「私、落語も好きだけど 落語家が好きなんだな」古今亭雛菊インタビュー

長野県諏訪市で育ち、大学で落語研究会に入るも、上京して初めて観た落語会に登壇していた古今亭菊之丞師匠に圧倒され、二度目に観た師匠に直感で運命を感じ弟子入りを志願した落語家、古今亭雛菊。一門のみならず錚々たる大御所の落語家にも可愛がられる人柄の彼女に、落語家になって経験したエピソードや目指す将来像などを語ってもらったインタビューをお届けします。

──ご出身は長野県諏訪市とのことですが、どのようなお子様でしたか。

小学5年生から中学2年くらいまで自分の家の駐車場の中で一生懸命、ひとりで壁当てしてスカウトを待ってました(笑)。来るわけないのに。小さい時分から巨人のファンで。眼が悪かったので眼鏡が分厚くて、危ないからって野球チームには入れてもらえなかったんです。

──落語家になった経緯を教えて下さい。

ふたつ上の姉がすでに東京で寮生活をしていて、私は大学進学で上京してそこから一緒に過ごして。中学、高校はキリスト教の学校に行ってたんですけど、駒沢大学の仏教学部に入りました。「ポケモンのクリアファイルあげるから」と勧誘されて落語研究会に所属したんです。中高のときに落語を観ておきたかった……、都内で育った子が羨ましかったです。

落研の先輩の『目黒のさんま』が初めて聴いた落語でした。当時“ぴっかり☆”だった(蝶花楼)桃花姉ちゃんの名前は知っていたので江戸川落語会を観に行って、師匠古今亭菊之丞がたまたま登壇されていたんです。そこで「すげえな」と思った。そのあと浅草演芸ホールに行ったらトリが師匠菊之丞で。直感で「この人だな!」と思って「落語家になろう!」と決心して、その日に出待ちしました。まずは「親に話してきなさい」と言われて、親の了承を得て再度行ったときに、師匠は普段弟子入り志願は喫茶店で話を聞くのですが、私なぜか初回から師匠のご自宅に行きまして。のちほど訊いたら「なんかこいつだけは家入れちゃったんだよね」って言われました(笑)。

入門したときは兄弟子が居たんですけど、すぐ居なくなっちゃったもんで。破門になったらやりたいことはないので必死に食らいつきました。最初に言われたのが「俺は(古今亭)圓菊の家で志ん生の修業をしたから、お前も志ん生の修業をさせる」と。このご時世で怖い師匠も少なくなったと言われる中、毎朝通って見習いの期間も厳しく修業させてもらって、そこが優しさだなって感じてます。今、なんでも楽しいんですよね。“あっ、私、人と関わるのが好きなんだ”って思わせてくれたのは、師匠の修業のおかげです。

──演目や芸風をどのように蓄積していったのですか。

まず師匠から言われたのは、前座のうち、見習いのうちは“真似から”だと。でも私、反抗期があって(笑)。一時期、“師匠に似てるって言われるのが嫌だ”っていう時期もあって。思春期、反抗期みたいなのを超えて、やっぱり心地よいリズムは師匠だな、と思った。そして大師匠圓菊の落語って“こんなに人を魅きつけるって凄いな”って。私、軸に菊之丞があって、圓菊の聴き入っちゃう楽しい落語ができたらって。

──ご自身の落語家としての将来、どのようなビジョンをお持ちですか。

自分自身の先のことは一切見えてないんですけど、二ツ目って一番時間があるので、この時期に何をしたかで真打になったあとだいぶ変わってくると思うんです。私、落研の頃って女性の出てくる噺はしてないんですよ。師匠お得意の廓噺(遊廓を題材にした古典落語)に自分が手を出すなんて想像もしてなかったけど、いろんなジャンルをやって褒めてもらえると嬉しくて。今、怪談噺にも挑戦してまして。落語って面白い噺だけじゃないんだよって、私ごときがですけど、伝えていけたらと思ってます。五年後、十年後に師匠方の脂が乗りきった落語を観るのも楽しみですし、私も十年後は四十なので結婚、出産を超えたら変わるのかなとか自分の成長も楽しみです。それこそつる姉(林家つる子師匠)が弟子を取ったら私が嬉しくなっちゃう(笑)。

“あっ、落語界、大丈夫じゃん”って思えたのは、つる子姉ちゃんのお披露目、満席の浅草演芸ホールを観たとき。そういう人たちが増えるのかと思うと嬉しいし、自分もそこに乗っかれたらいいんですけど。

落語家になって気がついたのは、落語家ってヘンな人多いんで面白いんですよね。私、落語も好きだけど落語家が好きなんだなって。落語家全員のファンなんです(笑)。普通に師匠菊之丞のファンでもあるので、私は。こないだ、楽屋で師匠菊之丞の演目を観てゲラゲラ笑ってたら、(古今亭)駒治兄さんに「お前、めちゃくちゃいい弟子だな」って言われました(笑)。そこは自分の強みだと思ってて。“落語家が落語で笑うなんて”と言われますけど、でもやっぱり好きじゃないと。自分が好きじゃないものを好きになってもらおうと思ってもねえっていう(笑)。

──昨年、ご出身の諏訪で「二ツ目昇進披露の会」を開催されました。師匠のほかに橘家文蔵師匠、柳家喬太郎師匠、紙切りの林家正楽師匠など錚々たる大御所が登壇されましたね。

私、文蔵師匠の着物をよく繕ってるんですよ(笑)。文蔵師匠のお家に「襟つけて」「いいっスよ」って気軽に行ってて。文蔵師匠と(文蔵師匠の会をやっている)「つながり寄席」の方から「諏訪でお披露目やったの?」と言われて。「やってないっスよ」「やりなよ」「やって下さいよ」って(笑)。その場で文蔵師匠が正楽師匠や喬太郎師匠にすぐ電話してくれて、うちの師匠にもアポ取ってくれて。飲み会の中で決まりました(笑)。3月3日がひなまつりなので、高田馬場ばばん場で自分の好きな人たちだけを呼ぶ会「雛祭」もやらせてもらって。初回が(五街道)雲助師匠とのだゆき先生で、今年は(入船亭)扇遊師匠と正楽師匠だったんです。でも正楽師匠がお亡くなりになってしまったので(林家)八楽くんに来てもらった。「私が好きな人を集める会です」って言うと、皆さん「わかった、行くよ」と言って下さって。前座って自分からは話しかけない。私もよっぽどじゃないと自分から話しかけないですけど「雛菊ってめちゃくちゃ一生懸命働いてるよね」と言っていただいて。師匠方も「雛菊が楽屋に居ると明るくなるよね」って言っていただける。これは自分の特権だと思ってます。

この前、嬉しかったことがあったんです。(柳家)小満ん師匠がお出になるトリの興行で、「師匠、かっこいい赤のお着物、素敵ですね」って言ったら、「いいレッドだろ」「あっ、ワインレッドですね」「そうだよ」と舞台に上がっていって、酔っ払いの噺をしたんですよ。降りてきて師匠が「ワインって聞いたからお酒の噺をしちゃった」って。私がワインレッドを引き出せたから、その噺をしてくれたって、そういうのも楽しいじゃないですか(笑)。

取材:文=浅野保志(ぴあ)
撮影=源賀津己

<プロフィール>
古今亭雛菊(ここんていひなぎく)

1994年5月21日生まれ、長野県諏訪市出身。2017年、古今亭菊之丞に入門。2018年、前座となる。前座名「まめ菊」。2022年5月、二ツ目昇進。「雛菊」と改名。

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