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イチローが今季探した代打の奥義。「今の自分は嫌いじゃないです」

今季最終打席を終え、ベンチで汗を拭うイチロー。今もなお、新たな自分に気づく野球人生を送っている。 photograph by Kyodo News

 10月1日、マーリンズパーク。2017年シーズン最終打席は、シーズン最多代打安打記録28をかける1打席となった。イチローは持てる技を駆使し、懸命にバットを振り、勝負に臨んだ。

 ブレーブスの27歳の救援右腕ダン・ウインクラーに2球で追い込まれたが、その後ボールを2球見極め、カウントは2-2。ここから見応えのある勝負が始まった。

 ウインクラーのベストピッチである145kmを超えるカットボールに合わせながら、130kmのスライダーと150kmの直球に対応する技を見せ、内角球は右方向へ、外角球は左方向へ、ファールで粘ること4球。普段は打席内でクールに振る舞うイチローが必死にボールに食らいつく姿を見せていた。

 9球目は内角に大きく外れフルカウント。迎えた10球目。外より93マイル(約150km)の直球に少しだけ遅れ、ポイントがずれた。結果は左邪飛。シーズン最終戦でメジャー記録をかけて挑んだ1打席、10球の攻防。結果とは別のプライドをイチローは示した。

得た自信を思い描いて、支えとして立った打席。

「これまでいろんな場面を体験して、それを乗り越えたり、乗り越えられなかったり、様々でしたけど、そうやって得た自信を自分の中であらためて思い描いて、それを支えとして立った打席ですね。やられましたけど」

 真剣勝負の過程はいつも通り、抜かりはなかった。だが、常に頂点を目指して切磋琢磨してきたイチローには、95年にロッキーズに在籍したジョン・バンダーウォルが記録した28本に1本及ばなかったことが悔しかった。その悔しさをジョークで紛らわした。

「2位じゃダメなんですよね。By蓮舫(民進党前代表)ですね。うん。2位じゃ忘れられちゃう」

打つのが簡単になる瞬間がある。しかし代打は……。

 メジャー17年目のシーズンは136試合に出場し、196打数50安打、3本塁打、20打点、打率.255。出場、安打ともに最小の数字に終わった。

 リーグ屈指の外野トリオとも称される平均年齢26歳のスタントン、イエリチ、オズナが打線の中軸を担い、その3人に怪我もなければ、先発が少なくなるのはシーズン前から想定内だった。だが、先発出場はわずかに22試合。ここまでの少なさは想定外だった。16年の62試合にも遠く及ばず、来る日も来る日も代打稼業が続いた。

 打撃は足し算と考えるイチローにとって1日1打席は「リセットの連続」であり、打席数を積み重ねることで研ぎ澄まされていく打撃感覚を構築できずに苦しんだ。その結果、5月終了時点での打率は.176。代打の難しさを痛感していた。

「(代打は)何かを悟ることはないですね。毎日レギュラーで出ていれば、打撃だけは簡単になる。打つことは簡単になる瞬間があるんですよ。代打ではそれは絶対にないですね。(メジャーは)これだけ長い歴史があっても28本という数字にそれが集約されていると思うんですよね」

「通常の状態」を見つけた自分を肯定する。

 それでも転機はやってきた。

 6月8日からのピッツバーグでの4連戦で3安打、1本塁打。レギュラー時代でも1カ月、100打席はかかった微調整を80打席ほどで終え、形にした。後半戦の打率は.299。代打では打率.273。1日1打席でもイチローはイチローだった。

「通常の状態になるまで2カ月以上かかりましたから。6月のピッツバーグからです。1日1回だけですから。それも仕方ないですよね。それで見つけられなかったら、どうしようもない。それを今回も見つけましたから。今の自分は嫌いじゃないです」

「新しいチャレンジ。確実にそうでしたから」

 メジャーでは歴代22位の3080安打。日米通算では世界歴代最多の4358安打を放つプロ生活26年目の43歳が「今の自分は嫌いじゃないです」と語る深み。経験を重ね、年齢を重ね、成績を積み重ねても、終わりがないのがアスリートの世界。50歳までの現役を目指すイチローは今季をこう総括した。

「代打でのヒットの数、その記録と遭遇するとは思っていなかったからね。その数字自体も関心のあったものではなかったし。ただ、やっていれば、こういうものに出会う、そういうシーズンではあった。長いことやっていることはそれなりに意義があると思いましたね。新しいチャレンジ。確実にそうでしたから」

 22日で44歳。来季へ向けたイチローの準備が始まる。

(「イチ流に触れて」笹田幸嗣 = 文 / photograph by Kyodo News)