高木豊がパ・リーグ6球団の前半戦を総括 Aクラス争いはどうなる? 最下位・西武の後半戦の戦い方にも言及した

高木豊の前半戦総括 パ・リーグ編

セ・リーグ編:混戦から抜け出しそうな上位チーム、下位の巻き返しの可能性は?>>)

 パ・リーグは、ソフトバンクが2位のロッテに10ゲーム差(7月21日時点、以下同)をつけて独走中。2位のロッテから4位の楽天までは2ゲーム差にひしめくなど、Aクラス争いは激しくなっている。セ・リーグ編と同様、高木豊氏にパ・リーグ6チームの前半戦総括と後半戦の展望を語ってもらった。


首位ソフトバンクの打線をけん引する近藤健介 photo by Sankei Visual

【ソフトバンク】

 若手が順調に伸びていますし、起用すればいい仕事をしています。柳田悠岐という大黒柱を欠いているのですが、その影響を感じません。打線は近藤健介が支えていますね。周東佑京の足もチームの大きな武器ですし、全体的にそんなに穴がないです。

 心配な点を挙げるとすれば、抑えでしょうか。ロベルト・オスナが離脱して松本裕樹が代役を務めていますが、少し不安定です。ただ、変則左腕のダーウィンゾン・ヘルナンデスは、制球を乱すときもありますがいい働きをしています。彼がブルペンにいるのは相手にとって脅威になっているでしょう。

 2位のロッテに10ゲーム差をつけていて数字的には余裕があるのですが、気をつけたいのはケガですね。それと、戦い方としては同一カード3連敗だけは避けたい。戦力はそろっているので3連敗はそれほどないと思いますが、チームのバランスが悪くなる時期はあるでしょう。

 9勝(4敗)で勝ち頭の有原航平や、安定感抜群のリバン・モイネロが投げる時は特に勝ちをつけるようにするとか、そういうことが大事になるかと。このふたりが負けると3連敗の可能性が出てきますが、逆にこのふたりで白星を重ねていけばリーグ優勝は間違いないと思います。

【ロッテ】

 ネフタリ・ソトがチャンスで打っていますし、打点を稼いでいますね(リーグトップの62打点)。出遅れていた髙部瑛斗と藤原恭大の復帰は打線に勢いをもたらしていますし、佐藤都志也と岡大海がバッティングで覚醒。小川龍成には粘りやうまさが出てきましたから、野手陣の状態は悪くないと思います。

 懸念点は先発陣。もう少し安定感ほしいです。C.C.メルセデスは、春先は一番安定していましたが、ここ最近は打ち込まれる場面が目立ちます。種市篤暉や小島和哉はいいピッチングをした次の登板で打ち込まれたり、安定しません。あと、佐々木朗希がいつ投げられるのか、というのも大きな問題。ソフトバンクを追っていくために、彼の存在は絶対に必要です。

 まだ優勝はあきらめてはいけませんが、ソフトバンクばかりを気にしていると、チームに負担がかかってきます。悪くても2位は確保したいわけですし、このあたりをどう考えていくのか。3位の日本ハムとは1ゲーム差、4位の楽天とは2ゲーム差ですし、それらのチームへの対策をおろそかにしないことですね。

 ソフトバンクが失速する可能性もゼロではないですし、様子を見ながら「いける!」という瞬間に、対ソフトバンク向けに先発ローテーションを再編するなどスイッチを変えられるかどうか。繰り返しになりますが、そこには佐々木が絶対に必要です。

【日本ハム】

 チーム全体が一時のスランプ状態を抜けて、勢いが徐々に戻ってきましたね。フランミル・レイエスがランナーがいる時に打ってくれたり、水谷瞬もいい働きを続けています。あとは水野達稀が離脱して不安定だった部分を、バッティングが好調な石井一成が出てきて打線に勢いをつけた。万波中正や清宮幸太郎にホームランが出はじめたのも大きいです。

 ただ、スタメンが重量打線になってきているのが少し気がかりです。長打力がある選手が増えて、相手バッテリーにはプレッシャーを与えられるのですが、脚力という観点では少し重いかなと。五十幡亮汰や田宮裕涼ら足の速い選手もいますが、五十幡はスタメンじゃないことも多いですからね。新庄剛志監督はランナーを動かしていきたいタイプなので、そのあたりがどうなのかなと。ただ、試合後半になってくると、代走の出し方など巧みにやっていますしね。

 投げるほうでは、先発で安定的に勝てるピッチャーの枚数を増やしたいところ。リリーフ陣は池田隆英が戻ってきたのは大きいですよね。河野竜生や杉浦稔大らもいますし、夏場を乗りきるために層が厚いに越したことはありません。

