高橋由伸監督の雰囲気が変わった!巨人が一体となって狙うCS下剋上。

エース菅野の好投をベンチで迎えた高橋由伸監督。辞任表明によるチーム一体となったラストスパートで、CSでの下剋上を果たせるか。 photograph by Kyodo News

 こういう戦いは相手もやりにくいはずである。

 13日から始まるプロ野球のクライマックスシリーズ(CS)。その大きな注目の1つはセ・リーグ3位から下克上を狙う巨人の戦いとなるはずだ。

 67勝71敗。

 レギュラーシーズンは5割を切る勝率4割8分6厘。しかも最終戦でようやくCSへの出場切符を手にしての進出だった。ただ、そうした事実以上に今年の巨人が異様なのは、まだまだチームは日本一の可能性を残す中で、すでに高橋由伸監督の今季限りでの退任が決まっていることなのである。

 こういう状況で監督がクライマックスシリーズの指揮を執る。これは過去でもほとんど例のない出来事である。

 退団が決まっている監督が指揮を執ることが、短期決戦のCSの戦いにどういう影響を及ぼすのかは、ちょっと想像がつきにくい部分でもある。

シーズン中の不調をリセットしての戦いに。

 もちろんこれまでもレギュラーシーズンの最中に監督の退団が発表されることは、よくあることだった。ただそういうケースでは、チームはすでに下位に低迷し、選手が何を思ってもいまさらどうしようもないのが現実だった。退任を発表した監督や選手がいくら情緒的になってみても、その後の戦いに大きな変化が表れることはほとんど考えられない。

 そういう状況がほとんどだった。

 ところがこれから巨人が臨む戦いは、シーズン中の低迷がリセットされた新たなステージなのである。

「悔しいけれどこれが現実」

 レギュラーシーズンで勝率5割を切ろうが、どんな負け方をしていようが、ここでは1回、そういう事実がチャラとなって、新たに日本一を目指す戦いが再スタートする。

 だとすると監督の退任という現実は、短期決戦で監督自身を含めたチームにどんな影響を与えるのか。むしろチームを変えるきっかけになる、新たなエナジーを与える可能性すらあるのではないかということだ。

 確かに10月3日の退任発表の前後から、高橋采配はこれまでと違っていた。

 退任発表の翌4日の広島戦の試合前にはミーティングで涙ながらに選手に退団の報告を行った。

「悔しいけれどこれが現実」

 そう語って深々と頭を下げたという。

「今日は監督のために投げようと」

 これまでほとんど感情を表に出さないことを是としてきた指揮官の姿に、選手ももちろん感じるものがなければウソである。

「普段は誰かのために投げるとかはないけど、今日は監督のために投げようと思いました」

 その試合で今季8度目の完封勝利を果たしたエース・菅野智之投手がこう語るように、この退任劇が劇的な化学変化を起こさせる起爆剤になっているのは明らかなのである。

 こうしたチームの変化を感じ取ったのか、高橋監督自身もつきものがとれたかのような表情になり、これまでになく自由奔放な姿が目を引くようになった。

 高橋監督の3年間の基本姿勢は人の言葉に耳を傾けることだった。

 その典型例がコーチの進言を非常によく採用していたことだ。

 シーズン中に何度か「なぜ」という選手起用や采配があったが、取材していくとその選手を一番よく見ている担当コーチの進言を取り入れていたことがほとんどだった。

最終盤に雰囲気が変わった高橋監督。

「結果に対して監督が責任をとるのは当たり前だが、コーチも責任をとって出処進退を求められる。だとしたらコーチの意見も聞くべきだという考えなんです」

 ある関係者から聞いた話だ。

 それが、ともすると高橋野球をぼんやりしたものにしていた可能性があるように思える。

 しかし終盤の戦いで一軍昇格した畠世周投手の起用では、我を押し通す場面があった。斎藤雅樹投手総合コーチは故障上がりの畠は1イニング限定にこだわっていたが、9月23日の阪神戦で回またぎをさせる決断をしたのは高橋監督だったのだ。

 最終戦となった9日の阪神戦では2対1とリードした5回2死一、二塁から陽岱鋼外野手が右翼線にタイムリー三塁打を放つと手を叩きながら絶叫。

 同点の7回に秘蔵っ子・岡本和真内野手の勝ち越し本塁打が飛び出るとベンチで激しくガッツポーズを見せるなど感情を爆発させる場面が何度もあった。

 また7回1死一、三塁から小林誠司捕手のスクイズでダメ押し点をもぎ取ると5点差の9回にあえて菅野を投入したのも、監督と菅野の思いが1つになった結果だったという。

 要は辞任発表で監督が開き直り、選手はアドレナリンが噴出している。

 いまの巨人は、シーズン中の巨人とはちょっと違ったチームになっているということだ。

神宮球場は巨人の鬼門のひとつ!?

 もともと自力のある選手が揃っているだけに、そういう“特別感”のある巨人は、対戦する相手チームにとっては、ちょっとやっかいな存在になるのかもしれない。

 その巨人のファーストステージの戦いは神宮でのヤクルト戦となる。

 今季のヤクルトとの対戦成績は11勝13敗1分とほぼ互角。

 ただこと神宮球場に限ってみると3勝6敗と大きく負け越してマツダスタジアムにつぐ鬼門の球場の1つとなっている。しかし、そういうことを含めていまの巨人には過去のデータは通用しないのかもしれない。

高橋監督の思いに選手はどう応えるか?

 巨人にとってファーストステージの戦いはもちろん、ヤクルトの第1戦先発が予想される小川泰弘投手を巨人打線がどう攻略するのか。

 またヤクルトの強力打線を巨人の先発陣がどう抑え込めるかにかかるのだろう。

 ただ、同時にペナントレースからリセットされたこの別物の舞台を、高橋監督がどんなタクトを振るって戦い抜くのか。

 それに選手がどう応えるのか。

 そこも見どころになるのかもしれない。

 あっさり負ければたった2試合。ただ、日本シリーズまで勝ち抜けば基本的には最大で16試合となる。そこにこそ3年間の高橋野球の本当の姿が、見えてくるはずである。

(「プロ野球亭日乗」鷲田康 = 文 / photograph by Kyodo News)

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