オリックス新監督の岸田護にOB星野伸之が期待「自分のカラーを打ち出していってほしい」

星野伸之が語る今季と今後のオリックス 後編

(前編:なぜオリックスはリーグ3連覇から5位に低迷したのか  中嶋聡監督の苦悩を分析>>)

 中嶋聡監督の退任を受けてチームの再建を託されたのは、選手およびコーチとしてオリックスひと筋の岸田護新監督。新体制への期待について、長らくオリックスのエースとして活躍し、岸田新監督が現役時代に投手コーチとして指導していた星野伸之氏に、当時のエピソードも交えて話を聞いた。


オリックスの新監督に就任した岸田護氏photo by Sankei Visual

【コーチ時代に見た、岸田新監督の現役時代のエピソード】

――星野さんがオリックスの投手コーチを務められている時期に、岸田新監督は投手としてプレーしていました。星野さんから見て岸田新監督はどんな方ですか?

星野伸之(以下:星野) まわりからは(愛称の)「マモさん」と呼ばれ、私も「マモ」と呼んでいたのですが、人望が厚くてどの世代からも愛されるキャラクターですね。いろいろな選手との絡みを見ていて、優しい人間なんだろうなという印象はありました。

――星野さんが投手コーチ時代、岸田新監督とのやりとりで印象的だったことは?

星野 彼が抑えを務めていた時期でしたかね。試合中、僕が普段は行かないトレーナー室にたまたま居たときがあったのですが、下半身にものすごい量のテーピングをガチガチに巻いてトレーナー室に入ってきたんです。おそらく5回が終わった頃で、1度ブルペンで肩を作った後だったと思います。

 それだけ満身創痍の状態にもかかわらず、まったく「痛い」とも言わず、チームのために投げてくれていたんだなと。肩を作るのがあまり早いほうではなく、体の各部の状態を慎重に確認しながら肩を作っていたのが印象的でしたし、彼の献身性には心を打たれるものがありました。

――当初先発だった岸田新監督が抑えに配置転換されたのは、当時オリックスの指揮を執っていた岡田彰布監督の意向でしたよね。

星野 そうですね。同様に先発からリリーフに転向した平野佳寿とジョン・レスターが勝ちパターンのリリーフでいたのですが、レスターの調子が上がらないとき、岡田監督が「岸田を後ろへ回す」と。それが見事にハマりました。平野、岸田のリレーが交流戦優勝(2010年)の大きな力になったと思います。

 当時は平野の球がめちゃくちゃ速かったんです。なので、平野の後に投げる岸田新監督は大変な部分があっただろうなと。抑えとして十分な活躍をしてくれましたけどね。選手時代に優勝を経験できなかったのですが、コーチになって優勝した瞬間、平野らが岸田新監督のところへ行って選手同士のときみたいに喜んでいたシーンがあって......。それをみたときには「よかったなぁ」と感動したものです。

【オリックス44年ぶりの「ピッチャー出身監督」に期待すること】

――今季は6月から一軍の投手コーチを任され、ブルペンを担当されていました。

星野 ベンチで中嶋監督の近くにいたわけではないと思いますが、ミーティングでは中嶋監督の言葉や考え方がすごく勉強になったはずですし、今後の監督業に活かしていってほしいです。ただ、中嶋監督のやり方を継承していくこととは別に、自分で思い描いていることも当然あると思います。中嶋監督はキャッチャー出身ですが、岸田新監督はピッチャー出身ということで、見てきた野球の角度も違うでしょうから。

――中嶋監督の野球を継承する上でも、指揮を執るのが初めてという意味でも、水本勝己ヘッドコーチが残ったのは大きいですね。

星野 すごく大きいです。いい相談役にもなると思いますし、これまでも中嶋監督が考えていることを、うまく選手に伝えていっているように見えたので。

 それと、ピッチャーって試合中はキャッチャーしか見ていないことが多いんです。スコアリングポジションにランナーが進塁すれば外野手の位置を確認したりしますけど、ランナーなしの時にそこまで外野などを確認しないので。その点は岸田新監督も、投手コーチの経験を経て視点も多角的になっているとは思いますけど、全体的に物事を見られるのは、やはりヘッドコーチだと思います。

――ピッチャー出身の監督は、阪急時代の1980年・梶本隆夫さん以来44年ぶりです。

星野 ピッチャーからの目線で嫌なことを逆に仕掛けていくようなことは、もしかしたらあるのかなと。中嶋監督はあまりランナーを動かしませんでしたが、ランナーの動かし方にそれが表われたりするかもしれない。ただ、結局やるのは選手なので、そういった作戦を遂行できる選手がいるかどうか、育てていけるのかどうかにかかってくるのですが。

――3連覇を成し遂げた中嶋監督の後を受け継ぐプレッシャーはあると思いますが、星野さんから岸田新監督に対してどんな言葉をかけたいですか?

星野 監督は、これまでとは比較にならないぐらい全方位に神経を使わなければいけませんし、苦労することも多いと思います。そんななかで私が言いたいのは、「自分のやりたいことを遠慮しないでやってほしい」ということ。それがうまくいくかどうかはわかりませんが、中嶋監督の築いてきたものを受け継ぎながら、自分のカラーを打ち出していってほしいです。

 打線やポジションを固定してみるのもひとつ。中嶋監督は日替わりで打線を組み、ポジションを決めていましたが、それは中嶋監督のやり方。その裏付けとなる理論もあるでしょうから、なかなか継承していくのは難しいと思うんです。一方で固定するよさは、各選手の役割がはっきりするということ。あくまでひとつの例として挙げましたが、要は自分が考えていることを積極的に試していってほしいということです。

 秋季キャンプ、春季キャンプ、オープン戦と来季を迎えるまでの期間にどんなチームを作り上げていくのか、注目していきたいです。

【プロフィール】

星野伸之(ほしの・のぶゆき)

1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。

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