カブス今永昇太の大谷翔平“キラー”の裏にダルビッシュ有からの“金言”「素晴らしい選手と野球をやっていると自分の知らない力が出る」

 カブスの今永昇太(31)が10日(日本時間11日)、ドジャースタジアムでのドジャース戦に先発し、7回7安打3失点の粘投を見せて13勝目をマークした。大谷翔平(30)には、あと「30センチ」で47号という大飛球を打たれたが、3打数ノーヒットに抑え、結果的に、復帰登板となった山本由伸(26)に投げ勝った。今永は“大谷斬り”の裏に同日のマリナーズ戦で野茂英雄氏に並ぶ日米通算201勝目をあげたダルビッシュ有(38)からの金言があったことを明かした。

 「ひとつ間違えばホームランになってもおかしくないフライ」

 いきなりハイライトを迎えた。
「世界が注目してくれる。大谷様様ですよ」
 今永が対戦を楽しみにしていた大谷を1回に打席に迎えた。
 互いに目をあわせてニヤっと笑い。健闘エールを交換した。
 初球に選んだのは外角高めへの93マイル(約)のフォーシーム。メジャー移籍後に多用して成功に導いているゾーンへの1球に大谷が手を出した。結果はショートへのフライ。
 2度目の対戦は1-1の同点で迎えた3回で、連打を浴び無死一、二塁のピンチだった。今永は、外角低めのボールゾーンへのスライダーから慎重に入った。大谷が手を出して空振りを奪った。カウント1-2からの4球目だった。82マイル(約133キロ)のスイーパーが、真ん中に入った。大谷が強引に引っ張った打球は一塁ゴロ。3-6と送球が渡り、今永が一塁へのベースカバーに入ってダブルプレーを成立させた。
 ここまで大谷を封じてきた今永をヒヤッとさせたのが5回二死走者なしで迎えた第3打席である。
 今永は、2打席連続アーチを浴びたトミー・エドマンに続き、この回にも、マックス・マンシーに特大の一発を浴びてすべて被弾による失点で1-3とリードを許していた。
 もうこれ以上失点はできない状況で大谷を迎えた。
 ここも外角低めのボールゾーンのスライダーから入った。大谷はハーフスイング。打ち気が見えた。2球目のスイーパーが外角高めに浮いた。失投だった。右中間に高々と打球を打ち上げた大谷は、走らずにボールの行方を見守った。ライトのコディ・ベリンジャーがフェンスに張り付いて小さくジャンプ。打球はそのグラブに収まった。MLB公式サイトによると「今季47号となる本塁打まであと1フィート(約30センチ)」だったという。
 両者の対戦は、この3打席で終わり、今永はヒットさえ許さなかった。
今永は、中継局のNHKのフラッシュインタビューに、こう答えた。
「勝負の世界っていうのは紙一重なので、あれがホームランなのかアウトなのかは、そのときの運なので、今日は少しだけ運が味方してくれた」
 報道各社が伝えた試合後の囲み会見では、さらに詳しくこう振り返っている。
「ひとつ間違えたらホームランになってもおかしくないフライだったので改めて素晴らしいスイングの持ち主だったなと思った。彼は、本当に球場の雰囲気を変える力がある。たったの1打席で変える力があるので、今日はそういう風に雰囲気を変えさせない打席で助かった」
 ただ「(バットの)先っぽだったので、これが入ったらちょっと勘弁してくれよ」との本音もチラリ。
 これが大谷とは2度目の対戦だった。4月7日(同8日)の対戦では空振り三振と三塁へのフライ。通算で「5-0」の“大谷キラー”である。

 

 

 なぜ今永は大谷に強いのか。
 カブスの地元紙「シカゴサンタイムズ」は「ドジャースの上位打線の3人で今永に対してダメージをもたらすものはほぼいなかった。7回を投げて今永は大谷、ムーキー・ベッツ、フレディー・フリーマンに安打すら与えなかった。今永は元カブスでパドレスの投手ダルビッシュ有が日本代表チームで一緒にプレーした時にもらったアドバイスを思い返していた」とのエピソードを伝えている。
 今永が囲み会見でダルビッシュからの“金言”があったことを明かしていたのだ。
「ダルビッシュさんに『素晴らしい選手と野球をやっていると自分の知らない力が出る瞬間がある』と言われたことがある。まさに山本選手、大谷選手のドジャース打線を押さえるために自分の知らない力が出たと思う」
 “投げる哲学者”と呼ばれる今永らしい考え方だろう。
実際、今永は「試合前に調子は良くなかった」という。
「今日の山本投手のピッチングを見て、このままじゃチームが凄く劣勢に追い込まれると思った。3失点したが、彼の投球が僕を引っ張ってくれた」
 右肩腱板損傷で故障者リスト入りしていた山本は約3か月ぶりとなる復帰登板で圧巻の投球を見せていた。1回から三者連続三振。鈴木誠也はアウトローに決まった98マイル(157.7キロ)のストレートに手が出ず、第2打席も鋭く落ちるスプリットに空振りの三振。山本は、4回で59球を投げて8奪三振4安打1失点に内容だった。
 今永は投げあった山本の投球に刺激を受けたというのである。
 今永はチームメイトの鈴木の援護で13勝目をもらった。2点を追う8回無死一、二塁から、鈴木がドジャースの5番手、エバン・フィリッピスからセンター前へタイムリー。一人が生還、さらに一塁走者を刺そうとしたセンターから三塁への送球がそれる間に同点の走者まで生還して3-3として今永の負けを消した。さらにここから一気に3点を奪ってゲームをひっくり返す猛攻につなげた。
 4日(日本時間5日)のパイレーツ戦で、7回“ノーノー”の好投を見せていた今永は、これで4連勝。
「自分につく勝利を気にせず、チームにつく勝利を気にする。そういうメンタルの持ち方がうまくいっている。勝ったときに反省することが一番の幸せなので、きょうの反省を次に生かして、怪我なくシーズンを過ごしたい」
 こういう心構えでいる以上、メジャー1年目の今永の快進撃はまだまだ続きそうである。

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