野村克也でも、古田敦也でもない…尾崎世界観を熱烈なスワローズファンに誘った“意外な選手”とは

「自分が積極的に応援するタイプの選手ではなかった…」熱烈なスワローズファン尾崎世界観が明かす“青木宣親”への本音〉から続く

 愛するチームで更なる伝説を築いてきたミスタースワローズ・青木宣親が、今季限りでユニフォームを脱ぐ。

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 球団を代表するレジェンドの引退を、ファンはどのように受け止めているのか。ここでは、熱烈なヤクルトスワローズ愛好者として知られ、対話集『青木世界観』(文藝春秋)で青木宣親と本音を交わしたミュージシャン・作家の尾崎世界観の熱烈なスワローズ愛に迫る――。(全2回の2回目/1回目を読む)
 

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1992年の東京ヤクルトスワローズ

――単刀直入にスワローズの魅力って何ですかね?

尾崎世界観(以下、尾崎) 本当に何なんでしょう。もうずっと見ているので、逆に何なのかこちらが聞きたくなるほどです。

――始終、試合結果やニュースが気になる?

尾崎 シーズン中は大体3時過ぎになると誰が(二軍から)昇格するかな? とか、5時半になると今日は誰がスタメンかが気になります。でも負けた時はニュースも何も見ない。だから最近はあまり見ていません(笑)。そういう意味では、何か1日の流れを決めるものでもあります。でも魅力と言われると何だろう。それが分からなくなるぐらい好きなものって、他にはないので。

©文藝春秋

――「生活」みたいなものでしょうか。

尾崎 そうですね。人生の魅力とか、改めて考えないですもんね。

――きっかけはお父様の影響だそうですが、子供の頃最初に記憶に残っているスワローズのシーンは何ですか?

尾崎 ファンになった年に優勝したんですよ。1992年だったので。最初は無理やり試合に連れて行かれていましたが、テレビで見た西武との日本シリーズがものすごく鮮烈で……。第1戦で杉浦(享)さんが代打サヨナラ満塁ホームランを打ったんです。あの時から完全に好きになりました。

極端に強くなったり、弱くなったり

――野村克也監督時代ですね。森祇晶監督率いる西武とまさに激闘でした。

尾崎 当時の日本シリーズはデーゲームで、1993年のシリーズ第7戦は平日でした。学校の先生がテレビをつけて「今日の授業は特別にこれにする」と言ってクラスみんなで見たことを覚えています。授業が終わってもまだ試合が続いていて、下校途中に商店街の電気屋のテレビで見ていて、それでもまだ決着がつかない。

 それから走って家に帰ってテレビをつけて、日本一の瞬間を見たんです。高津(臣吾)現監督と古田(敦也)さんが抱き合った場面も強く印象に残っていますね。

――最初の記憶は「強いスワローズ」なんですね。

尾崎 そうです。1995年も優勝して、まさに黄金時代と言われていた頃でした。でもそこから弱くなってしまって、より愛着が湧いてきたんです。極端に強くなったり、弱くなったりする。そういうところも魅力ですよね。

――神宮球場にも通っていたんですか?

尾崎 通っていました。ファンクラブに入っていて、10回観戦したら賞品がもらえるというのがあって。小学生の時、初めて10回を超えてドキドキしながら会員証を提出したら、賞品はボールペンでした(笑)。

――ヤクルトっぽいエピソードでもありますね。

尾崎 (笑)。四角い箱に入っていたのを覚えています。

――誰か特定の選手に熱中した時期というのはあるのでしょうか。

尾崎 小学生の時は飯田(哲也)さんを応援していました。

――玄人好みの小学生だったんですね。

尾崎 ずっとそうなんです。あとは助っ人外国人選手が好きで、(レックス・)ハドラ―とか。ミミズを食べるというエピソードもありましたね。

――そうなんですね。じゃあスワローズは音楽より先に夢中になったものでしょうか。

尾崎 そうですね。

――忘れられない試合はありますか?

6時間26分の激闘の末に…

尾崎 初めて行った試合が、(巨人の)原辰徳さんがバットを投げたあの試合でした(註:1992年7月5日、ヤクルト対巨人戦)。あとは夜中の11時半とか12時近くまで試合が長引いた時に、深夜まで起きてラジオを聴いていた記憶が強く残っています。昔は延長15回までだったので、甲子園の阪神戦で、八木(裕)さんのホームラン判定が覆って長引いた試合(註:1992年9月11日、阪神対ヤクルト戦)なんかもありましたよね。

――6時間26分の激闘の末に、延長15回引き分けという史上最長試合ですね。ラジオで聴いていたというのは、尾崎さんの原風景なんですね。

尾崎 もちろんテレビも見ていましたが、ラジオ中継を聴くのが好きでした。ニッポン放送ショウアップナイターの試合経過を伝えるチャイムがあるんですが、あの音を聞きながら、開け放したベランダから生ぬるい風が入ってくる……というのが夏の記憶です。

――野球の「音」が生活の中にあった。

尾崎 子どもの頃からラジオ中継を聴きながら今試合がどうなっているかを想像していたので、そのことが創作に役立っている面はあるかもしれません。

 昔はラジオ中継が商店街の色々な店で流れていたので、歩いているだけでプロ野球が聞こえてきました。

――ないとは思いますが、野球の音に発想を得て曲を作ったりしたことはあるのでしょうか?

それぞれのファンが喜んだり落胆したりする声

尾崎 ないです(笑)。音楽活動とはまったく別のところにあるプロ野球というものが好きなんです。だからバッターが打席に入る際の登場曲もあまり聞きたくなくて。知っているバンドの曲が流れるとテンションが下がる時もあります(笑)。でも音は本当に大事ですよね。球場の音は、ライブの歓声とはまったく違うもので、それぞれのファンが喜んだり落胆したりする声が聞こえるのが面白いです。

――今年はなかなか厳しいシーズンでしたね。

尾崎 毎年どんなに良くても悪くても、2月になればまたリセットされる。野球には色々な楽しみ方がありますよね。勝てなくて苦しいシーズンでも、勝ち負けを超えたところでみんなが応援したり、歓声を挙げる瞬間が必ずある。青木さんの引退試合もそうなるはずです。その時、自分がどんな気持ちになるのかはまだ想像がつきません。でもきっと今まで感じたことがない感覚になると思う。そのことが、創作に大きな影響を与えてくれると信じています。

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青木選手と尾崎世界観さんとの共著『青木世界観』は好評発売中! 「引退」の他「チャンス」「才能」「勝利」など9つのテーマについてふたりが深く語り合った唯一無二の対話集です。

(佐藤 春佳)

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