前田公輝の孤独との向き合い方「新しいことに挑戦して、寂しさを埋めてます」

取材部屋に入った瞬間、流れているBGMを聞いて「良い曲ですね」と言う前田公輝。無音の空間でリラックスできるようにと、あえてカメラマンが選曲した音楽だった。「わざわざ流してくれてるんですよね? ありがとうございます!」といつだって爽やかな彼は、25年以上のキャリアがあるとは思えないほど、スタッフ一人ひとりにも気を配る。

突然仕事を失い、人生ヤケになった森川奈津実(久保田紗友)の元に現れたのは、御曹司・一条稜英(前田公輝)の幽霊だった……。そんなラブ&コメディ&サスペンス要素を含んだドラマ『私をもらって〜追憶編〜』に続き、二人の関係性がより深まっていく『私をもらって〜恋路編〜』の配信がスタート。稜英役の前田に、あらためて役作りでしたこと、撮影現場でのエピソード、孤独との向き合い方について話を聞いた。

役作りのための「稜英バッグ」

会社の機密情報を漏洩した疑惑をかけられ、何者かの策略により交通事故に遭ってしまう御曹司・一条稜英。同じく不慮の事故で生死を彷徨っていた森川奈津実(久保田紗友)との恋を育んでいく、本格的なラブストーリーでありながら、ファンタジー要素もある本作。

「稜英を事故と見せかけて死に至らせたのは誰なのか……そんなサスペンス要素もありますし、ラブストーリーだけでは終わらないところが魅力だと思います」と前田。

「稜英を演じるにあたっては、体づくりにも気を配ったのと、御曹司らしい気品・威厳を表現できるように頑張りました。具体的には、現場に『稜英バッグ』を持っていっていましたね。ハンドクリームやリップクリーム、あと喉のケアのためにプロポリスやマヌカハニーのスプレーなど、さまざまなケア用品を鞄に入れていました。映像も美しく綺麗な作品なので、自分自身も綺麗な状態を保っていたくて」

御曹司としての説得力を持たせるため、常に冷静な所作でいること、くわえて低く落ち着いた声で話すことを心がけていたという。「ずっと低い声帯を使っていたので、喉が枯れてしまうこともあって」と言うとおり、トーンが低めな声も魅力的だ。

「ラブストーリーの主演、かつ幽霊役ということで少しファンタジー要素もあって、どのシーンも演じていてすごく楽しかったです。幽霊だから、たとえばドアをすり抜ける演技をするときも、本番ではいったんしゃがんで、次にすり抜けたあとを撮るんですけど、その一つひとつの動きが新鮮で。あとからCGで繋げるんですけど、一つのシーンをここまで丁寧に育めるのが嬉しかったですね」

ラブストーリーで主演をやるのが憧れだった、と過去のインタビューでも話していた前田。「これからも、一つひとつのシーンを粒立って思い出すような気がします」と語る様子は、撮影の日々を噛み締めているように見える。

奈津実役・久保田紗友とは「波長が合う」

本作では、稜英と奈津実のコミカルで微笑ましいやりとりも見どころの一つ。演じた前田本人も「演じていてすごく楽しかったです」と顔を綻ばせる。

「カットがかかった瞬間に二人で笑っちゃうことも結構あって(笑)、呼吸が合ってよかったな、と思いました。お芝居の波長が合う・合わないって、もう運じゃないですか。僕は基本的にどんな方でも『やりやすいな』と感じることが多いんですけど、久保田さんとはとくに楽しく撮影できたので、この作品をつくっていくうえでの安心材料でしたね」

撮影スケジュールはタイト、かつ奈津実の部屋や稜英の会社など、限られたシチュエーションで進められることも多かった。撮影の合間にコミュニケーションを重ねた、というよりは「稜英と奈津実、二人にとっての関係性ができあがっていくにつれ、僕たちのチームワークも仕上がっていったような」感覚が強かったという。

「撮影中に、稜英と奈津実としてたくさん会話を重ねたからか、だんだん言葉なしにお互いの考えていることがわかってきて。なんだかすごく『兄妹』のような連帯感が強くなっていくのを感じていました。もちろん役の関係性としては恋人同士なんですけど、協力してシーンをつくる時間が積み重ねられるほど、なんか『兄妹』だなって」

お互いに、俳優としてのリスペクトも増す時間となったのだろう。撮影にカットがかかるたびに、久保田の芝居に対して「素晴らしかったです、と素直に感じたことを伝えたり、無言で拍手したり、っていうのをずっとやってました」。短いながらも凝縮された二人の試行錯誤が、シーンの一秒一秒から伝わってくるはずだ。

アドリブだらけのデートシーン

『私をもらって〜恋路編〜』では、稜英と奈津実のデートシーンもある。前田いわく「ほとんどがアドリブです」。

「デートシーンに限らず、たとえば『追憶編』の1話で、稜英が『(奈津実の携帯が)落ちている』っていうセリフがあったと思うんですけど、あれもアドリブです。あと、奈津実が着ていく服を選ぶシーンで、稜英が『それはダメだ』と言ったのも、そう。稜英の話し方って『〜〜〜だ』『〜〜〜なのか』っていう語尾が多いので、アドリブを入れるとなると難しいんですよね。普段から稜英の話し方に慣れておくために、プライベートでもずっと稜英になってました(笑)」

