巨人の阿部監督が広島を3タテにした“5つの勝負手”…大勢の回跨ぎに先発を外した丸の代走起用からのダメ押し2ラン…今日にもマジック「12」が点灯

 首位の巨人が12日、マツダスタジアムでの2位の広島戦に5-0で快勝して同一カード3連勝。阿部慎之助監督(45)の打った“5つの勝負手”が次から次へはまって鬼門だった敵地でスイープを実現してゲーム差を「4」に広げた。今日13日のヤクルト戦に勝ち、広島が阪神に敗れれば、マジック「12」が点灯する。

 2回から申告敬遠

 ラストスパートに入った巨人の強さを象徴するようなゲームだった。前日に0-2で迎えた土壇場の9回に広島の守護神の栗林を自滅に追い込み、なんと9点を奪い逆転勝利した勢いのまま5-0で快勝。今回のシリーズまで1勝4敗2分けと苦手にしていた敵地マツダスタジアムでの首位攻防戦でスイープに成功してカープを引き離した。阿部監督は「すごく大きな3連勝だったと思います」と自画自賛した。
 阿部監督が打った“5つの勝負手”のすべてが成功した。
 2回に二死三塁で8番の菊池を迎えると迷わず申告敬遠。投手の床田との勝負を選び、戸郷は、慎重にフォークから入り、途中インサイドのボールを使うなど野手同様の本気の配球でピッチャーライナーに抑えた。
 セ・リーグでタイトル獲得経験のある野球評論家は、阿部采配をこう評価した。
「レギュラーシーズンでは浅い回に申告敬遠は使わない。阿部監督は、戸郷と床田の投げ合いで1点に勝負になると読み、敵地で先取点を与えることに細心の注意を払ったのだろう。この試合では終始、阿部監督の采配は勝負に徹していた」
3回には阿部監督が「失敗を恐れずに思い切ってやれ」と打席に送り出している先頭の浅野が二塁打で出塁すると続く8番打者の門脇にバントのサイン。強い当たりだったため、処理した床田が三塁封殺を狙ったが、小園がベースカバーに戻れていなかったために躊躇。あわてて一塁へ投げた送球がそれて、浅野が先制ホームを踏んだ。
「門脇に打たせて、戸郷にバントがセオリーだろうが、一つでも先に塁に走者を進めてプレッシャーをかけにいった。戸郷のセーフティ―スクイズも想定していたのかもしれない。広島は小園が打球判断を間違って三塁ベースに戻れなかったわけだが、プロでもこの判断は難しい。小園のミスは、左投手で三塁の様子が見えない床田に大きな声で“ファースト”と指示しなかったこと。ミスの連鎖を避けて、最低、ひとつアウトは増やせた。3失点まで広がらなかったかもしれない」
 続く戸郷がバントで送り、なお無死三塁と追加点機を広げ、オコエは空振りの三振に倒れたが、坂本が粘り強く逆方向の一、二塁間を狙い、名手の菊池がギリギリ打球に追いつきながらも、グラブに収まらず2点目が入った。さらに吉川が四球を選び、「次につなぐつもりで打撃に入った」という岡本がカウント1-2から見送ればボールのツーシームに食らいついてセンター前へ3点目となるタイムリーを落とした。
 前出の評論家は「菊地のプレーは、捕球できていてもギリギリのクロスプレーでファインプレーだったのかもしれないが、集中力を見せるべき、球際のミスに疲れを感じた。チーム全体が9月になってガクンと落ちた疲れの象徴に思えた」という。
 中4日登板の戸郷は6回に試練を迎えた。2本のヒットに四球も与えて一死満塁の大ピンチを作ったのだ。だが、堂林をスイングアウト。続く末包には、なんと6球全球フォークという超異例の配球で最後はボール球を振らせて連続三振に斬ってとったのである。
「(大城)卓三さんの強気なリードで抑えることができたんで感謝しかないです」
 戸郷は信頼していた大城のリードに感謝の意を伝えた。

 

 

 末包は一発のパワーがあるが、変化球の対応へのもろさも併せ持つ。故・野村克也氏は、「配球で同じ球種を3球以上続けるのはタブーだ」としていた。だが、戸郷―大城のバッテリーはそれを6球も続けた。裏を返せば「次こそストレート」と狙い続けた末包の心理の死角をついた配球だった。シーズン途中には阿部監督がベンチから捕手にサインを出していたこともあるが、この配球は、捕手出身の阿部監督の教育のたまものだったのかもしれない。
「あそこの回でね。1点でも取られていたら、全然流れが変わっていた。そこを抑えてくれてとてもナイスピッチングだった」
 阿部監督は戸郷の力投をそう称えた。
 そして阿部監督は8回に仰天采配を繰り出す。3番手のバルドナードが二死から坂倉にレフト前ヒット打たれ、続く堂林に四球を与えると、ストッパーの大勢を前倒してで回跨ぎ起用したのだ。大勢は末包を投ゴロに打ち取って役目を果たした。
 阿部監督は、この試合のスタメンから15打席ノーヒットだった丸を外した。だが、7回に坂本がライト前ヒットで出塁すると、代走に丸を送っていた。その丸が9回にダメ押しの2ランを右中間に放り込んだのだから、もう神采配だろう。しかも無死一塁から途中出場の湯浅、オコエが連続でバント失敗するというミスを丸がカバーした。
 試合後に阿部監督は「(こちらの采配に)選手が応えてくれた。最後は(バントの)ミスも出ましたけれど丸がカバーしたりとか、そういうので勝てました」と振り返っている。
 そして5点のリードをもらった9回を大勢が3人でピシャリ。最後は秋山をスイングアウトの三振に仕留めてゲームセットである。
 冴えわたった阿部監督の“勝負手”がついにマジック点灯に王手をかけた。
 監督は1年目だが、現役時代に8度のリーグ優勝、3度の日本一を手にした経験から、優勝に向けてどこからスクランブル采配に切り替える必要があるかをわかっているのだろう。
「この3連勝を無駄にすることなく、明日から、その日、その日を勝つためにみんなで頑張りたい」
 指揮官の目にはもうゴールテープが見えている。

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