「“中の人”に引退勧告も…」中日の愛されマスコット・ドアラを大研究 解説者で最も“いじり”がきつかったのは…

 プロ野球「中日ドラゴンズ」の人気マスコットであるドアラは主催試合の7回終了後、バック転に挑戦して球場を盛り上げている。成功すれば1勝、失敗すれば1敗とカウントされ、今季は成功51回、失敗20回で成功率7割1分8厘を誇った。バック転披露の前には、ドアラの“きょうの一言”も紹介される。「天気が変わりやすい。洗濯物はいつほそう…」など毎日違う言葉がフリップに書き込まれることもあり、ファンに親しまれている。

【全試合徹底分析】ドアラへの野球解説者のコメント一覧表 一番厳しかったのは…

10月14日、ホーム最終戦でバック転を決めてカメラにアピールするドアラ(J SPORTS 2より)

 テレビ中継では、ほとんど毎試合そのバック転の模様が放送される。そして、解説者と実況のアナウンサーがその日のドアラについて、コメントするのが恒例になっている。しかし、その内容は解説者によって、実に様々である。

 そこで今回私は、後半戦の中日主催試合(8月27日からの巨人3連戦除く)をチェックし、解説者がどんなコメントを添えているかを調べ、分析してみた。その結果、明らかになったのはドアラにとってあまりに過酷な現実だった――。

成功率を上げると解説陣の要求も上がる「ドアラのバック転」

 “無視、賞賛、非難”――。1990年代にヤクルトの監督を務めた野村克也氏は『三流は無視、二流は称賛、一流は非難する』という選手操縦法で、古田敦也や石井一久、高津臣吾などを育て上げ、4度の優勝、3度の日本一に導いた。

 この言葉は、解説者がドアラにコメントする時にも当てはまるのではないか。私は今回の調査を通して、そう思うようになった。それほどドアラと解説者との関係は、深いものだったのである。

 まず、東京五輪での中断後、初めてバック転を披露した8月17日の広島戦(バンテリンドームナゴヤ。以下全て同球場)を振り返ってみよう。ドアラが捻りを入れず、シンプルなバック転を成功させると、解説の鈴木孝政氏はこう述べた。

鈴木氏 ちょっと無難にこなしてくれたかなっていうね。

加藤晃アナ 攻めて行って欲しかったですか?

鈴木氏 まあいいでしょう、これで。いいでしょう。

加藤アナ 後半戦、ドアラも初めてですからね。

鈴木氏 はい、はい。立ち上がりですからね。

 落合博満監督最終年の2011年、開幕から22回挑戦して成功わずか4回で2軍落ちを経験したこともあるドアラだが、近年は成功率を上げているため、解説陣の要求が高くなっている。「綺麗でしたね」(彦野利勝/9月15日)「ああ、素晴らしい」(多村仁志/9月28日)のように“称賛”する人は稀だ。これはそれだけ“一流”と認められた証拠で、失敗すれば“非難”が待ち構えている。落合監督時代のエースである吉見一起氏は、8月18日の広島戦で着地を決められなかったドアラにこう呟いた。

江田亮アナ:おっと! 今日は、捻りは加えていませんでしたけども。吉見さん、今のどう見ますか?

吉見氏:……準備不足かなと。

「キレがない」「ちょっと足腰弱ってるね」とあしらったうえに無理な注文も

 ドアラの“きょうの一言”〈スポーツも雨も準備が大事!〉を受けてのコメントだったが、他の解説者も失敗に対して容赦しない。星野仙一監督時代に中継ぎのエースとして活躍した鹿島忠氏は「今日はちょっとキレがないですね」(8月21日)と冷静なトーンで反応。2度の首位打者を獲得した谷沢健一氏は「ちょっと足腰弱ってるね」(9月21日)と下半身の衰えを指摘した。

 この日に限らず、谷沢氏はドアラに厳しい。9月14日の広島戦では、斎藤誠征アナがドアラの一言〈すっかり秋 食欲の秋 スポーツの秋〉を読むと、「なんか平凡なコメントだね」とあしらい、さらには無理な注文を始めた。

谷沢氏 今日はバク転を10回ぐらいやってほしいね。

斎藤アナ はっはっはは。いわゆるカンペ芸にも手厳しく、そしてパフォーマンスにも厳しい谷沢さんのその言葉が聞こえているかどうか!

谷沢氏 もっといけ! もっといけ!

