「リア王の悲劇」藤田俊太郎が現代に解き放つ、リア役の木場勝己…蜷川幸雄の時のように「好きにやれる」

 多くの話題作を手がけてきた藤田俊太郎が初めて演出するシェークスピア劇、「リア王の悲劇」が16日から10月3日まで横浜市のKAAT神奈川芸術劇場で上演される。74歳で満を持してリア役に挑む名優・木場勝己と組んで、古典を現代に近づけてくれそうだ。(編集委員 祐成秀樹)

「木場さんに感化されて、俳優たちはいろんなアイデアを持ってきます」と語る藤田。右は木場

 藤田は戯曲を徹底的に読み込んで洗い出した作品の核を、俳優やスタッフとの綿密な共同作業で鮮烈に視覚化する。今年は読売演劇大賞で大賞に輝いた。勢いに乗って挑む傑作の印象は、「言葉がすごい。言葉が体にしみこんで毎日楽しいのですが、疲労もします」。

 退位を決めたリアは3人の娘のうち、最も自身を愛するものに財産を多く分けようとする。姉2人はきれいごとを並べ立てるが、三女はそれが出来ずに勘当される。だが、リアは姉2人に裏切られ、家臣グロスターも家督を狙う非嫡子エドマンドに陥れられる。

 今回は台本にこだわり、シェークスピアが改訂したとされ、死後出版されたフォーリオ版の「リア王の悲劇」(河合祥一郎訳)を演出する。「シェークスピアが観客の反応を感じながら改変したそうでドラマが明確です。また、わざわざ古代のように書いている。物語を色んなものから解き放とうとしたのでは」

 そこで時代設定を、舞台のブリテンにキリスト教的思考が広がる前の3~5世紀にして、自由な発想で作品を読み解く。「男らしさや、女らしさから解き放たれる座組を作った。女性も武人や騎士を演じます。ジェンダーレスですね。近未来のような『リア王』が出来上がると思ってます。今の世界のありようを描ける言葉が確実にあると考えました」

 今年の木場はNHK連続テレビ小説「虎に翼」で存在感を発揮したが、生粋の舞台人だ。蜷川幸雄の演出作や井上ひさし作品などで好演し、「リア王」との関わりは60年を超える。中学の文化祭の出し物で触れたのが最初で、松本白鸚(当時は幸四郎)が主演した際は道化役を演じた。「リア役はやりたいと思っていた。ただ、年を取ってリアルに死に近付くと以前と感じ方が変わりました」

 戯曲を読むうちに「壮大な不条理コント」に思えたという。「グロスターは目をえぐり取られるわ、リアは荒野に行かされるわ。起きる事件がえぐくて極端に展開していく。大笑いできるところが見つかりました」

 その分、気を引き締める。「ウケを取るには言葉をきちんと扱わないとしくじるぞって今、警報が鳴りました」

 藤田には「誠実さ」を感じている。「文句を言ってくれないので好きにやれる。蜷川もそうでした」。師の蜷川の名が出ると藤田は感慨深げだ。「蜷川さんは自分の想像を超える役者には何も言わないというルールを徹底していました」。水夏希、森尾舞、土井ケイト、伊原剛志らも出演。(電)0570・015・415。

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