「覚えていない。考えて行動していなかった」掟破りの“降板拒否”ウィックに横浜DeNA“番長”三浦監督がブチ切れた“事件”は阪神に10-4勝利したチームにどんな影響を与えたのか?

 横浜DeNAの三浦大輔監督(50)が27日、横浜スタジアムで行われた阪神戦でぶちきれた。7回に無死満塁としたローワン・ウィック(31)に交代を告げようとマウンドに向かったが、なんとこの外国人投手は「NO」と大声で降板を拒否。激怒した三浦監督は一喝してウィックをベンチへと追いやった。1点差に詰め寄られたが、“番長”の怒りに奮起した打線がその裏に爆発。最後は10-4と引き離し3位阪神とのゲーム差を2.5とした。

「チェンジ(交代)!」と一喝し腰を押して強制退場

 

 ベイの助っ人が“掟破りの謀反”を起こした。
 5-2で迎えた7回だ。この回からマウンドに上がったウィックは、コントロールを制御できず、代打の糸原、近本に連続四球を与え、中野にもレフト前ヒットを打たれた。ひとつもアウトを取れず無死満塁となり、たまらず三浦監督がベンチを出た。審判に交代を告げてボールを受け取り、そのままマウンドに向かうと、なんとウィックは、首を振って「NO!」と大声を発して降板を拒否したのだ。
 その態度に三浦監督がブチ切れた。
 鬼の形相で「チェンジ(交代)!」と一喝。腰から尻の付近を左手で押して無理やりマウンドから追い払った。“番長”の剣幕に押されたウィックは、もう逆らうことなく、トボトボと歩いてベンチへと下がった。
 降板を拒否するのも珍しければ、普段は温厚で紳士な三浦監督がフィールド内で激怒したのも就任4年目で初めて。降板拒否は、チームの統率を乱す“反逆罪”。絶対に許されるべき行為ではない。
 試合後に三浦監督は、このシーンを聞かれ「よく覚えていない」と笑って繰り返した。叱ったのか?檄を飛ばしたのか?の質問にも「どうなんですかね。考えて行動していなかった。よくわかんないです」と返した。
 だが、こう説明を加えた。
「全員が勝ち切る覚悟で必死に戦った。投手(ウィック)の気持ちもわかるし、全員で戦うという気持ちで戦えたと思う」
 三浦監督は、森下、佐藤、大山と、右打者から始まる打線に、ブルペンにただ一人だけ入れていた左腕の坂本を投入。その坂本は暴投で1点を献上。さらに森下に犠牲フライを許して1点差となった。佐藤をショートフライに打ち取り、大山にボールが先行したところで申告敬遠を選択し、阪神の岡田監督が島田に代えて小野寺をコールすると、三浦監督は、現役ドラフトでロッテから獲得した佐々木にスイッチした。その佐々木は、小野寺を143キロのインハイのストレートで空振りの三振に仕留めてガッツポーズ。
 三浦監督は、ウィックへブチ切れたことから始まった、この7回を「(ウィックへの怒りは)覚えてないけど、全員がリリーフ陣が準備してくれていた。坂本はしんどい場面でワイルドピッチもあったが、しっかりとツーアウトまでいったし、その後(佐々木)千隼もね。あそこで1本出たら、どんな流れになるかわからないところで最高の働きをしてくれた」と評した。
 三浦監督が見せた勝利への執念はチームに何かを伝えた。マウンド上で、その怒りを目の当たりにしたキャプテンの牧がこう証言している。
「4年間で、いい悪いにしろ、グラウンド内で感情を出すのを初めて見た。それだけ監督自身には何か思いがあった。それを見た選手に伝わった。勝ちに対して貪欲というか、“自分たちもやらないと”という気持ちになった」

 

 その裏の攻撃で指揮官の姿勢に触発された打線が奮起した。
 虎の剛腕セットアッパーの石井から先頭のオースティンがレフトフェンス直撃の二塁打で出塁すると「追いつかれそうなところだったのでなんとか点が入るように」と、5番の牧が右打ちの進塁打。セカンドにゴロを転がしてオースティンを三塁へ進めたのだ。1回、3回と連続タイムリーを放っている宮崎が申告敬遠で歩かされて二死になってから林、代打の筒香が石井のストレートを狙い打って連続タイムリー。貴重な3点をスコアボードに刻んだ。横浜DeNAは、さらに8回にもダメ押しの2点を奪い、3位の阪神を追う重要なゲームを10―4のスコアで「勝ち切った」のである。
 折りしも、試合前に緊急ミーティングを開き、牧が円陣で「SNSでは優勝は無理だろうと言われてますけど決してそんなことないと思います。全員がギアを上げてみんなが同じ方向を向いて今日の試合から戦っていきましょう」と呼びかけて、チームの“ラスト”スローガンを「勝ち切る覚悟」とした。
 それが残り29試合で4位から逆襲を仕掛けるチームの合言葉。場内のビジョンにも映し出された。三浦監督が、ウィックへの怒りのシーンを振り返ったところで記者団に使った言葉だ。3位の阪神とのゲーム差は2.5差に縮まった。3連戦の初戦を取り、まだ直接対決が8試合も残る。
 三浦監督が言う。
「しっかりと全員が同じ気持ちで戦う。初戦をその覚悟で戦えた。監督、コーチ、スタッフ、ファンの方も同じ気持ちで戦えています」
 気になるのは、球団のウィックに対する措置だ。マウンド上で監督の采配に逆らったウィックを不問に付すのだろうか。「勝ち切る覚悟」でチームの規律を守るのであれば、なんらかのペナルティを科すべき問題である。
 セ・リーグでタイトル獲得経験のある評論家の1人は、こんな意見を述べる。
「降板拒否は日本の野球を舐めている証拠。チームとして厳罰に処すべき問題だと思う。罰金、ファーム落ちのペナルティを科さねば、統率に影響を及ぼす」
 昨年もサイヤング賞のトレバー・バウアーが足を引っ張った守備陣のミスにベンチ内で荒れたことがあり、チームの統率を乱す態度を示したが、球団はペナルティを科さなかった。今回は、指揮官に逆らったのだから、そのケースとは事の重大さは明らかに違う。寛大な態度で処するのか、それとも厳罰を与えるのか。「勝ち切る覚悟」でBクラス脱出を狙う球団の姿勢が問われる問題なのかもしれない。

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