 順位に関しては、「オールスター前のロッテとのカードで3連勝したら面白くなる」と思っていたらそのとおりになって、1ゲーム差まで詰め寄ったのが大きい。あわよくば優勝も狙っていける位置につけていると思います。ただ、これはロッテにも言えることなのですが、日本ハムも勢いよく連勝したと思っていると、急に連敗をしたり浮き沈みが激しい傾向があります。チームの調子の波をいかに少なくしていけるかがポイントですね。

【楽天】

 打つほうでは辰己涼介がよくなってきました。それと小郷裕哉がいい。それに伴って7月からは、ベテランの浅村栄斗と阿部寿樹の状態も上がってきていますし、鈴木大地もいい状態をキープしていて野手全体がよくなってきました。長打力を発揮し始めたマイケル・フランコが下位に控えているのも大きいです。若手がなかなか出てきませんが、ルーキーの中島大輔あたりが台頭してくると面白くなりますね。

 課題はピッチャー陣です。先発にしろ中継ぎにしろ、しっかり投げてくれたらもっと試合が作れますよ。後半戦最初のカードで、荘司康誠が(7月28日のロッテ戦で)2カ月ぶりに一軍で登板するようですが、彼が計算できるようになると心強いです。

 首位のソフトバンクまで12ゲーム差。楽天だけではないと思いますが、ソフトバンクの強さは身にしみてわかっていると思いますし、まず意識に入れているのは2位でしょう。

 楽天が勝つ時は、小郷、小深田大翔、村林一輝が絡むことが多い印象があります。なので、彼らが機能するように打順を組んでほしい。下位の小深田から上位の小郷、村林への流れがよくなると打線全体につながりが出て得点力が上がるはずです。小郷と小深田は足も使えますしね。

【オリックス】

 オリックスは勢いに乗れそうかなと思うと乗れない。そんな状態を繰り返しています。やっぱり山本由伸が抜けたことが大きな要因でしょう。高い確率で連敗を止められる投手がいませんから。それと、宮城大弥が離脱していましたし、山下舜平大は復帰してからも状態が今ひとつです。アンダーソン・エスピノーザや曽谷龍平らは頑張っていますが、宮城、東晃平がそれぞれ3勝、山下が未勝利では苦しくて当然です。

 ただ、野手はそろってきていますし、西川龍馬もパ・リーグの野球に慣れてきています。4位の楽天に少し離されましたが(3.5ゲーム差)、まだまだいけます。チームとして優勝争いの経験値が高いですし、シーズン終盤の勝負強さを一番持っているチームだと思います。けっこう借金があったのを、一時的に5割に戻した力があるわけですから、貯金を作っていくことも可能なはずです。

 期待していた頓宮裕真(打率.199)、杉本裕太郎(打率.210)の数字は厳しいですが、上位を狙っていくうえで彼らの復調は欠かせません。ただ、繰り返しになりますが、打つほうのメンバーはそろってきている。森友哉、紅林弘太郎、西川らは比較的に安定しているので、それ以外のメンバーがどれだけ状態を上げていけるかでしょうね。

 戦えないことはないのですが、リズムに乗っていけない状態を、中嶋聡監督がどう整備していくかに注目しています。

【西武】

 西武は若手を育てる方向に舵を切ったほうがいいです。ここ数年を振り返っても、「いい若手が出てきたな」と思える野手がなかなかいない。源田壮亮や外崎修汰に関しても、結果が出ないのであれば外し、若い選手を入れて経験を積ませていくしかないです。

 来季以降を見据えて若手にシフトしても、誰も文句は言いませんよ。ただ、育てていくポテンシャルを感じる選手がいる、ということが条件です。やっぱりファンはお金を払って球場に来ているわけですから。

 ここ最近は山村崇嘉に4番を打たせていますね。確かに山村はいいものを持っています。ただ、「ちょっと待てよ、ファームに4番候補はいないのか」と思ってしまいます。大砲として期待されている渡部健人も一軍の試合に出られないとなると、お先真っ暗です。

 ピッチャーはいいですね。隅田知一郎、武内夏暉、(7月15日の)オリックス戦でプロ初勝利を挙げた菅井信也もいいですし、先発陣は順調に育っています。「野球はピッチャー」とも言われますが、そこがしっかりしているのは救いです。

 西武に関しては、来年どうこうという問題ではありません。すでに基盤ができている強いチームだって来年のことは考えます。今の西武は、その基盤から作っていかないといけない。そこをおろそかにしていると、他のチームとの差はどんどん広がっていきます。中途半端にツギハギで選手をあてがうよりは、本腰を入れてゼロから始めたほうがいいと思います。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。

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