一軍半の選手のためのFAを作ろう。出場機会があれば輝く選手は多い。

8年目のブレイクを果たしたソフトバンクの牧原大成。過去6年の合計の2倍以上のヒットを1年で放った。 photograph by Kyodo News

 今年のオフも、「FA権」の行使による選手の動きがはげしいようだ。

 楽天、ソフトバンク、オリックスが争奪戦を繰り広げた西武・浅村栄斗内野手が楽天に移籍すると、同じ西武・炭谷銀仁朗捕手が巨人に、やはり巨人に決まった中島宏之内野手(元・オリックス)はFAではなかったが、去就が注目されていた広島・丸佳浩外野手まで巨人への移籍が決まった。

 オリックス・西勇輝投手はまだ動向を保留しているが、この原稿がアップされる頃には、もう来季の仕事場を決めているかもしれない。

 プロ野球の11月、12月は“FAの季節”である。

 そんな記事を眺めながら、フッと考えたことがある。たとえば、来季の巨人だ。

 炭谷銀仁朗、中島宏之丸佳浩がメンバーに加わることになれば、捕手と内野手と外野手の一軍メンバーから1人ずつこぼれてしまう選手がいるんだなぁ……。

 それが誰かはわからないが、間違いなく3名の「余剰人員」が発生することになる。

 努力を重ねてようやく一軍という枠に手がかかりかけたところで、その手が払われ、再びファームに甘んじる来季。そんな予感にとらわれる選手だっているはずだ。

 それは競争社会の常ではあるが、そうしたことの繰り返しで、あたら伸びる芽が摘まれてしまっては、こんなにもったいなく残念なことはないだろう。

 この国に乏しいのは、決して地下資源だけじゃない。こんな小さな島国だ。“人的資源”だって、そうは豊かじゃないはずだ。

花開いた大田泰示の才能。

 長距離砲の大器と期待されながら、巨人での8年間ほぼファーム暮らしを続け、一昨年日本ハムに移籍した大田泰示。彼が去年と今年、2年続けて立派な成果を残したことを、心から祝福したい。

 今年の4月24日、たまたま私の誕生日だったからよく覚えているのだが、日本ハム・大田泰示がオリックスのエース・金子千尋から札幌ドームに2本放り込んだ。

 昨年、日本ハムへの移籍1年目に外野手のレギュラーとして118試合に出場して、打率.258、15本塁打をマーク。プロ9年目の“新天地”にして、ようやく大器の兆しを感じさせてくれた大田泰示が、日本ハム2年目、本物の開花を果たすのではないか。そんな期待の中104試合に出場し、レアード、中田翔に次ぐ14本塁打をマークして打率は前年以上の.274。

 巨人での8年間とは一変、日本ハムの外野の一角を確かに占めようとしている。

ソフトバンクで埋もれかけていた牧原。

 ソフトバンク・牧原大成内野手の今季後半の活躍もめざましかった。

 オールスター明けあたりから二塁手のレギュラーとしてしっかり打線の脇を固め、後半戦の59試合で.317をマーク。持ち味の快足と敏捷な守備ワークで走り、守り、パ・リーグ2位の確保に貢献。日本シリーズ制覇につなげる貴重な働きをやってのけた。

 その牧原にしても、昨季までの7年間で一軍出場は175試合。ファームでは毎年のように3割前後をマークして、2013年にはウエスタンリーグの盗塁王、'14年には首位打者を獲得。地道に実績を積み重ねながら、なかなか報われなかった事実もあった。

「牧原なんか、ヨソに行ったらバリバリのレギュラーだよ」

「レギュラーどころか、タイトル獲れる実力だってありますよ」

 なかなかに辛口ぞろいのソフトバンク関係者ですら、そんな賛辞を送っていたほどだ。

 牧原大成の場合はFAで覚醒した例ではないが、プロ8年目の「遅すぎた春」。何かのはずみで、もしかしたら埋もれてしまっていたかもしれないような、ギリギリの台頭であったろう。

「もう1つのFA」があってよい。

 チーム事情によってファームに埋もれかけている選手にも、FA権が与えられてもよいのではないか。

 そういう制度が新たに設けられてもいいんじゃないか……と、ここ数年ずっと考えている。

 今のFA制度の現実とは、ある球団で懸命に働いて功なり名を残した選手が、さらに「望む環境」の中でもうひと旗揚げようとするボーナス制度、という表現でそう大きく外れてはいないだろう。

 ならば一方で、チーム事情によって実力発揮の場所と機会をなかなか与えられない選手たちのための「もう1つのFA」があってもよいのではないかと思う。

 たとえば、「6年以上200試合未満(野手の場合)」でもよい。一定の線引きをして、それに満たない出場数の選手たちに、

「どちらか、僕の力を買ってくれるチームありませんか!」

 そんな“申し出”を発してもよいという新たなFA制度。但し、非公開だ。「ヨッシャ!」と応じる球団がなかった場合、何ごともなかったように来季を迎えられるために。

飼い殺しはなんとももったいない。

 日本のような人的資源がそんなに豊かじゃない国だからこそ、余計に必要なのではないか。

 あの選手は、起用すればきっと働く……。ウチなら、バリバリのレギュラーなのにもったいない……。そんな他球団のつぶやき。

 一軍で使う気がないのなら、ほかの球団に出してくれ! 使ってくれれば働ける自信は十分あるんだ! そんな選手たちの叫び。

 そこから、新たな戦力が見いだされ、新たなスターが現れる。そんな事例が実際にあるからだ。

なんとか2000万、というFA。

 新聞で、11月23日の「広島カープ・ファン感謝デー」の様子が大きな紙面をさいて報道されていた。

「行かないで~丸!」

 大福餅ほどの大きな活字が並び、ダグアウトに姿を消していく丸選手に向かって、スタンドのファンたちが懸命に手を振っている姿が胸を打つ。

 中には、泣き叫びながら手を振っている女性ファンの姿もあった。

 確かに、巨人は「5年30億」かもしれないが、広島の「4年17億」だって精一杯の額であろう。

 ならば、こんなに「カープの丸」を懇願する街中のファンのために、思いとどまるという“選択肢”だって「あり!」ではなかったのか……と思うのは、事情を知らない私の単なる“なにわ節”なのか。

 そんな途方もない金額が飛び交うFAもあれば、7~800万をなんとか2000万くらいにしたい。

 そんな“切実”な願いを踏まえたFAだって、あってよいのでは。いや、なかったら不公平なのではないのか。

満を持して移籍した2人の巨人選手。

 このオフ、ずっと前からもったいなく、じれったく思っていた2人の選手が、巨人から新天地へ転じた。

 正直、もっと早く出していれば……と、ファン目線からいえばそう思う。

 故郷・仙台の楽天に向かう「10年393試合」の橋本到外野手と、自由契約となってDeNAと縁が結ばれた中井大介内野手は「11年345試合」。

 文字通り、満を持して……そんな心境の「2019年」であろう。この2人が、果たしてどんな来季を見せてくれるのか。

 少子化が叫ばれる社会である。野球にいそしむ少年たちが減っているという傾向もはっきり現れているともいわれる昨今である。

 ロボットじゃ決して肩代わりできないプロ野球界なら、これからは今まで以上に「人材有効活用」の時代であろう。

 ならば「2つのFA制度」があってもよいのではないのか。

 そんなことを、つらつら思ってみたりする歳の暮れである。

(「マスクの窓から野球を見れば」安倍昌彦 = 文 / photograph by Kyodo News)

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