「若手の成長は見えたが“下剋上”許すは恥。リーグ優勝の価値も下がる」巨人大物OBが横浜DeNAに敗れて日本シリーズ進出を逃した“古巣”に苦言

 セ・リーグのクライマックスシリーズファイナルステージ第6戦が21日、東京ドームで行われ、横浜DeNAが3-2で巨人に逆転勝ち、対戦成績4勝3敗で7年ぶり4度目の日本シリーズ進出を決めた。巨人は2-2の8回から中3日で菅野智之(35)を投入したが、回跨ぎの9回二死三塁から牧秀悟(26)に決勝タイムリーを許した。巨人OBで、西武、ヤクルトで監督も務めた“球界大御所”の広岡達朗氏(92)は「若手の成長は見えたが、3位球団の下剋上を許すのは恥。リーグ優勝の価値も下がる」と苦言を呈した。

 「選手層が薄く、状態のいい選手が少なかった」

 最終決戦で1回から2度も申告敬遠で歩かされた岡本が天を仰いだ。
 1点ビハインドの9回二死。力のない打球がセンター神里のグラブに収まった瞬間、3連敗から日本シリーズ進出に逆王手をかけていた巨人の“ミラクル”が断たれた。
 阿部監督は腕を組んだまま。ホームベース付近で三浦監督と握手を交わし、互いの健闘を称え合った際に、ようやく表情が和らいだが、悔しさ以外何もない。
 スポーツ各紙の報道によると阿部監督は、「選手を批判しないであげて。僕が勝たしてあげられなかった。そっちの批判は(私が)受ける」と敗戦の全責任を負い、「こうやって逆王手までいったということもすごい収穫。負けた悔しさは、その何十倍もある」と言葉を絞り出したという。
 中3日で投入した菅野の回跨ぎが裏目に出た。
 2-2で迎えた9回。菅野は先頭の森にライト前ヒットを許した。代打の柴田にバントで決められ、桑原は三塁ゴロに打ち取ったが、森の好走塁もあって三塁への進塁を許した。牧に対してカウント1-1から外角へ投じたカットボールを三遊間に引っ張られた。阿部監督は、8回に菅野を投入した際に、先発時にコンビを組む小林と共にバッテリーごと代えたが、外角の変化球を意識していた牧に対して、全球外角勝負で、その配球にも問題があった。
 大物OBの広岡氏は巨人のCS敗退を厳しく叩き斬った。
「3位のチームに下剋上を許すのは恥だ。これじゃあリーグ優勝の価値も下がる。私は、CSの廃止をずっと言っているが、3位のチームが日本選手権(シリーズ)に出場するようじゃ日本のプロ野球はダメになる」
 阿部新監督のもと巨人は、阪神の激しい追い上げを振り切り、4年ぶりのリーグ優勝を果たした。3位の横浜DeNAには8ゲーム差をつけていた。だが、第6戦までもつれこんだとはいえ、“CS下剋上”で、その143試合を戦って勝ち得たリーグ優勝の「価値も下がる」と言い、こう続けた。
「3連敗で窮地に追い込まれたチームは、これまで阿部がやっていなかったような野球を見せた。スクイズを使い、重盗で仕掛け、機動力を生かした野球で、1点を奪いにいった。野球はホームランだけじゃないことをやっと示した。しっかりと守り、戦術、戦略で勝ったと言っていい。この日も、戸郷のスリーバントスクイズで1点を奪った。そういう野球もできるじゃないかと見直していたが、タイムリーが出ないような野球じゃつまらん。選手層が薄いし、状態のいい選手が少なかった。それは指導者が何も教えていないということ。フロントも厳しさが足りない。一生懸命、応援してくれていたドームのファンが気の毒だし、OBとして申し訳ないとも思う」

 

 

 初回にスコアボードに刻んだ先取点は、相手の森の送球ミス。5回には一死一、三塁から戸郷のスリーバントセーフティースクイズで2点目を追加したが、またしてもタイムリーは1本も出なかった。左肋骨骨折で吉川を欠き、打順の再編成を余儀なくされ、特に5番打者は、ヒットさえ1本も打てなかった。横浜DeNAが4番の岡本に対して徹底した申告敬遠で勝負を避けることができたたのも5番の不振が理由。坂本、大城、第4戦からは、8月11日に左手首を骨折したヘルナンデスを緊急昇格させて5番に据えたが、誰一人として仕事ができなかった。
「吉川のいる、いないは関係ない。骨折か何か知らないが、彼はいったいこのシリーズで何をしていたんだ?昔の強い巨人はどこに行ったのか。歴代監督の川上哲治さん、水原茂さん、そして巨人をライバルとしていた鶴岡一人さんらは、こんな巨人を見てどう思うのか。『昔の巨人を取り戻せ』。そんな声が聞こえてくる。私もそう思う」
 巨人を愛するOBゆえの厳しい叱咤。だが、一方で3連敗の後に2連勝した戦いの中で見せた若手の成長は評価した。
「第5戦でプロ初本塁打を打った中山、守備で貢献した門脇、先発投手も井上、山崎ら、少しだけ若手が出てきた。こういう舞台を経験したことのない若手が全力プレーで持てる力を発揮した。元々巨人にはそういう選手はいるんだ。それを育てることができていなかっただけ。ピッチャーも悪くはない。阿部は、来年に向けて進むべき道は見えたんじゃないか」
 吉川に代わって第2戦からセカンドで起用された4年目の中山は、第4戦の7回に勝ち越しにつなげるライト前ヒットを放ち、第5戦ではプロ初本塁打が決勝アーチとなり、この日の第6戦でも2安打をマークした。門脇も守備で貢献。1回に先頭の桑原の三遊間への深いゴロを一塁で刺し、7回には、二死一、二塁から佐野のセンターへ抜けていてもおかしくなかった打球を絶妙のポジションニングから飛び込んでストップ。走者の生還を食い止めた。
 一方の投手陣では、崖っぷちの第4戦で先発した左腕の井上が5回までパーフェクト。戸柱に手痛い一発を浴びたが、6回を投げて打たれたヒットはその本塁打の1本だけ。第5戦では山崎が7回途中まで無失点に抑える力投を見せた。
 阿部監督は、試合後にミーティングを開き、「優勝した自信は持っていて欲しいし、こういう難しいゲームを勝てなかった悔しさは、必ず来年につなげて欲しい」と選手に呼びかけたという。来季は15勝3敗のエース菅野がメジャー挑戦でいなくなる。岡本のポスティングによるメジャー挑戦の噂もある。CS敗退のリベンジを果たす前に、戦力ダウンという窮地を乗り越えて、連覇という難関へチャレンジしなければならない。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)

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