ファイターズ対アスレチックス 「大リーグ先輩」と「日ハム後輩」の試合で学んだこと

 2019MLB日本開幕戦はシアトルマリナーズ、イチロー&菊池雄星出場で話題沸騰だ。僕も20日の第1戦チケットを手に入れた。本稿執筆時点は第1戦当日の昼だ。これを書き上げたら東京ドームへ向かう。個人的にはMLB日本開催を見るのは2000年のカブス×メッツ以来だ。あれが本邦初の「引っ越し興行」で、すごくインパクトあった。その後、ヤンキースやレッドソックスが来日したが、何となく気が乗らずテレビ観戦で済ませている。

 マリナーズは三度目のジャパンゲームズだ。やっぱりニンテンドーの関係や、イチローら日本人プレーヤーの活躍で縁があるんだなぁと思ったら、最多来日チームは意外にもオークランドアスレチックスだった。2003年のマリナーズ戦、2008年のレッドソックス戦、2012年のマリナーズ戦、そして今年と、実に四度も来てくれている。もちろん、多くの日本のファンはマリナーズやレッドソックスに肩入れしているから、アスレチックスを「対戦相手」として見てきた。なかなか味わい深いことである。「じゃないほう」で来日最多。

アスレチックスとファイターズの共通点

 で、僕らファイターズファンには今年、夢のようなギフトがあった。オープン戦日程の間を縫って、「2019年MLB開幕戦プレシーズンゲーム」として、アスレチックス戦が2試合組まれたのだ。僕は長年、ファンを続けているが「日ハムが大リーグと試合する」なんて初めての経験だ。天地がひっくり返る感じだ。韓国、台湾のチームとは練習試合や親善試合でつき合いがある。が、大リーグとの対戦はなかった。何かこういう「引っ越し興行」のときは巨人が調整試合のお相手をするもんだと思っていた。まぁ、今回も観客動員が見込めるマリナーズ戦は巨人が相手したんだけどね。

 日程もすごいのだ。ご覧ください。

 3月17日(日)12時、巨人×シアトル、19時、日ハム×オークランド
 18日(月)12時、日ハム×オークランド、19時巨人×シアトル

 東京ドームの変則ダブルヘッダー2DAYS。日曜日のナイターもビミョーといえばビミョー(マリナーズがロッカーからなかなか出て行かず、中田翔が球場の廊下で着替えたらしい)だが、やっぱり何と言っても月曜デーゲームだ。こんなの誰が見に行けるんだ。平日なだけでもきついのに月曜日だぞ。

 じゃ、私が。というわけで18日に勝負をかけた。前日は日テレG+で選手を覚え、雰囲気に慣れておく。何しろ「日ハムが大リーグと試合する」のだから、イメージをつくっておかないと、下手したら知ってる日ハムの選手だけ見て終わってしまう。「過去の対戦のアヤ」とかそういうもんが皆無なのだ。

 しかし、アスレチックスとファイターズは考えてみれば通じるものの多いチームだ。ともに西海岸と北海道という、中央からちょっと離れた場所に本拠地を持つ。僕の世代はリッキー・ヘンダーソンやホセ・カンセコを思い浮かべるが、今世紀に入ってからは『マネーボール』のアスレチックスだ。セイバーメトリクスを導入し、斬新なドラフト&トレード戦略、選手育成で名を馳せた。で、これに学び、NPBで最も『マネーボール』的な球団経営、チーム編成を実施してきたのがファイターズじゃないかと思う。いちばん新しい発想を持ったローカル&貧乏球団(?)。

 巨人の場合は正力松太郎の遺訓「巨人軍憲章」で「巨人軍は常に紳士たれ」「巨人軍は常に強くあれ」に続けて「巨人軍はアメリカ野球に追いつけ、そして追い越せ」とストーリーが埋め込まれている。非常に「戦後的」な構図だ。じゃ、日ハムは大リーグとどう向き合っているかといえば、そういう旧態依然とした「戦後レジーム」とは無縁である。もっと柔軟に「越境」するイメージだ。選手が移籍し、人的交流が活発に行われる。ファイターズのDNAのなかには常にアメリカ野球が入っている。

