オープナーは日本球界に浸透するか。実現条件と挑戦に対する日米格差。

昨年5月19日のエンゼルス戦で「オープナー」として初回のマウンドに上がり、1イニングを三者三振に抑えたレイズのクローザー・ロモ。 photograph by Getty Images

 メジャーリーグ(MLB)の潮流は、日本プロ野球(NPB)よりはるかに速い。

 2017年のワールドシリーズをアストロズが制したとき、いち早く「フライボール革命」を取り入れたことが注目された。

 ところが、同年はMLB史上最多の6105本乱れ飛んだ本塁打が、昨シーズンは5585本に減少した。

 昨年、5年ぶりにワールドシリーズを制したレッドソックスのA・コーラ監督は、前年までアストロズでコーチを務めていた人物である。フライボール革命の効果を知り抜いているはずの新監督は、踏襲ではなく進化を持ち込んで世界一へと駆け上がっている。

「選手に伝えたのは打球の角度よりも速度を意識してくれということだ。つまりハードヒットだ」

 角度をつけようとする打者に、当然ながら投手も対抗手段を講じた。具体的には高めの速球の割合が増えた。恐らくコーラ監督はそうなることを見越していたのだろう。レッドソックスはさらにその先への一手を打ったのだ。

 レッドソックスの主砲、J・D・マルティネスは「あらゆる打席で本塁打を狙うなんて打撃は通用しない」と語り、打点王に輝いた。

 要するに強い打球を打つ。現在はトラックマンで角度、速度、回転数などが即座に出るからわかりやすいだけで、いわば打撃の原点に回帰したともいえる。

先発にリリーフを送り込む奇策。

 一方、投手起用で昨シーズンから注目されているのが「オープナー」と「ブルペンデー」である。

 先駆けはレイズのK・キャッシュ監督。5月19日のエンゼルス戦で、リリーフのS・ロモを先発させた。2回から本来の先発タイプを登板させる「オープナー」を、レイズは57試合も実行した。2番手以降も救援投手でまかなうのが「ブルペンデー」。こうした奇策ともいえる起用は、野球の永遠の課題と初めて向き合った産物ともいえる。

1回は先発投手に任せてはいけない。

 なぜならばMLBでは1回の防御率が最も悪いからだ。

 理由の筆頭は、1回は好打順(1番)から始まる。しかし先発投手は2回以降のペース配分も頭に入れておかねばならないから、配球を駆使せず、できれば単調な投球でスタートしたいからだと考えられる。

 果たしてこうした新たな投手起用はNPBにも輸入されるのか。

 前提条件は満たされている。昨シーズンはセ・リーグ(520得点、531失点)、パ・リーグ(481得点、470失点)ともにイニング別では、2番目に大きく差をつけて1回が最多だった。MLBと同じくデータ上、1回は「先発投手に任せてはいけないイニング」になっているのだ。

 先ほども理由を推測したが、長い野球の歴史が始まった瞬間から「1回は1番から」と決まっている。

 一方で、投手の分業化は進み、今や日米問わず先発完投を求められていない。

 つまり、フルマラソンから30キロレース程度に短縮されているにもかかわらず、1回は明らかに打高投低であり、きれいに立ち上がることはスターターの重大な課題として横たわっている。

日本での導入はまだ先か。

 実現するための条件はそろっているのだが、筆者はNPBが輸入に踏み切るのはまだ先だと感じている。

 まず、先発して1回を投げるだけでは敗戦投手になることはあっても勝ち星やホールドは絶対につかない。想定されていなかったので、現時点では記録上まったく報われない。

 また、ある現役の投手コーチは「そういう役割を任されている投手(先発のこと)がどう思うかですよね。そのために準備しているのに、リリーフがいくわけだから。それにメジャーとでは試合数が違います。それを5人のスターターで回している。6人の日本がオープナーをやってみて、たとえば3点取られたとします。絶対にホラ、見ろって意見が出てきますよね」と否定的だった。

 この考えは先発投手からその役目を取り上げてどうするという筋論にすぎない。その役目を果たせていないから救援を先発させるという逆転の発想が生まれたわけで、その反論としては成立していない。

 ただ、MLBより19試合少なく、延長戦は12回まででローテーション投手は1人多い。投球数の徹底管理を含め、リーグのシステムの違いは、導入に積極的になれない理由ともいえるだろう。

「1回」と「7回」を交換?

 先発投手は基本的に週1登板。だから昨シーズンの各球団の先発と救援の投球イニング割合は、最低のDeNAでも先発は平均5.28回、59%を投げている。最高の巨人は6.18回、69%。一軍投手13人制だとすると7人で残り30~40%を分担している。ただし、NPBでは出番に備えての準備投球の多さが蓄積疲労につながっており、オープナーを頻用して救援の持ち分を増やすわけにはいかない。

 現実的な方法としては、本来の先発には2回から7回までを任せる。

 つまり、元々7回を担当する救援投手が、1回と「交換する」と考えれば、理論上はオープナーは機能する。もしくは先発を5人に減らし、救援を増やす。登板間隔を詰める代わりに、分担イニングもオープナーを入れることで少し減らす方法もありそうだ。

 ブルペンデーに関しては3月18日のプレシーズンゲーム(マリナーズ戦)で巨人が挑戦した。若手有望株を中心に、救援投手だけで1試合をまかなった。

 また'07年のオールスター第1戦では、全セを指揮した落合博満監督が上原浩治(巨人)、高津臣吾(ヤクルト)、林昌範(巨人)、木塚敦志(横浜)、岩瀬仁紀(中日)、黒田博樹(広島)、久保田智之(阪神)、マーク・クルーン(横浜)、藤川球児(阪神)と史上最多の9人継投を実行した。

 これはオールスター直前の試合で、誰がどう登板するかをあらかじめ予測するのが難しかったために編み出した苦肉の策だ。ファン投票で先発部門1位だった黒田の負担を考慮し、1イニングに限定。それ以外は救援投手で固めた。ちなみにこの試合は上原が1安打打たれた(1死球)のみで、それ以降は全パの打者に出塁さえ許さずに完封した。オールスター級の投手でブルペンデーをやればこその結果かもしれない。

オープナーを試す監督は現れるか。

 大谷の二刀流を例外として、NPBは概してMLBよりも顕著に保守的だ。

 先発投手が1回に四苦八苦している現状はあまり気にせず、新たなことに挑み、結果が出なかったときのリスクは気にする。そこには挑戦に寛容かどうかという国民性も関係しているだろう。

 ちなみに昨シーズンのレイズは5年ぶりに貯金することができた。いいかどうか、日本に合うのか合わないのか。やってみないとわからない。

 NPBも今季は一軍登録人数が1人増えるだけに、まずはオープナーの可能性だけでも探ってみよう。そんな監督がいてもいいと思うのだが。

(「草茂みベースボールの道白し」小西斗真 = 文 / photograph by Getty Images)

ジャンルで探す