投手だった。チームに同じ世代のいい投手がいるのは励みになる」と話し、「投手有利の球場というのもいいし、名古屋なら比較的近くてドームで中止の心配がないのもいい。もちろん、阪神戦で甲子園に帰ってくるのも楽しみです」と白い歯をこぼした。
 沖縄キャンプインの2月1日は金丸の22歳の誕生日。
「そんなに時間はない。しっかりと体調を整えて、キャンプを迎えたい」
 早くもプロの世界へと気持ちは向かう。
 “最下位脱出請負人”としての期待と責任は重いが、雄一さんが語るように、高橋宏との左右のライバル関係が2人に相乗効果をもたらす可能性もある。もしかすると「運命のドラフト」が来季のセ・リーグの勢力図を塗り替えることにつながるかもしれない。
(文責・山本智行/スポーツライター)

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