「大リーグ先輩」から「日ハム後輩」が学んだこと

「日ハムが大リーグと試合する」とどうなるのか。まず17日、第1戦のインパクトが大きかった。アスレチックスが「ブルペンデー」を仕掛けてきたのだ。これは先発投手が弱いチームが始めたユニークな投手起用だ。リリーフ投手が短いイニングをつないでいく。この日、アスレチックスは先発リアム・ヘンドリックス以降、1イニングずつ小刻みに継投し(唯一、6番手のヤスメイロ・ペティットだけが2イニング登板した)何と8人のリレーでファイターズ打線を1失点に抑え込む。なかにはフェルナンド・ロドニー、ホアキム・ソリアと、ビッグネームも入っていた。

 僕の記憶では1970年代の金やんロッテが(確かオールスター休みに入る前半戦最後の試合で)1イニングずつ9人のリレーを実施したことがある。これは相手打線も目先が変わって幻惑されてしまい、すごく面白かったのだ。ただ「ブルペンデー」とは発想が違って、村田兆治らローテーション投手も含めた総動員だったと思う。

 開幕3日前の、仕上がった状態の「MLBのブルペンデー」を直接体験できたことは大収穫である。おお、こういう感じなのか。ファイターズは今年、「オープナー」「ショートスターター」や「ブルペンデー」といった新しい投手起用法を採り入れるという噂だ。僕はアスレチックスのリリーフの層の厚さに舌を巻いた。こんなに強いブルペンなのか。個々にタイプは異なるが、150キロ台のパワーピッチャーが多い。しかも、そのスピードでボールを動かしてくる。ファイターズもこんなの組みたいなぁ。で、確信を持った。栗山英樹監督はこれ絶対やると思うな。

「オープナー」起用でスポーツ紙に名前が上がってるのは金子弌大と斎藤佑樹だ。第1戦では金子弌大が4回無失点、9奪三振とすば抜けた投球をした。完全に復調していてエースローテでも十分回せそうだが、短いイニングを使ってもご覧の通りだ。

 斎藤佑樹は第2戦の先発だった。今年は非常に順調で、2、3イニング(打者1巡)を抑えてもらう「ショートスターター」起用が現実的になってきた。アスレチックス戦はスティーブン・ピスコッティに一発を浴びるが、2回を投げてその1失点だけにまとめる。

アスレチックスとの第2戦に先発した斎藤佑樹 ©時事通信社

 つまり、第2戦はファイターズが「仮想ブルペンデー(正確には仮想ショートスターターデー?)」だった。斎藤佑樹の後、井口和朋加藤貴之秋吉亮宮西尚生浦野博司とこちらも小刻みにリレー、中島卓也のスクイズで勝ち越し(!)、王柏融、横尾俊建のタイムリーで4点リードした状態で、9回、クローザーの石川直也につないだのだ。

 いやぁ、面白かった。こう、何というか「大リーグ先輩」と「日ハム後輩」が1、2戦でコール&レスポンスだ。「ブルペンデーな、こうこうこうやるんよ」「あ、こうこうこうですか」的な応酬。バッチリ決まれば大リーグ道場免許皆伝の運びだった。が、ご存知の通り、石川直がクリス・デービスに3ランを浴びるなどして、4点差をフイにしてしまう。あぁ、「ブルペンデー」の直伝は幻に終わったか。

 ま、開幕前、相手も違う、審判もストライクゾーンも違う試合で石川直が抑えに失敗したからって、ガタガタ騒ぐことはない。プレシーズンゲームでよかったじゃないか。今年は石川直にはセーブ王になってもらうつもりだ。勉強になったでいいでしょう。ア・リーグのホームラン王に一発食らったなんて勲章だよ。

 が、石川直に限らず、もっと出てくる投手に威圧感が欲しいと思った。問答無用で1イニング投げて帰っちゃう感じだな。ブルペンはもっと強く出来る。「かわす」「ごまかす」じゃなく、戦うピッチングだなぁ。イメージ的には「山賊投手陣」くらいのやつを整備したい。何か夢がふくらむなぁ。

 まぁ、守備やバッティングに関しても大いに思うところあったが、キリがないのでここでは扱わない。石川直が打たれて第2戦は6対6の引き分けだ。日ハムは大リーグに追いつかれ、追い越されそうなヤバさを感じたが、同点で試合を終えた。楽しくて学ぶところの多い2日間だった。

追記、本稿の校正日、イチロー選手が引退を発表しました。僕は午前1時過ぎまで及んだ記者会見をYouTube配信で見終えたところです。オリックス時代、セカンドの頭を越す弾丸ライナーの満塁ホームラン(!)を打たれたのを思い出します。こてんぱんにやられたなぁ。あの頃から長い年月にわたって、野球の夢を見せてもらいました。本当におつかれ様です。

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(えのきど いちろう)

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