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2017年のイチローは“代打の神様”。一振りに懸けても近づく最多安打。

8月22日のフィリーズ戦では7回に代打で出場し、勝ち越しの3ラン本塁打を放った。 photograph by Kyodo News

 メジャー17年目、日米通算26年目。今年もイチローは数々の記録を塗り替えている。

 列記すると以下の通り。カッコ内はイチロー以前の記録保持者だ。

4/19 日本人メジャー最多打点 761(松井秀喜)
7/6 メジャー歴代24位 通算3054安打(ロッド・カルー)
7/18 メジャー歴代23位 通算3056安打(リッキー・ヘンダーソン)
8/4 メジャー歴代22位 通算3061安打(クレイグ・ビジオ)
8/26 球団シーズン最多代打安打 22(ロス・グロード)
9/6 日本新記録 日米通算5863塁打(王貞治)
9/7 メジャーシーズン代打最多打席95(ラスティ・スタウブ)

 9月10日現在、残り2本の射程圏内に捉えているのが、1995年にロッキーズのジョン・バンダーウォルが記録した代打でのシーズン最多安打28である。マリーンズのドン・マッティングリー監督も報道陣に「イチローのシーズン代打最多安打まではあと何本?」と、質問することでも分かるように米国でも注目を集めている。

 先発出場18試合、途中出場101試合、うち代打での出場が96試合。これがここまでの内訳で先発での打率は.234、代打を含めた途中出場が.272、代打に限っては.295。例年とは全く逆の打率を示している。

28試合連続ベンチでも、打率.381の凄まじさ。

 また、こんな数字もある。

 イチローは8月10日から9月7日にかけて、自己最長となる28試合連続先発出場なしという起用が続いた。だが、この間の成績が凄まじい。

 21打数8安打、打率.381。

 代打で.381はあり得る数字ではなかなかない。1日1打席の一振り稼業が続く現状をイチローに聞くと、彼からはこんな言葉が返ってきた。

「全然慣れていないですけど、慣れていないことにちょっと慣れてきたという感じはある」

栄光と賞賛を手にした43歳が常に謙虚に向き合う。

 昨季は代打での役回りについて「全然慣れない。代打では4回に1回(1本)がいいところ」と語っていたが、今の感覚については「以前とは気持ちはちょっと違うかな」。数字が示す通り、代打でイチローなりのルーティンを築いた感がある。本人が形容を望むか望まないかは別として、“代打の神様”と呼ぶに今はふさわしい。

 とは言うものの。

 常に先発出場で走攻守に於いてフィールドを駆け回る。それがイチローの求める普遍のプレースタイルであるが、今季は27歳の右翼スタントン、26歳の左翼オズナ、25歳の中堅イエリチのレギュラートリオが怪我もなく素晴らしい成績を収めている。

 スタントンは54本塁打、113打点、3番に座るイエリチは常に安定した打撃を見せ、オズナも3割、30本塁打、100打点を上回る。イチローが望むスタメンが極端に少なくなっているのも仕方のないところ。イチロー自身も「今年はこう言う流れなんで」と説明したが、この割り切りは決して簡単な作業ではないはずだ。

 選手として頂点に立ち続け、数々の金字塔を築き上げた。栄光と賞賛の両方を手にした43歳が日々ベンチでいつもと同じようにスタンバイする。野球に対して常に謙虚に向き合える。だから、イチローはすごい。

「目標がないより、ある方がいいですよ」

 ヤンキースの主将として通算2153安打を放ったマッティングリー監督も賞賛する。

「イチローは素晴らしい選手。彼は野球に敬意を払い、野球をとても大切にしている。彼の姿勢は、周囲の者にその大事さをあらためて思い起こさせる」

「目標がないより、ある方がいいですよ。アプローチしやすい。モチベーションになるわね」

 これは代打でのシーズン最多安打28まであと2本に迫った際のイチローの言葉だ。

 43歳になっても常に最前線で戦える身体を維持し続け、50歳までの現役を目指し、どんな役回りになろうとも野球と真摯に向き合える。イチローに記録更新のラッシュが毎年ついて回るのは自然の流れなのであろう。

(「イチ流に触れて」笹田幸嗣 = 文 / photograph by Kyodo News)