大谷翔平の「ライバル」は誰か? 今季メジャーの投手・野手からひとりずつピックアップ

【最速164キロの右腕と「力と力の勝負」】

 ロサンゼルス・ドジャースに移籍後も大活躍を続ける大谷翔平にとって、メジャーリーグでの"ライバル"となる選手は誰なのか。過去にはジャスティン・バーランダー(ヒューストン・アストロズ)、マックス・シャーザー(テキサス・レンジャーズ)のようなベテラン投手との対戦が話題になったが、世代の違いもあって、これらのレジェンドたちをライバルと呼ぶのは少し違うかもしれない。

 2021年にMVPを争ったウラディミール・ゲレーロJr.(トロント・ブルージェイズ)は、毎年のようにタイトルを競い合う存在になるかと思えたが、以降の活躍は今ひとつ。"格"という意味で大谷とはかなり差がついた印象がある。宿敵が見つけづらいことは、昨季まで投打の二刀流をこなしてきた大谷の"ユニークさ"を物語っているともいえよう。


開幕から活躍を続けるドジャースの大谷翔平 photo by Getty Images

 しかし今シーズンの前半戦、今後しばらくライバル関係を築いていきそうなふたりの選手との印象深い対戦があった。まずは真っ直ぐの球速が最速101.9マイル(約164キロ)を誇るピッツバーグ・パイレーツの豪球右腕、ポール・スキーンズだ。

 2023年のドラフト全体1位でメジャー入りした22歳のスキーンズは、6月5日(現地時間。以下同)のドジャース戦で大谷と初対決。3万人近い大観衆が集まったこの日の初回、第1打席は101、100、101マイルの4シームを投げ込み、大谷を空振り三振に斬ってとった。

『MLB.com』のサラ・ラングス記者によると、先発投手が3球連続100マイル以上を投げて空振り三振を奪ったのは2008年以降の集計で初めてとのこと。圧巻の投球に、大谷も「すばらしいボール。もちろん速かった」と感心した。

 ただ、大谷も黙ってはいない。二死一塁で迎えた3回の第2打席。カウント3-2から高めの速球を捉えると、打球はやや詰まり気味ながらもセンターに伸びていく。そして、バックスクリーンに飛び込む15号本塁打となり、PNCフィールドのどよめきはしばらく収まらなかった。

 スキーンズは「(大谷との激突を)"力と力の勝負"と呼んでほしい」とコメントしたが、メジャー屈指の長距離砲となった大谷と対決し、そう言ってのけられる投手は多くはいないだろう。スキーンズと大谷の対決には、そんな言葉も大袈裟ではないと思える魅力があった。

 大谷が打った101.1マイルの真っ直ぐは、これまで本塁打にした全球種のなかで最速。また、スキーンズが速球を長打にされたのは、メジャーでの5戦目にして初めてのことだった。豪快な対戦に、スキーンズは笑顔が抑えきれない様子でこう語っていた。

「こういうマッチアップがあるからこそ、この(メジャーの)ゲームなんだ。対戦は間違いなくクールな瞬間だった」

 スキーンズは大学時代、投手と捕手の二刀流でプレーしていたことでも知られる。また、偶然にも2018年4月8日、大谷がエンゼルスタジアムで本拠初先発したアスレチックス戦を、ファンとして球場で観戦したというエピソードも。そんな背景もあって、初対決の前日には「僕は彼(大谷)を見て育った。二刀流の選手であり、ドラフト指名されるまでは僕もそうなりたかった。いろんな意味でインスピレーションを得たよ」と目を輝かせていた。

 ただ、そういったバックグラウンドを抜きにしても、豪腕投手と最強打者の真っ向勝負は、野球漫画のようなシンプルな魅力がある。スキーンズはここまで4勝0敗、防御率2.29、39回1/3を投げて53奪三振と期待どおりの成績を残してきた(成績は日本時間6月23日時点)。ケガさえなければ将来は有望。順調に成長すれば、同じナ・リーグに属する大谷とは何度も対決の機会があるはずだ。

 次のドジャースとパイレーツの対戦は8月9日から、今度はロサンゼルスでの3連戦が組まれている。ここでもスキーンズに登板機会があれば、話題を呼ぶことは間違いない。注目の第1ラウンドが終わって間もないが、次の対戦が早くも楽しみである。

【ワールドシリーズでの対決も期待のスラッガー】

 もうひとりは野手。現時点の人気、格、ステータスといった面を考慮すると、大谷に最も近い位置にいるのはニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジだろう。

 本塁打王に2回、MVPに1度輝いている身長約2mの巨漢スラッガーは、大谷と同じくクリーンなイメージのスーパースター。今季も27本塁打を放ち、両リーグ単独トップに君臨している。

 対戦数が少ないだけに"大谷のライバル"というイメージはなかったが、2017年に52本塁打、2022年に62本塁打を放ったジャッジも、紛れもなく"球界の顔"であることは間違いない。

 「『デカいなあ』と思います(笑)。見慣れないサイズというだけでも印象的ですけど、どういう点差でも、どういう状況でも自分のバッティングを崩さずにプレーしているのがとても印象的。見ていて勉強になります」

『ESPN』で中継された6月9日の試合前、インタビューを受けた大谷はジャッジの存在感と実力をそう絶賛していた。

 ニューヨークで6月7〜9日に行なわれたヤンキース対ドジャースの3連戦の際、ふたりの対決は"ワールドシリーズ前哨戦"とまで呼ばれるほど大きな注目を集めた。ヤンキースタジアムでは、大谷とジャッジのコラボレーションによるボブルヘッドが特別に売り出されたほどだ。

 特に9日のゲームでは、両雄の"一騎討ち"が4万8023人の大観衆を沸かせた。とは言っても派手なアーチ合戦ではなく、勝負になったのは大谷の"足"とジャッジの"肩"。8回、二塁打で出塁した大谷は一死で三塁に進み、後続打者の浅い右飛で本塁を狙った。

 強肩のジャッジがライトから投じた93.4マイル(約150キロ)の好返球でギリギリのタイミングになるかと思いきや、スプリントスピード秒速29・4フィート(約8.96メートル)で駆け抜けた大谷は難なく生還。このハイレベルの攻防のあと、ジャッジは「彼は速いね」と舌を巻き、大谷の総合力を称えた。

「僕が95、96マイルが投げられたら(大谷をアウトにする)チャンスがあったかもしれないが、彼はスピードスター。すばらしいアスリートだ。球場全体に打球を飛ばし、あんな浅い打球でも犠飛で生還してしまう。体の状態が万全な時は投球もするんだから、最高の選手だよ」

 この3連戦では、ジャッジが11打数7安打、3本塁打4打点と大暴れ。13打数2安打1打点でノーアーチに終わった大谷を打撃面では上回った。ただ、ふたりは打つだけではなく、さまざまな形で"魅せる"ことができる。ともに人気も抜群なため、ダラスで開催される7月のオールスターゲームでも両リーグの看板を背負うことになるだろう。

 両選手が全盛期を迎えている今のうちに、ワールドシリーズでも激突してほしいと願わずにはいられない。現在、ドジャースとヤンキースはそれぞれの地区で首位を快走しているだけに、今年はそのチャンスが十分にある。最終決戦での直接対決が実現したら、その時こそ、大谷とジャッジが現役選手のなかの"最高級のライバル"として広く認められることになるかもしれない。

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