「岸田は体を張って暴投を止めなきゃダメだ!」崖っぷち巨人は「意地を見せる」ことができるのか…的中した横浜DeNA三浦采配と埋められぬ吉川尚の穴

 セ・リーグのクライマックスシリーズ・ファイナルステージ第3戦が18日、東京ドームで行われ、巨人が1-2で横浜DeNAに逆転負けを喫して3連敗、いよいよ後がなくなった。3試合で得点はわずか「2」で30三振と打線が低迷。左脇腹の怪我で欠場している吉川尚輝(29)に代わって二塁で起用された中山礼都(22)が2試合連続でノーヒットに終わるなど、その穴を埋められないままズルズルときた。対する横浜DeNAは、三浦大輔監督(50)の繰り出す采配が、次々と的中。2017年以来となる“CS下剋上”に王手をかけた。

 三浦監督は4番の岡本を2度申告敬遠

 

 阿部監督の顔が引きつっていた。
 1点を追う9回。二死走者無しから横浜DeNAの“守護神”森原の投じたフォークに崩された門脇の力のないセンターフライが途中出場の神里にグラブに吸い込まれた。
「何とか粘ってたけどね。もう後は意地を見ましょう」
 各紙の報道によると、阿部監督は、それだけをコメントして15秒で会見を切り上げたという。
 3連敗で王手をかけられた。セ・リーグでは2007年からCSが導入されたが、リーグ優勝以外のチームの“下剋上”は、2007年の中日(2位)、2014年の阪神(2位)、2017年の横浜DeNA(3位)の3度しかない。そのうち2007年、2014年の2度は、いずれもリーグ優勝チームは巨人。その屈辱の歴史にまた片足を突っ込んだ。
 打てず守れず…典型的な負けパターンだった。
 2回に岡本が、おそらく見送ればボールの高めの釣り球を豪快にレフト上段まで運び先制を奪うが、4回に先発のグリフィンがオースティンにシリーズ2本目となる同点アーチを逆方向に放り込まれてリードを守れない。
 さらに5回二死三塁から再びオースティンの打席で2番手の赤星が2-2から投じた5球目の150キロのストレートが外角へ引っかかった。岸田のミットが届かずにバックネット前まで転がる暴投となり、勝ち越し点を献上。この“オウンゴール”が結果的に決勝点となってしまった。
 コーチ経験のある評論家の一人は「岸田が止めなければならなかった」と厳しく指摘した。
「私がコーチ時代にもキャッチャーに“予測のできるミスは防がねばならない”と注意したことがある。岸田は外角に構えていた。おそらくサインミスではなく逆球でもない。引っかかったとはいえボールは外角に来ている。予測できるミス。岸田は驚いたように体が動かずミットだけで捕球に動いていた。体を張ってでも止めなきゃダメだ。打てないのであれば守り勝つしかないし、こういうロースコアのゲームは、ミスをした方が負け。集中力に欠けたとしか言いようがない」

 

 

