【MLBで三振の山】カブス今永昇太、快進撃の秘密 内川聖一氏は「ストレートの回転数が多く、空振りを誘う」と分析

快投を続けるカブスの今永昇太(写真/共同通信社)

 今シーズンからシカゴ・カブスでプレーする今永昇太(30)の快進撃には驚くばかりだ。

【写真10枚】NPB史上85人目のノーヒットノーラン時、花束を掲げる今永昇太。他、顔にも力が入るフルスイングのバットの上を今永のボールが通過した瞬間、ボディペイントで応援するファンも

 4月の成績を振り返ると、デビューから無傷の4連勝を飾り、勝利数はMLB1位タイ、防御率0.98はMLB2位。MLB公式記録によれば、「デビュー5試合で4勝0敗以上での防御率1.00未満」は、MLB史上79年ぶりの快挙となった。【*5月7日(日本時間8日)時点では、7試合に先発し5勝0敗、防御率1.08】

 横浜ベイスターズでコーチ経験がある杉本正氏も驚きを隠せない。

「WBCでの好投(計6イニングを投げ7奪三振)はあったが、ストレートでこれほど空振り三振が取れるとは予想していなかった。ややでき過ぎかもしれないが、MLBでは珍しい左のスプリッターというのが大きいのではないか」

 NPBでは8年間で64勝を挙げ、通算防御率3.18の数字を残している。2022年にはノーヒットノーランも達成するなど実績を残したものの、メジャーでこれほどすぐに活躍するとは予想外だった。

 平均190cm近いメジャーの先発投手の中で今永は178cmとかなり小柄。ストレート(フォーシーム)の平均球速も148km(2023年NPB)と遅い部類に入る。これまでMLBで実績を残した大谷翔平やダルビッシュ有黒田博樹ら大柄の本格派とは明らかに違うタイプだが、並みいる強打者をストレートで抑え込めるのはなぜなのか。

 横浜、ソフトバンク、ヤクルトでプレーし、史上2人目のセパ両リーグで首位打者に輝いた内川聖一氏の目にはこう映る。

「活躍の原因はいくつかある。メジャー球や固いマウンドへの順応力もさることながら、意識して高めのストレートを投げ込んでいることで、持ち球であるすべての球種が生きてくる。

 加えて、メジャー野球の特徴にじつにうまくフィットしている。メジャーのバッターのトレンドは低めに沈むツーシームやシンカー系のボールに対し、いかにしてフライやライナーを打つか。そのためバットのヘッドを下げながら手首を返さないようにバットを出そうとする。

 これに対し、今永投手の高めのストレートは回転数が多いためにバッターの予測よりも落ちず水平に近い角度でベース上を通り、バットの軌道と接点がなく空振りさせるシーンが多い」

昨年の大谷翔平を凌駕するストレートの回転数

 ストレートで回転数が多いと、ボールに揚力がかかり、伸びのあるボールになるとされる。昨シーズンのMLB平均は毎分2234回転。今永は2400回転台を記録しており、昨年のエンゼルスの大谷翔平の平均2260回転より多い。

「スピードも大切な要素だが、バッターが打ちやすいのはすべての球種の回転数が平均的なピッチャー。バッターの予測通りのボールが来るからです。それに対し、今永投手はストレートの回転数と変化球の回転数の差が大きい。そのためストレートは球速より速く感じ、より変化球が意識されることになる」(内川氏)

 デビュー3試合目で初失点したが、登板5試合のうち3試合が無四球。27イニング2/3を投げて与四球3はMLB1位にランクされている。

 ロッテ、中日、巨人でプレーし、メジャー挑戦経験もある左腕投手の前田幸長氏はこう分析する。

「うしろがコンパクトなフォームのため、バッターにはリリースポイントが見えづらくタイミングが取りにくい。それでいて回転数が多いため、ボールが手元で浮き上がるようになって空振りを誘う。日本ではファールで粘ったり、コツコツ当ててくるが、メジャーのバッターは振り回すために奪三振数につながっている。日本以上にメジャーが合っているタイプではないか」

 過去、メジャーに挑戦した日本人左腕は9人。最多勝ち星は石井一久の39勝で、菊池雄星の34勝、岡島秀樹の17勝と続く。「自分が変化しないと進化できない」「船出とたとえるなら、まだ船からロープを外しただけ」など、数々の名言でDeNA時代から「投げる哲学者」と呼ばれた今永に、記録更新への期待感は十分すぎるほどある。

取材・文/鵜飼克郎

※週刊ポスト2024年5月17・24日号

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