(バック転成功/観客拍手)

谷沢氏 ダメだよ、10回ぐらいやらないと。

斎藤アナ いやいや、そんな風に煽る解説の方は初めてです(笑)。

谷沢氏 はっはっは。

斎藤アナ とはいえ、成功ということになりました。

谷沢氏 いや~不満だなあ。

 この要求は、谷沢氏がドアラを認めた証拠だろう。“ドアラいじり”はバック転だけに留まらない。通常、ぬいぐるみの中の人に触れることはタブーだが、解説陣はお構いなしに言及していく。

「ずっ~と同じ人だったらね、かなりの歳を取ってるでしょうね」(達川光男氏/8月19日)

 

「(腰をさすっていたため)ドアラも歳を取ってきたんですかね」(和田一浩氏/10月14日)

 

「(腰が痛そうな姿を見て)若くないんだなと思っちゃいましたね。それこそ、バンテリンのお世話ですよね」(鈴木孝政氏/10月12日)

 ちなみに、吉見氏は「ドアラは人間じゃない……コアラ?」(9月22日)と根本的な疑問を投げかけていた。ほとんどの解説者が何かしらの突っ込みを入れる中で、最も手厳しいのが中日で監督、コーチを務めた森繁和氏である。

「もう、そろそろ終わりだろうと思ってる」と森氏はドアラの引退に言及

 8月20日の阪神戦、ドアラのきょうの一言〈やれる事ができる喜びかみしめて〉を聞いた森氏は「なんか自分のこと言ってるんじゃないですか」と指摘し、「もう、そろそろ終わりだろうと思ってる」と引退について言及。ドアラが失敗すると、こうまとめた。

森氏 ま、捻りを入れてるんでね、良しとしましょう。

節丸裕一アナ チャレンジしたことに価値があるということでしょうか。

森氏 やれる喜びを感じながら、失敗してください。

節丸アナ 森さんからのドアラへの一言でした。脇腹の辺りを押さえながら、ドアラが引き上げていきます。

 9月5日のDeNA戦、ドアラのきょうの一言は〈今できることを 今、全力で!〉だった。塩見啓一アナは「悔いのない人生を送るためには今が大事」という意味に受け取ったが、森氏は「ということは、捻りを入れないってことですかね、今日は」と推測。予想通り、ドアラがシンプルなバック転を成功させると、「これが今できることですね」と突き放した。

 名投手コーチは挑戦せずに失敗することを嫌う。10月6日の広島戦、ドアラが捻ってバック転を成功させると、森氏はこう褒めた。

森氏 おっ! いったね~。最近、調子がいいんじゃないですか。捻ってきますね。

水分貴雅アナ 今日は捻っても、ちゃんと着地を決めております。ちょっと頭をついたかなというところだったんですかね。

森氏 まあ、それはしょうがないですよね。ついてもオッケーですよ。

水分アナ 十分ですね。

森氏 挑戦することがいい。逃げるかと思いました。ちょっと勢いがありましたからね。

水分アナ 決めましたね。森さんからもお墨付きが。

森氏 今日ダメだったら、なんて言ってやろうかと思いましたけど。

水分アナ はっはっは! ドアラもね、大変です。

森氏 ははは。夏バテかと言ってやろうかと思いましたけど。

権藤博氏が“放送事故寸前”になってもドアラを無視し続ける理由

 森氏は愛情ゆえに厳しく“非難”しているのだ。そう、ドアラは誰からも愛されるマスコット……と書きたいところだが、終始“無視”を貫く男がいた。中日で「権藤、権藤、雨、権藤」と言われるほど投げまくって、1961年から2年連続30勝以上を挙げた権藤博氏である。

 調査期間中、権藤氏は3試合で解説を務めたが、一度もドアラについてコメントしなかった。

 それどころか、9月3日のDeNA戦では“放送事故寸前”までいった。ドアラ登場の直前、1対0のスコアボードが映る。森脇淳アナが「さて、この後どうでしょうね」と振ると、権藤氏は持論をまくし立てた。

「(投手は)もう1点くらい入って、2―0ぐらいになるとね、勝たなきゃ、ということがあるんですけど、そりゃ1―0でも勝たなきゃいかんと思いますけど、勝つということよりも、抑えることしか考えられないんです。点やらないように、どうやったら投げるか。戦うしかないんですよね。これがね、2点、3点になってくるとねえ、守りたくなるんですよ」

 森脇アナは、ドアラが登場しても試合について喋り続ける権藤氏に困惑。「はい」「はい」と相槌を打つも、決して話を広げようとしない森脇アナは「さて」の一言で難を逃れ、ドアラのバック転をなんとか実況できた。一方の権藤氏は、いつものようにドアラについては無言を貫いた。

 森脇アナは再び権藤氏とコンビを組んだ10月5日の広島戦で、カメラがスコアボードを映した瞬間、「さて、ドラゴンズは……」と試合の話をしようとした。しかし、1ヶ月前の悪夢を思い出したのか、すぐに「……バンテリンドーム、ドアラのバク転の時間になりました」と慌てて話題を切り替えた。この日、森脇アナは権藤氏の名前こそ呼ばないものの、「どうしますかね、捻りますかね」と疑問系で話すこともあったが、権藤氏は無言のまま、ドアラのバック転タイムが終了した。

 権藤氏の“無視”は「ドアラはまだまだ三流。もっと這い上がってこい」という言外のメッセージなのかもしれない――。

(岡野 誠/Webオリジナル(特集班))

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