阿部慎之助監督、4年ぶり優勝の裏で「常勝巨人」を見据えて送り続けた助言

明るい表情でチームの全体練習を見守った阿部監督(カメラ・相川 和寛)

 4年ぶりのリーグ優勝を果たした巨人は1日、全体練習を再開した。阿部慎之助監督(45)は、チームを頂点に導く中で、常勝球団を作るために先を見据え、門脇、浅野ら若手に熱心に打撃の助言を送り続けた。繰り返し伝えたのは、データやSNSでさまざまな情報を得られる現代でも、原点の反復練習が大切であること。打ち方の“引き出し”が少ない選手は成功するのは難しいと柔軟性を求めた。巨人の優勝への足跡を振り返る連載「巨人Vの真実」を全5回で掲載する。

 熱血指導が行われていた。141試合目で4年ぶりのセ・リーグ制覇を果たした9月28日の広島戦(マツダ)。阿部監督は試合前練習で浅野に注目し、バットを持って身ぶり手ぶり助言した。足の上げ方や構えを微妙に変えながら、さまざまな打ち方を伝授。若手への同様の指導はシーズン通して見られた。その裏には先を見据えた指揮官の思いがあった。

 「今の子って、その一つの形でしか打てなかったりとか、アレンジする力がない。打ち方を何パターンか自分の中で持っているかと言ったら持っていない。その形でしか打てません、ではなかなか打てないと思うよ」

 現役時代406本塁打、2132安打を記録した阿部捕手。アマチュア時代から素質があったとはいえ、プロ入り後の猛練習で確固たる土台を築いた。

 「1、2年目の時とかは、いろんな人がいろんなことを言ってくれた。ありがたい話なんだけど、これは自分に合ってないなとか、自分でチョイスして、いいものはやってみる。そこから自分でまたアレンジしてとか、そういうのが大事なんだよね」

 前半戦のある日、打撃不振に苦しんでいた門脇に同様のアドバイスをした。

 「門脇には言ったんだけど、いろんなことをみんな良かれと思って言ってくれるけど、それを切り捨てる作業もしないといけないわけ。これは自分に合ってないなとか。でも、切り捨てる作業は教えてくれた人と話し合いが必要だよねと。そうしたら教える側としたら、じゃあ違うアプローチの仕方は何かないかなって考えるでしょ」

 現代はYouTubeや、SNSで無数の情報を入手できる時代。データ面などテクノロジーも進化している。だが、それらに頼りすぎて視野が狭くなってしまうと成長の妨げになりかねない。指導者からの助言を自分なりにかみ砕き、引き出しを増やすことが重要だ。

 「僕はこうなんですって(頑固に)言っててもね。あのイチローさんだって、何千本ヒット打っても毎年打ち方変えてるぞって」

 成功のために必要な柔軟性を磨くためには原点の練習量が不可欠。振って振って振りまくって覚えるしかない。動画を見ているだけで技術が向上するほどプロの世界は甘くない。そのことを若手選手は忘れてほしくない、というのが指揮官の思いだ。

 「量より質とか言うけど、大事なのは量。とことんやり尽くして、誰よりも数をこなして、自分のものを作ってほしいなって思うね」

 シーズン中、試合前の打撃練習でケージに入って実演指導したこともあった。早出練習で打撃投手を務めた。トス上げ役を買って出て、地面すれすれの球を打つ練習を課して対応力を鍛えることもあった。全て練習量の大切さ、応用力の重要性を示すためだった。

 「次世代の選手を入れて勝つってこともしないといけない」と、我慢強く若手を起用してきた。門脇はまだ課題もあるが、前半戦の打率2割台前半から8月以降は2割7分と上昇。浅野も優勝争いの中で好結果を残した。長野、坂本らベテランの底力を信じて頼る一方で、若手とともに汗を流し、プロで成功するために大切なことを伝え続けた新人監督。歓喜のリーグ優勝の裏でまいた種が近未来、大きく花開くことを願っている。(片岡 優帆)

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