一軍にいない松坂、根尾が人気独占。転売、謎情報に揺れた中日キャンプ。

球団が、ファンとの接触によって右肩を痛めたと発表した松坂は2月中旬にキャンプを離れ、治療に専念。開幕は絶望視されている。 photograph by Kyodo News

 終わってみれば「松坂大輔と根尾昂のキャンプ」であった。

 最終クールに入った2月24日、北谷球場正面にあるグッズ売店では「売り上げ1億円到達感謝セレモニー」が行われた。節目の購入者には与田剛監督のサイン入りレプリカユニホームなどが贈られた。

 2年前までは多くて2000万円だった売り上げが、松坂が入団した昨年は5000万円に増え、根尾が加入し、松坂の背番号が変わった今年はさらに倍増となった。

 最も売れたのは根尾のネームタオル(2000円)で1万枚。売り上げ額だと松坂のレプリカユニ(6000円)で6000着。ほとんどの商品が沖縄限定デザインということもあり、名古屋などからの旅行客がお土産として大量購入するケースが目立ったそうだ。

 数と額で2人がタイトルを分け合った形。甲子園春夏連覇コンビの飛び抜けた人気が証明された。

松坂、根尾は愛されているが。

 しかし、水を差すようで申し訳ないが、球団は喜んでばかりもいられない。というのも、松坂はこのキャンプで1球も投げてはいない。根尾にいたっては1日も一軍キャンプ地の北谷には来ていない。要するに球場を訪れたファンの多く(松坂は数日間、練習はしている)は、目の前で動いている選手よりも、不在の選手のグッズをせっせと買い求めたということになる。

 2人の愛され度は恐るべきだが、プロ野球選手の商品価値を考えてみると、他の選手とのあまりの格差に愕然とする。

 くわえて話題を呼んだのがサインの転売問題である。2月4日に球団公式サイトで「ファンの皆さまへのお願い」として転売目的でのサイン取得をやめるよう訴え、改善が見られないようならファンサービスの制限も視野に入れていると「警告」した。

サインが“商品”になる現実。

 こうしたごく一部のファンによる行為は、実は昔から行われている。だが、せいぜい古書店などに持ち込むしかなかった時代に比べ、「販路」は飛躍的に広がった。

 なおかつ選手自身が自分のサインが商品となっている現実とその市場価格を簡単かつ嫌でもわかってしまう。金儲けに利用されているようで、いい気持ちはしないのは理解できる。したがって選手を守るべき立場にある球団は注意することになる。

 ただし「お願い」とあるように、法整備されているチケット類の転売とは違い、訴えるのは難しい。サインの求めに応じ、渡した瞬間から所有権はファンにあるからだ。

 買う人がいるから売る人がいる。自分の著作が売られていても、著者はどうしようもない。

 多くの書籍は元値より安くなるだろうが、希少な古書などであれば付加価値がつく。元値こそないが、選手のサインもやはり需要に基づくため、バカ売れした先の松坂ユニは2万5000円ほどで取引されていた。

サインを書きまくる松坂の離脱。

 こうしたファンの行為に対して、選手がやれることは2つしかない。サービスを続けるか、背を向けるか。「僕は売る価値もなくなるくらい、サインを書きまくる」と言うソフトバンクの王貞治球団会長は前者の代表人物だ。球団の「お願い」が出た後もサイン会を積極的に開いた松坂も同じく。

 大多数のファンのためにサインを書き続けるのか、ごく一部の人間のせいで書かないのか。もらう側のモラルが問われているのは言うまでもないことなのだろうが、競技者のスタンスも問われている。

 はっきりした答えを出すのが難しい転売論議がようやく落ち着いたころ、今度は松坂のキャンプ地離脱問題が大きな反響を呼んだ。発端は2月11日に球団が報道陣に向けてリリースした情報だ。

松坂大輔投手は数日前、ファンと接触した際に右腕を引かれ、その後、右肩に違和感を覚えている為、しばらくの間ノースロー調整が続く予定です」

「松坂がそう言ったから……」

 こうした広報部発の情報は当然のことだが「公式」であり「正確」であることは大前提だ。ということは、松坂の右肩違和感とファンに腕を引かれたことには因果関係がなければならない。そして、公表するかどうかは別問題ではあるが、最も知りたいのは「誰に」という点だ。

 ところが球団はこれっきり沈黙してしまう。

「要するに松坂がそう言ったから発表した。だけど松坂は事を荒立ててほしくないとも言ったから、引っ張った人物の特定もはなからやる気はなかったようです」

 こう事情を説明するのは現役のドラゴンズ番記者だ。これらの情報が漏れ伝わったことで松坂の「狂言説」までネットでささやかれたのだが、それはさすがに松坂に失礼だ。

 まず動機がない。程度は別として右肩の違和感そのものはキャンプ前からあった可能性が高いが、思わしくないのならそのままストレートに発表すればいいだけのことだ。わざわざ騒ぎが大きくなり、憶測も呼ぶ嘘をついてもメリットはないからだ。

警備体制への批判は少し気の毒。

 また球団の警備体制を批判する声もネット上にあふれたが、これも少し気の毒に思う。人員は昨年の松坂フィーバーで増やしており、人気選手(もちろん松坂はその筆頭)が移動したり、サインに応じるときには必ず警備員や球団職員がつくようにしていた。

 ということは激しく腕を引っ張るような明白な暴力行為があった場合、人物特定どころか取り押さえていたはずだ。そのたぐいの報告は球団には入っていないということは、警備員が気づかなかった軽微な接触ながら、松坂だけは「あれ?」と感じたことになる。

 ファンに一切触れさせるなというのが任務なら、規制線を張り、選手との間に壁となればいいが、選手は触れ合おうとしている。そうなると警備員は「悪意に基づいた過激な接触」は食い止められても、少し興奮したり、たまたま手が引っかかった程度ならどうしようもない。実際、その瞬間を目撃した関係者はいないとも聞いた。

右肩違和感、だけでよかったのでは。

 このように考えれば考えるほど、中日球団がこの発表で伝えたかったことが伝わってこない。

 徹底調査するわけでなし、警備体制をさらに強化したわけでもなく、この件での発表は一度きり。真相を明らかにできなければ、問題提起の役割も果たせない。

 とどのつまり、これなら右肩違和感という発表だけで良かったような気さえする。

 おまけに問題なのが、グッズの売り上げだけでなく、根尾のリハビリと松坂の離脱を超えるようなキャンプの話題がなかったこと。2人とも開幕一軍は苦しいようなので、せめてシーズンインと同時に猛ダッシュで明るい話題を振りまいてもらいたい。

(「草茂みベースボールの道白し」小西斗真 = 文 / photograph by Kyodo News)

ジャンルで探す