デートシーンの撮影は、ほとんど「僕たち二人にお任せ状態でした(笑)」と裏話を明かしてくれる前田。最初と最後のセリフと立ち位置、最低限の箇所だけ指定され、あとはまさにフリー演技。大変だったのでは? と問いかけるも、前田は「めちゃくちゃ楽しんじゃいました!」と、さすがの余裕をみせる。

「観光地でお土産を買うシーンがあるんですけど、撮影の合間に、本当にお煎餅を買っちゃいました(笑)。確か久保田さんもアイスを買ってたはず。あとは、そのお店にワンちゃんがいたので、撫でたり一緒に遊んだり、コミュニケーションしてました。いま思い出しても、めちゃくちゃ楽しかったですね」

微笑ましい撮影の裏側を知ると、より稜英と奈津実のデートシーンにも深みが増してくるようだ。ちなみに前田本人は、観光地にあるご当地土産は「あまり買わない」。「今回、裏でお煎餅を買ってたみたいに、お菓子とか飲食ができる名産品を買うタイプ」だそう。

「あ、でも、一時期『ご当地兜』を集めてました。ご当地キャラとか、その土地でしか買えないキャラクターもののグッズって、よくあるじゃないですか。小さいころ、好きで集めてましたね。そういう意味では、ご当地キーホルダーにときめく奈津実の気持ちがわかるかもしれません(笑)」

友人には、心からの謝罪と感謝を

『〜恋路編〜』で買ったキーホルダーは、物語が終盤に差し掛かるにつれ、稜英と奈津実にとっての思い出の品となる。前田にも、大切な人からもらった宝物や、大事に守っている言葉はあるのか問いかけてみた。

「僕って結構、自分でも気づかないうちに、私生活にエネルギーを注ぎすぎちゃうみたいなんです。人に気を遣いすぎてしまう姿勢を調整すれば、もう少し仕事に向けるエネルギーを高められるんじゃないか、と友人から言われたことがあって、『なるほど!』って。それからは、友人たちには心のなかで謝罪と感謝を繰り返しながら、どれだけ自分の意識を本番に向けていけるかを考えるようになりました」

前田と久保田の二人でおこなった取材の場でも、報道陣からの質問に対し、自分が先に回答する番になっていることを気にかけて「(久保田さんが)話すことがなくなっちゃうかもしれない、大丈夫ですか?」と気配りする場面がみられた。座長として作品を引っ張る立場でもあった今回、その“無意識な配慮”は知らず知らずのうちに、前田に影響を与えていたのだろうか。

「座長としての振る舞い方については、前に時代劇でご一緒したことのある船越英一郎さんに、いろいろ教えてもらいました。いちばん覚えているのは、とあるシーンを撮影してカットがかかった瞬間に『いまのはイマイチだったな』って自分で気づいてしまったとき。船越さんはすぐに気づいて『イマイチだと思ったろ? もう一回いこう!』ってリベンジさせてくれたんです。座長から率先して話してくれると、場が一気に和むんだってことも、船越さんの立ち振る舞いを見て学ばせてもらいました。『私をもらって』の現場でも、参考にさせてもらった点がたくさんあります」

プライベートでも、仕事の現場でも、学び取ったことを本番に活かす姿勢を忘れない。それはまさに、常にエンジンがかかりっぱなしの自動車のように、休む暇がない様子にも見える。しかし、どの撮影も楽しかった、と笑顔で振り返る前田の表情に、嘘はない。

前田公輝の寂しさとの向き合い方

稜英と奈津実には、お互いを大切に思っていた時間と記憶があったことを、忘れてしまう時期がある。それが本作の妙であり、それでもなお惹かれ合う二人の感情の機微が伝わる所以でもあるのだが、やはり、わかってはいても忘れられてしまう寂しさは募るものだろう。

「僕自身、寂しいときはどうしても寂しいですし、仕方のない面もありますよね。一人で過ごさなきゃならないときの寂しさや不安は……うーん、仕事して忘れてるかもしれません(笑)。僕たちの仕事って本当にありがたい側面があって、たとえば楽器を演奏したり、アニメや映画を観たりしていても、何かしらお仕事として昇華できる機会があるんです。こうやって取材の場でお話しさせてもらえるのも、そうですし。だから、いつか仕事に繋がると思って、これまでやったことのないことをする。それが、寂しさとの向き合い方かもしれません」

趣味も娯楽も、仕事の一環として捉える。そんな前田の姿勢には、どうしたってストイックさが滲む。しかし、彼には余計な力みがない。趣味も娯楽も仕事も、すべてシームレスに取り組む軽やかさがある。

「仕事に繋がるかな、と思って『魔法少女まどか☆マギカ』を観たこともありました。あれだけ話題になっていても、先入観で遠ざけてしまうところがあったんですよね。でも、観てみたらめちゃくちゃおもしろかったです! あとは、そうだな……シンプルに甥っ子に会って寂しさを埋めてもらうことも多いですね(笑)」

月並みな言葉かもしれないが、前田はいつだって等身大で、自然体だ。どんな現場も楽しみ、仕事とプライベートの両方から学びを得て、次に活かす。『いま』と『自分』を俯瞰できているからこそ、どの瞬間の前田公輝も、親しみやすい輝きがあるのかもしれない。

『私をもらって〜恋路編〜』はHuluで先行配信中。今秋に地上波にて放送予定。

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(取材・文 北村有、撮影/友野雄)

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