不満?それとも?なぜ5球団競合で楽天が交渉権を得た明治大の“侍”ショート宗山塁は無表情を貫いたのか…後で明かした仲間への思い…2025年の目標は新人王と開幕1軍
プロ野球のドラフト会議が24日に行われ、大学ビッグ5の一人、明治大の宗山塁内野手(21、広陵高)には、西武、楽天、広島、日本ハム、ソフトバンクと最多の5球団が1位指名で競合し、抽選で楽天が交渉権を獲得した。東京・千代田区の駿河台キャンパス内で記者会見に臨んだ宗山は、開幕一軍と新人王獲得をルーキーイヤーの目標に設定。さっそくクジを引いた森井誠之球団社長(50)、石井一久シニアディレクター(51)らの指名挨拶を受け「結果で応えたい」と決意を新たにした。
日ハムに3位指名された同期の浅利太門投手への配慮
アマチュア球界ナンバーワン遊撃手は、表情をまったく変えなかった。
12球団のトップで西武の1位入札が発表されても、さらに楽天と唯一、1位指名を公言していた地元の広島、そして日本ハムとソフトバンクが続いても、宗山は背筋をピンと伸ばしたまま駿河台キャンパス内の一室でテレビ中継を見つめていた。
緊張感すら伝わってくる光景は、楽天の森井球団社長が交渉権獲得のクジを引き当てても変わらなかった。プロ野球選手としての新たな第一歩へ、満開の笑顔を弾けさせる選手たちが少なくないなかで、宗山の立ち居振る舞いは逆に異彩を放った。
ようやく表情をなごませたのは、体育会硬式野球部の山本雄一郎部長、田中武宏監督とともに臨んだ記者会見がはじまってから。野球人生のアニバーサリーになぜ無表情を貫いたのか。記者会見で問われた宗山はこう答えている。
「正直ここまでの球団に指名していただくとは……指名された瞬間はびっくりしたし、表情には出さないように、いつも通り平常心でいようと思いました」
実は、もうひとつ理由があった。日本ハムに3位指名された浅利太門投手(22、興国高)の記者会見や、2人そろっての写真撮影や胴上げなどが、ひと通り終わった後の囲み取材。宗山は、周囲への配慮があったと明かしている。
「自分のドラフトでもあるんですけど、同級生の浅利もそうですし、高校時代の同級生や後輩を含めていろいろな選手も指名を待っている状態でした。そこまで指名されてから本当の意味で安心できるというか、ホッとできる状況になると思っていたので、そこまでは平常心でいよう、というのがありました」
名前の「塁(るい)」には、野球用語が物語るように、将来は野球をしてほしい、という両親の願いが込められている。高校は父親の伸吉さんが外野手としてプレーした、地元・広島県の名門・広陵へ進学。幼いころから一緒に練習し、野球の基礎を叩き込んでくれた伸吉さんの教えは、いまもなお宗山を力強く支えている。
「小さなころから『何も考えずに100回の練習をやるよりは、考えて行った10回の練習の方が絶対に身になる』とずっと言われてきました。いまもそれを大事にしながら、日々考えて練習していますし、これからもその意識は変わりません」
ルーキーイヤーの目標として、開幕一軍と新人王獲得を掲げた宗山は、中長期的な目標として「3番という打順は一番いい打者が任されると思っているので」とクリーンアップ定着や首位打者、最多安打といった個人タイトル獲得にも言及した。
ここにも伸吉さんの教えが息づいている。
「父からは継続することの大切さも学びました。自分の目標であるとか夢といったものをしっかりと発信していって、それを達成するに見合う努力を積み重ねていくことが何よりも必要なので、そこも変えずにやっていきたいと思います」
広島の広陵高では1年生の2018年夏から2019年春と甲子園に出場した。しかし、最終学年では新型コロナ禍で春夏ともに甲子園が中止となった。夢舞台への挑戦すらかなわなかった当時の空しさが、いま現在につながっていると宗山は言う。
「もちろん悔しかったし、当時は感情をどのように表現していいのかがわからなかったけど、その先の野球人生を考えたときに、甲子園がなかった分、大学野球で自分のプレーを見てほしい、大学野球で頑張りたいという思が強くなったし、それは間違いではなかったというのを、これから先の自分にも伝えていきたい」
明治大では1年生の春から遊撃手のレギュラーに定着。今春には侍ジャパンに招集されたように、井端弘和監督(49)が期待するほど守備力は高く、打撃面でも現時点で歴代8位タイとなる通算116安打を放つなど、攻守両面で大きな成長曲線を描き、ドラフト1位で5球団が競合する快挙を自ら手繰り寄せた。
1位指名から約3時間後の午後8時には、楽天の森井球団社長、石井シニアディレクターらがドラフト会場から駆けつけ、さっそく指名の挨拶を受けた。
楽天のショートには、今シーズン139試合に出場したプロ9年目の村林一輝(27)がいる。それでも、交渉権獲得が記されたクジに三木肇新監督(47)のサインを添えて手渡した明治大出身の森井社長は、宗山の1位指名に「すべての担当スカウトから、一番いい選手を指名すべきだ、という声があがった」と舞台裏を明かした。
楽天球団の期待をあらためて感じた宗山は、決意を新たにしている。
「高く評価していただいたことに感謝しています。結果で応えていきたい。(楽天は)若い選手からベテランの選手までバランスがいい、レベルが高いチームだと思っています。村林選手をはじめとする内野の選手の方々には、自分から積極的にアドバイスを聞きにいきたい。ファンの方々から愛される選手になりたいと思っていますし、そのためにも試合に出続けられる、息の長い選手になっていきたい」
4球団が1位で競合し、中日が交渉権を獲得した金丸夢斗投手(21、関西大)ら、高校3年時の春夏甲子園が幻と化した世代が、大学で成長を遂げてプロの世界へ挑む前に、宗山には明治大のキャプテンとして臨む最後の一戦が待っている。11月2、3日に行われる法政大との秋季リーグ最終戦を経て満を持して新たな舞台へ羽ばたいていく。
(文責・藤江直人/スポーツライター)
10/25 06:47
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