【記事から消えた「お~ん」】阪神・岡田監督が囲み取材再開も、記者の“録音自粛”で「そらそうよ」や関西弁など各紙共通の表現が消滅

報道に大きな変化が(左画像、時事通信フォト)

 2年連続の日本一を目指す阪神。開幕直後こそもたついたが、その後は好調を維持し、セ・リーグ首位でGWを迎えた。今季は4月上旬から岡田彰布・監督の試合後の囲み取材対応がなくなり、昨年の各紙で大人気だった「岡田語録」が姿を消すという異常事態もあったが、それも大型連休を前に復活。ただ、以前の岡田語録とはだいぶ内容が違っている。その裏側で起きていたこととは──。

【画像】各社の紙面に復活した「岡田語録」。たしかに「お~ん」「そらそうよ」といったフレーズが消えている。

 在阪スポーツ紙では、勝っても負けても阪神ネタが一面を飾り、三面までタイガースの記事で埋まるのがお馴染みだ。昨年は15年ぶりに岡田監督が縦縞のユニフォームに袖を通し、各紙はその試合後の談話をまとめた「岡田語録」をスペースを割いて掲載してきた。背景には、本音を隠さない岡田監督独自のスタイルがあったという。スポーツ紙デスクが言う。

「メディアの前で喋ったことはすべて書いていい。岡田監督の囲み取材はそんな暗黙のルールの下で行なわれてきた。実際、“今のは書いたらアカンで”と言ったことが一度もない。過去にそんな監督はいませんでした」

『岡田監督アレトーク』(デイリー)、『新岡田語録アレやコレや』(スポニチ)、『岡田監督のまあ聞いてえな』(サンスポ)、『岡田監督語録はっきり言うて』(日刊スポーツ)と各紙ともスペースを割いて掲載。阪神ファンのみならず、選手にとっても監督の本音が聞ける貴重な機会となっていたという。

各紙が一斉に「想定外」を訂正

 また、岡田監督には「アレ」「はっきり言うて」「そんなんお前」「そらそうよ」「お~ん」といった独特の口癖があり、各紙はそうした“岡田語”も盛り込んで試合後の発言を取り上げてきた。昨年は日本一になったこともあり、新語・流行語大賞の年間大賞に「アレ」が選ばれた。

 岡田監督の言葉が社会現象を巻き起こしたわけだが、今季の開幕後には異変が起きていた。スポーツ紙編集委員が言う。

「岡田監督の取材は、本人からオフレコと釘を刺されることがないから、そのぶん書く側の気配りが必要となる。1社でもそこを踏み外すと、その日の囲み取材がなくなるという事態が起きたりする。これまでは数日で復活していたのだが、今年の開幕後は深刻な事態に陥ってしまいました」

 4月6日付けの在阪スポーツ紙から「岡田語録」が姿を消すと、その状態が6カード以上も続いたのだ。前出のスポーツ紙デスクが説明する。

「4月4日、京セラドームでのDeNA戦後の囲み取材でのコメントが、岡田監督の発言と違う方向で書かれたということで、翌日から取材対応がなくなった。各社とも記者はICレコーダーで談話を記録しており、忠実に再現した記事になっていたが、球団側から正式に抗議もなく、何が問題かはっきりしないまま、取材対応なしの状況がズルズル長引いた」

 テレビカメラを前にしての監督インタビューのあとに行なわれる囲み取材は本来、マイクオフということでオフレコも含まれる。ただ、岡田監督は前述の通り「オフレコなし」を貫くため、その結果として今回の事態が起きたということのようだ。

 人気コーナーの岡田語録を再開させられず頭を抱えた各紙は、専属評論家や球団関係者を通じて岡田監督に真意を確かめたという。その結果、2カード連続で負け越したことを聞かれた岡田監督があくまで想定内というニュアンスで「ちょっと想定外。ちょっとやな」と答えたのを、各社が「想定外」と騒ぎ立てたことに対する意思表示だとわかった。

 各紙は4月23日の紙面で「序盤の苦戦は想定内」(スポニチ)、「想定外ではなかった岡田監督の真意」(サンスポ)、「想定外ではなく想定内の岡田監督の真意」(日刊スポーツ)、「消えた岡田監督語録、伝えたかった真実」(デイリー)と訂正の署名記事やコラムを掲載し、その日のDeNA戦の試合後から囲み取材が再開。翌24日の紙面で岡田語録が復活したわけだ。

「横並びの全文文字おこし」をやめる

 ところが、再開した「岡田語録」は以前と様子がだいぶ違っている。各社の岡田監督のコメントから「はっきり言うて」「そらそうよ」といった岡田語が激減、「お~ん」は完全に消えた。社によっては関西弁までなくなってしまったところもある。また、以前は各社ほぼ同じ内容だったが、社によって取り上げる部分が異なるようになった。

 たとえば木浪聖也の3失策もあり2対8でヤクルト(甲子園=4月26日)に敗れた翌日の岡田語録では、木浪の失策について「知らん、それは本人に聞いてくれよ。分かれへんやんか、それは」とデイリーと日刊スポーツは触れたが、サンスポとスポニチは書いていない。これまでの横並びではなく、各社が記事化する発言を取捨選択している。阪神OBが言う。

「全社が音声をおこしたほぼ全文を記事にしていたことのほうが異常で、いまは本来の囲み取材に戻ったということ。ネットでの速報が当たり前になり、若い記者が岡田監督のコメントをICレコーダーで録音していかに早く正確に記事にするかが勝負になっていた。記者のなかには録音がそのまま文字になるアプリを使っている者もいて、『お~ん』や『う~』といった言葉まで記事にそのまま再現されていた。

 今回、問題になったケースでは岡田監督が“想定外”と発言したのは事実だが、録音をおこしているだけだからその真意を取り違えてしまうわけです。そこで報道陣がICレコーダーでの録音を自粛し、メモを書いて記者の中で一度、岡田監督の発言を消化してから記事にするかたちになった。岡田監督が条件を出したわけではなく、人気コーナーを存続させるためにマスコミ側からそういう形式にするかたちで落ち着いた」

 音声のおこしをそのまま記事にするのが異常というのはこの阪神OBの指摘の通りだが、一方で再開後の岡田語録では関西弁まで消えてしまうところもあり、発言の魅力が減じてしまう懸念もありそうだ。各紙には、羹に懲りて膾を吹くような対応ではなく、魅力的な岡田語を正しい解釈で報じる努力を続けてもらいたいものだ。

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