あわや大惨事?!“伝説の生涯無敗世界王者”リカルド・ロペス氏を招聘した全ミニマム級カードの画期的興行で新王者が3人誕生も4時間を超えるロングランで…

 プロボクシングの「フェニックスバトル122」【THE MINIMUMWEIGHTS】と銘打たれた3大タイトル戦を含む全7試合すべてがミニマム級という画期的な興行が25日、後楽園ホールで行われた。34年前にここで対戦した“レジェンド”リカルド・ロペス氏(58、メキシコ)とWBC世界同級王座を失った大橋秀行会長(59)をリングサイドに招き、大橋ジム勢の応援でスーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)も駆けつけたが熱戦が続き、4時間を超えるロングラン興行となり関係者に緊張が走る事態となった。

 

日本ミニマム級王座決定戦で松本流星が7回TKOで森且貴を下す(写真・山口裕朗)

 

 関係者の1人が青ざめていた。
「後楽園でのボクシング興行で最も終了が遅かったんじゃないか。大変なことになるところだった。後楽園は、使用時間に厳しく、午後11時には主電源が全部落とされるんだよ。もし試合の途中で、真っ暗になって無効試合にでもなっていたら…。ひやひやしたよ」
 全7カードのすべてがミニマム級という画期的なイベント。34年前にこの場所で大橋会長を5回TKOで下して獲得したWBCのベルトを21度防衛し52戦51勝(38KO)1分けと無敗のまま35歳で引退した“レジェンド”ロペス氏をメキシコから招き、前日には大橋会長とトークショー。リングサイドには、井上尚弥、10月13日に防衛戦を控えるWBA世界バンタム級王者で弟の拓真、WBO世界バンタム級王者の武居由樹らが勢揃いしていた。 
 また拓真と拳を交える堤聖也(角海老宝石)、彼のスパー相手として来日中の武居に敗れた前WBO世界バンタム級王者のジェイソン・マロニー(豪州)や、パリ五輪日本代表の岡澤セオンの姿もあった。満席ではなかったが、1304人のファンが詰めかけた。
 だが、第1試合から熱戦が続き、メインまでのすべてが判定にもつれこむ展開で、午後6時から始まった興行は、4時間を超えるロングランとなった。
 途中、ロペス氏、大橋会長、井上尚弥がリングに上がり、WBCの記念ベルト、大橋ジムの世界王者第1号である元WBC世界スーパーフライ級王者の川嶋勝重氏がデザインしたジュエリー、人気漫画「はじめの一歩」の作者でJBスポーツジムのオーナーでもある森川ジョージ氏がロペス氏と一歩を描いた原画が贈呈され、3人が挨拶を行うというセレモニーもあった。メインの日本ミニマム級王座決定戦に出場する同級1位の森且貴(大橋)と同級2位の松本流星(帝拳)がリングインしたのは午後9時55分だった。
 同試合は10回戦で後楽園が主電源を落とすとされていた午後11時までに試合は終わり、観客もはけることができる予定だったが、さすがにファンにも疲労の色が見え、関係者は肝を冷やした。
 結果、松本が7ラウンド59秒にTKO勝利。全7試合で唯一のKO決着となったが、試合終了時刻は、午後10時26分だった。
 この興行を企画した八王子中屋ジムの中屋一生会長もロペス氏を見送ると疲労困憊の表情で、「最後の3つのタイトル戦が急に決まるなど、想定外のことが続き、当初考えていたプランとは変わり、こんな長い興行になってしまい、お客さんには申し訳ないことをしてしまいました」と反省しきりだった。当初、挑戦者決定戦だった松本と森の試合が王座決定戦に変わるなど、直前のカード変更がいくつかあり、予定が大幅に変わったのが、ロングラン興行となった原因。それでも第1試合からすべてを観戦したロペス氏は「とてもいいイベントで有意義な時間を過ごさせていただきました」と招待に感謝し興行に大満足していた。
 リング上でも「いつも私は34年前に大橋さんと戦ったこの場所を思い出します。世界王者になった思い出の場所だからです。井上尚弥さんはスターで素晴らしいボクサー。これから未来をたくさん作られることでしょう」と挨拶をした。

 

  

石井武志がOPBF東洋太平洋ミニマム級の新王者となった(写真・山口裕朗)