 対する“三浦番長”の采配はズバズバ的中した。
 3回にオコエ、丸の連打で背負った一死二、三塁のピンチで、先制本塁打を許した岡本を迎えると、迷うことなく申告敬遠した。「腹をくくった」(三浦監督)勝負手だ。浅い回での申告敬遠は、賛否のある作戦だが、ここで牧のビッグプレーが窮地を救う。続く大城のセンターへ抜けるかという打球はマウンドに当たり若干方向が変わった。それを横っ飛びでキャッチした牧がセカンドへトス。4-6-2とわたる併殺で大ピンチが切り抜けたのである。
「本当スーパープレーですよ。あのプレーでね。ベンチも盛り上がりました。もう最高のプレーをしましたね。牧が作った流れでオースティンが一発で追いついてくれましたし、ベンチを最高の状態にしてくれました」
 三浦監督の言葉通り、鉄壁の守りが、流れを呼び込み、グリフィンの逆球を誘い、4回のオースティンの同点アーチにつながったのである。
 三浦監督は8回にも二死二塁で岡本を2度目の申告敬遠で歩かせた。徹底していた。回跨ぎの山崎が5番の大城を追い込んでからボール球に手を出させた。
 3試合を通じて巨人はわずか2得点で30三振。そのうち見逃しの三振が13個だ。 
 巨人の打撃不振は、“CSあるある”である「試合勘の無さ」の問題なのか。
 前出の評論家は「吉川不在の影響と、横浜DeNAの投手陣のストライクゾーン勝負の意識の高さ」と分析した。
「第1戦の増田、第2、3戦の中山と吉川の代役がノーヒット。巨人の選手層の薄い部分がこういう大事なゲームで浮き彫りになった。吉川が打ってきた3番に苦労して岡本が勝負されず5番にヒットが出ないのだから得点能力が著しく低下して当然」
 今季56試合に「3番・二塁」で起用され、打率.287、5本塁打、46打点、65得点、12盗塁で、出塁率.341、得点圏打率.274の成績を残している吉川を左脇痛で欠いていることがチームに大きな影を落とした。
 第1戦で代役を任された増田、第2,3戦で起用された中山はいずれもノーヒット。加えて3番も、第1戦にオコエ、第2戦に中山を使ったがヒットがなく、この日、3番に置いた丸が2安打を放つものの、後ろの岡本が申告敬遠され、5番の大城にヒットが出なかった。5番問題も深刻で、第1戦、3戦で起用された大城、第2戦で任された坂本はいずれもノーヒットである。
 加えて同評論家は横浜DeNA投手陣の意識の変化を指摘した。
「阪神とのCSファーストステージから横浜DeNAの投手陣がストライクゾーンで勝負にきている姿勢が目につく。見逃し三振が多いのは、裏をかかれている証拠だがそれだけストライクで攻められているということ。ベンチのバッテリーへの意識づけがレギュラーシーズンとは違ってきている」

 

 

 三浦監督の投手起用も冴えた。
 4回二死一、二塁のチャンスに代打のフォードを送り、逆球が多く、決して出来のよくなかった先発の吉野を3回で下げると、佐々木を1イニング挟み、中川、山崎に2イニングずつ回跨ぎで投げさせた。
「みんながいい準備をしてくれて、回跨ぎもしてくれましたし、みんなでカバーしてよく守ったと思います」と三浦監督。
 CS用のスペシャル継投がはまっているのだ。
 横浜DeNAは何も完璧な野球をしているわけではない。6回に先頭の宮崎の“魔のトライアングル地帯”に飛んだフライをセカンドの中山がグラブに当てながら捕れず、二塁を陥れた(記録は二塁打)。だが、桑原のバントは捕手前に転がり、三塁で封殺。さらに桑原が仕掛けた盗塁も失敗し、森も空振りの三振に終わり、横浜DeNAの攻撃が、ミスの連続で空回りしたのである。だが、その横浜DeNAが手渡しかけた流れをつかめないほど巨人打線は冷え込んでいる。
 いよいよ後のなくなった巨人のここからの逆襲は可能なのか。2012年には、同じくファイナルステージで、リーグ2位の中日に3連敗したが、そこから3連勝して日本シリーズ進出を果たした。当時の4番が阿部監督。崖っぷちの第4戦では2本のタイムリーを放った。第5戦では、代打石井のサヨナラ勝利で勢いをつけ、第6戦は、巨人がホールトン、中日が伊藤と互いに中3日での先発となったが、巨人が4-2のスコアで逃げ切った。この時の巨人のラインナップは、1番が長野で3番が坂本。この日、阿部監督は、長野を1番で起用し、8回に先頭打者としてレフト前ヒットをマークしているが、その時の記憶がフラッシュバックしたのかもしれない。大逆転劇を知るベテランの2人がリーダー役を務めることができるかどうか。
 注目の先発は巨人が井上で、横浜DeNAがジャクソン。井上は今季対横浜DeNAに6試合登板で2勝1敗、防御率2.55、CSファーストステージの阪神戦で好投したジャクソンは対巨人に4試合、1勝1敗、防御率2.19の成績を残している。
 前出の評論家は、今後の展望をこう予想する。
「勢いは横浜DeNA。今の巨人打線ではジャクソンから大量得点を奪うことは難しそうだから、いかに井上が耐え、ミスをせずに横浜DeNAが転んでくれるのを待つ展開に持っていけるかどうか。ただ1勝を返せば、エースの東を怪我で欠く横浜DeNAは、第5戦以降はローテーの苦しさを露呈することになり、形勢が逆転する可能性はあると思う」
 逆境の巨人と勢いの横浜DeNA。勝負の第4戦だ。

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