なぜ裏方だった佐久間宣行はお笑い界、テレビ界で無視できないほどの快進撃を見せているのか?
〈「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」相次ぐ大物テレビマンの独立だけではないテレビ局を巣食う「組織の論理」の息苦しさ〉から続く
元テレビ東京プロデューサーの佐久間宣行は、テレビバラエティが好きな人の間では以前からよく知られた存在だった。そんな佐久間が業界で確固たるポジションを築き上げるまでに至った経緯をたどる。
『松本人志とお笑いとテレビ』(中央公論新社)より一部抜粋・再構成してお届けする。
演者とテレビマンを兼務する佐久間宣行の快進撃
佐久間の代表作と言えば、2005年に始まって今も続いている深夜の人気番組『ゴッドタン』である。おぎやはぎ、劇団ひとりがレギュラーを務め、深夜にふさわしい実験的で濃密な笑いを提供してくれる本格志向のお笑い番組である。
番組の内容が多くの視聴者に評価されているだけではなく、いまや『ゴッドタン』という番組自体が1つのブランドとして人気を確立している感がある。
番組企画の「キス我慢選手権」が映画化されたり、「マジ歌選手権」という企画を発展させた形の音楽イベントがさいたまスーパーアリーナや日本武道館で行われたりもしている。
佐久間は『ゴッドタン』以外にも、『ウレロ☆未確認少女』『青春高校3年C組』『あちこちオードリー』など数多くの番組を手がけてきた。出演する芸人の個性にマッチした企画作りに定評がある。
そんな彼が、いつのまにか番組の作り手という枠を超えて、演者として表舞台に出る機会が多くなってきた。
彼は、芸人のラジオ番組に飛び入り出演したのがきっかけで、テレビ東京在籍中にニッポン放送『オールナイトニッポンR』のパーソナリティに抜擢された。そこで披露された巧みなトークが評価され、2019年4月には『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』が始まった。現役のテレビ局員が『オールナイトニッポン』のレギュラーパーソナリティを務めるのは初めてのことだった。
テレビマンとして培ってきたコネクションを活用して、千鳥、Creepy Nuts、オードリーの若林正恭といった豪華なゲストを招いたりしたこともあり、番組の人気は安定したものになった。
テレビ東京から独立してからは『オールナイトフジコ』『伊集院光&佐久間宣行の勝手に「テレ東批評」』などのテレビ番組にもレギュラー出演している。
これまでにもテレビマンが演者として表に出ることがなかったわけではない。だが、過去に出ていた人の大半は、テレビ局に所属してないフリーの放送作家や脚本家であり、佐久間のようなディレクターやプロデューサーではなかった。
お笑い界やテレビ界にとって無視できない「佐久間」という存在
放送作家はテレビの企画を考えたり、台本を書いたりするのが主な仕事である。売れっ子になると複数の番組を掛け持ちするのが普通であり、あちこちの局を駆けずり回ってアイデアを出したり、ディレクターの相談役になったりする。
あくまでも番組作りの補佐役のようなところがあり、ディレクターのように実際に収録・撮影・編集などを行うわけではないので、ある程度は自由に動ける立場にある。
一方、佐久間はディレクターやプロデューサーとして制作に携わっている。制作現場の最前線で打ち合わせを繰り返し、演出プランを練り、編集に立ち会う。ディレクターは映画で言えば映画監督にあたり、番組内容に責任を負う仕事だ。タレント業と簡単に両立できるようなものではない。
でも、佐久間はいつの間にか演者として表にも出る人間になっていた。そういうポジションに就いてからも芸能人っぽさを醸し出すことはなく、あくまでも自分は作り手の1人であるというスタンスを崩さない。
しかも、演者とテレビマンの二足のわらじを履く多忙な日々を送りながらも、膨大な量の作品をインプットし続けている。演劇、映画、ドラマ、漫画、音楽などに幅広く興味を持ち、多くのコンテンツに触れている。そういうものがきっかけで企画のアイデアを思いついたり、キャスティングを考えたりすることもあるという。
独立してからはクリエイターとしても今まで以上に多方面で活動している。テレビ東京以外の局で番組を作ったり、Netflixの『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』『LIGHTHOUSE〜悩める2人、6ヶ月の対話〜』、DMMTVの『インシデンツ』などの配信コンテンツも手がけている。
自身のラジオ番組では、番組制作の裏側について語ったり、最近見た作品を紹介したりもしている。そんな佐久間の話に聞き入る熱心なファンも多い。2022年の『M-1グランプリ』では、ウエストランドがそんな佐久間ファンの心酔ぶりをを揶揄するような漫才を披露していた。漫才のネタにされるほど、佐久間という存在はお笑い界やテレビ界にとって無視できないほど大きいものになっている。
ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。専攻は哲学。テレビ番組制作会社勤務を経て、フリーライターに。在野のお笑い評論家として、テレビやお笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。著書に、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)他。
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