ボクシングの“聖地”後楽園で、史上最も遅い終了時間となったことは間違いないが、重岡兄弟が、世界王座から陥落し、注目を集めることの少ない最軽量階級に、ロペス氏の招聘を実現することをフックに光を当てた今回のイベントは、とても意義があり画期的なチャレンジだった。
 未来の世界王者候補となる3人のミニマム級の新王者も誕生した。
 大会MVPを選ぶならプロ4戦目で日本王座を獲得した松本だろう。
日大出身で全日本選手権で優勝するなどの実績を持つアマエリートの松本は、1ラウンドからサウスポーの利点を生かした左ストレートのスピードとパワーで圧倒した。だが、森は2ラウンドからガードを固めて、小刻みなアクションを入れながら動いてインファイトを仕掛け、そのサウスポーの距離を潰しにきた。ロープを背負わせてボディを乱打した。
 だが、松本は「1(ラウンド)は左が入ったが、2(ラウンド)は来ると思っていた。前に来るので押し返そうと思ったが、それ以上に(前へ)来たので引いてみようと足を使いました」と5ラウンドから冷静にステップワークで対抗した。
 セコンドの田中トレーナーは「距離をとれ」「動くところを狙え」と指示。松本は左アッパーをねじこみながら動きを止め、森の決死とも言える戦法にも屈しなかった。そして7ラウンド。前へつっこんでくる森にカウンターの右フックがヒット。バランスを崩した森が両手をつきダウン。さらに松本はラッシュを仕掛けて「いろんな角度で左を出す練習をしていた」という左ストレートが何発か顔面をとらえるとレフェリーがストップを宣告した。
「日本タイトルって特別なものと思っていたのでうれしい」
 アマで全日本は制したが、五輪階級ではないためベルトはなかったという。
「(王座決定戦の)チャンスが回ってきたからには取らないと次いつくるかわからない。1回でつかもうと思っていた」
 ロペス氏の目の前でベルトを獲得できたことを「この階級じゃなくても世界的に特別な偉大な方。その人の前で試合ができたのは特別なこと」と感激していた。
ロペス氏は「打たさずに倒すボクシング」で高いKO率を誇り、最軽量級の概念を変えたボクサー。松本も「日々KO決着できるように練習している。ミニマムですが、KOできるボクサーになりたい」と言い「もっと上の景色を見れるように頑張りたい」と理想を掲げた。

 

 

 セミファイナルのOPBF東洋太平洋同級王座決定戦では、全日本新人王で、同級6位の石井武志(大橋)が8戦無敗で勢いのある20歳の同級5位のジョン・ケビン・ヒメネス(フィリピン)を3-0判定で下し新王者となった。
 石井は武居と同じくキックボクシングジムの「パワーオブドリーム」出身の元キックボクサー。デビュー以来、順調にきたが昨年9月に世界ランカーだったリト・ダンテ(フィリピン)に判定で敗れて左目を眼窩底骨折。7月に再起してここへたどりついた。
 4ラウンドまでは、左のボディショットや不用意な左フックを浴びて途中採点でジャッジの2人がドローを付けるなど、互角の展開だったが、前へ出る徹底した“ブルファイト”を貫き、ロープに押し込んで、左右ボディから左右フックと上下への強打を続けてペースをつかんだ。リングサイドの武居からは「ボディ!」などの具体的な助言も飛んでいた。
 石井は「右フックに手応えはあった」というがタフなヒメネスは弱みを見せず決定的なシーンは作れなかった。11ラウンドになってようやく「負けた試合の反省を生かしてジャブ、ワンツーを使った」とストレート系のパンチを織り込み強弱をつけるようになった。KO決着はできず引き出しの少なさが課題として残ったが手数と攻勢点では勝り、文句なしの戴冠だった。
「正直、見にきていただいたお客さんには申し訳ないが、12ラウンドを戦い抜くつもりで練習からやってきた。フィジカルは負けたときから自信はあった。反省を生かした戦いができたかなと思う。まだ実感はないが、世界にはまだまだ強い奴がたくさんいるので、そこに勝って初めてチャンピオン。つまんない試合はしちゃったが勝ったので次につながる。世界の強豪を倒していく」
 リング上で石井は、ファンにKO勝利とならなかったことを詫び、今後の決意を語った。
 だが、大橋会長は「不合格」と手厳しかった。
「石井と森の2人は、今日の結果と内容次第で、次に世界を組むつもりでいたんだけど、この内容じゃまだ厳しいね」
 世界へ向けての“追試”を課した。
 また第5試合では、全日本新人王の決勝で引き分けたものの優勢点の差で新人王を逃した北野武郎(大橋)がプロ8戦目で、日本ユース王者の宮澤蓮人(松田)に挑み3-0で判定勝利し新王者となった。だが、サウスポーの強みと得意の遠くからのボクシングを宮澤に潰される苦しい展開だった。
 この日、伝説のロペス氏の前で新王者となった松本、石井、北野の3人が未来の世界王者候補であることは間違いない。異例のロングラン興行も数年先に世界の頂点に立った時に「あの試合があったからこそ」と語ることのできる思い出になればいいだろう。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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