奥平大兼が明かした宝物「おばあちゃんからもらったネックレスを、ずっとつけてます」
映画『赤羽骨子のボディガード』で奥平大兼が演じる染島澄彦は、ボディガード集団・3年4組の司令塔を担うキャラクター。飄々としていながら、クラス全員を牛耳る姿はまさに冷静沈着だ。しかし奥平本人の素顔には「僕、おばあちゃんっ子なんですよね」と20歳らしい純朴さがある。
主人公・威吹荒邦(ラウール)をはじめ、クラスメイト全員で100億円の懸賞金をかけられた赤羽骨子(出口夏希)を守る。キャストもスタッフも大勢いる現場をとおして、奥平が感じた「コミュニケーションにおける距離感」とは。本編のとあるシーンになぞらえて、ずっと大切にしている宝物についても聞いた。
原作とはあえてズラした染島澄彦像
『赤羽骨子のボディガード』染島澄彦を演じるにあたり、奥平がまず起こしたアプローチは「原作の染島澄彦像を正しく捉えること」だった。
「台本を読ませてもらったあとに、原作の(染島)澄彦はどんな子なのかなと思って、すぐに漫画を読みました。漫画での澄彦は、台本から得た印象よりも明るくて余裕のある子。今回、この作品を実写化するにあたって、原作よりは淡々とした澄彦にしませんか、と石川(淳一)監督と相談しました。物語の最初から最後にかけて、澄彦の態度が一定すぎると、荒邦という存在を受け入れていく過程が薄れてしまうんじゃないか、と思ったんです。前半はクールに、後半にかけてだんだん荒邦を認めはじめて、態度もラフになっていく。そんなグラデーションを意識しました」
3年4組の司令塔として、全員に指示を出す役回りの澄彦。いわば集団のブレーンである以上、生徒たちの心を惹きつける説得力も必要だ。原作の澄彦とは、あえて少しだけ印象をズラすことで、より彼の心情にも入り込みやすくなっている。
「原作漫画がある作品でいうと『君は放課後インソムニア』(2023)のときもそうだったんですけど、当時、僕が演じた丸太は、割と最初から伊咲(森七菜)に好意を寄せていたんですよね。それに比べて今作では、3年4組にとって新入りである荒邦を、少しずつ理解し、受け入れていく流れをわかりやすく表現したかった。それこそエンタメ要素の強い作品ですから、原作の澄彦の要素も生かしつつ、実写版の澄彦を作り上げていきました」
冷静沈着でありながら、目的達成のためには容赦ない要求さえする澄彦。キャラクターを作り上げる背景には、より作品を魅力的に見せるための思惑が仕込まれていた。
撮影合間にやった人狼ゲーム、最強だったのは?
赤羽骨子を守る3年4組のボディガード役が勢揃いする現場は、さぞバラエティに富んでいただろう。同世代はもちろん、歳の離れた役者とも同級生役としてコミュニケーションをとる必要があった。
「本当の学校のクラスとして見ると、だいぶ年齢差がありますよね(笑)。最初は『どういう感じで話したらいいかな……』と探っていた部分はあったんですけど、先輩から寄り添っていただける場面もあって、ありがたかったです。後半にかけて、リラックスしてコミュニケーションできるようになってきました」
ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(2023/日テレ系列)で共演した詩羽(水曜日のカンパネラ)や橘優輝との再会も果たした本作の現場。プライベートでも親交のある者同士で芝居をするのは「確かに、ちょっと違和感はあります(笑)」と正直なところを教えてくれる。
「でも、そこはお互いに割り切ってますかね。すでに『最高の教師』で一緒の現場を経験していますし、それこそ詩羽なんて今回、見た目がまったく違いますし(笑)。カメラ外のときは、普段しているような、他愛ない話しかしないです」
長い空き時間も多かった、という本作の撮影。現場には、UNOやジェンガをはじめとするゲーム類が用意されていたのだとか。「午前中まるまる空いている日があって、みんなで人狼ゲームをやりました」と奥平が語る当時の様子を聞いていると、それはまさに学生時代の休み時間のようだった。
「メンツを忘れちゃったんですけど、その場にいるみんなで1〜2試合くらいやりました、人狼ゲーム。『このメンバーでやったらどうなるんだろう?』っていうノリで、結構楽しかったです。まさに修学旅行みたいでしたね。一番強いのは僕でした!(笑)」
その人狼ゲームの様子は「誰かが撮ってくれていた」らしい。人狼ゲームで無双している奥平の姿が、いつかオフショットなどで見られるかもしれない。
「芝さん(モグライダー)とも一緒にジェンガをやりました。僕からしたら大先輩なのに、よく付き合ってくれたな、と今さらながら感謝しかないです。なかなかここまで世代がバラバラの人たちと、一緒に遊べる機会ってないですよね。思い返すと、あの時間があったからこそ、より皆さんと話しやすくなったんだと思います」
実感した、チームワークの大切さ
「赤羽骨子を守る」という一つの目的のために動く3年4組。彼らは、ゴールを共有しているチームである。実際には、年齢幅のある面々で同級生としてコミュニケーションをとる必要があったわけだが、奥平は撮影現場の空気をどのように感じ取っていたのか。
「一緒に人狼ゲームとかUNOとかジェンガとかで遊んで、空き時間にたくさん話せる機会があったのは、この現場においてとても良い方向に作用したと思います。カメラが回ってないときに話す時間は、相手のことを知るうえで大事ですね。何せ、荒邦と骨子以外はずっと一緒に行動しているチームなので、カジュアルになんでも話せる関係性づくりは、あらためて大切だなと思いました」
撮影現場での立ち振る舞いについて聞いていると、映画『MOTHER マザー』(2020)に出演してから約4年ほどとなる奥平のキャリアにおいて「他者との距離感」がキーワードとして立ちのぼってくる。
「撮影現場では、なるべく自分から話しかけてコミュニケーションをとろうと意識しているんですけど、でも、タイミングが難しいですよね。次のシーンに向けて集中しているかもしれないし、それを邪魔しちゃうのも申し訳ないから。今回みたいに、自然と『みんなで遊ぼう!』って空気感になれば、遠慮なく話せるんですけど」
過去を振り返ると、『君は放課後インソムニア』で共演した森七菜とは、初対面じゃなかったにも関わらず、最初は満足に会話ができなかったという。役の関係性を通し、少しずつ話すようになったことで、役者同士の信頼を形成していった。現場ごとに違う立ちまわり方、共演者との距離感などを図っていくことで、だんだんと自身にフィットする現場での過ごし方を会得していったことが窺える。
友人との縁を持続させるために
俳優としてデビューして以降、出演作が途切れない奥平。友人との縁を大切にしている印象の強い彼だが、忙しい合間を縫って、どうやってプライベートの時間を確保しているのか。
「友達への連絡は、油断するとどうしても回数が減っちゃうんですけど、定期的に一緒にご飯に行ったりしてます。限られた時間だからこそ、距離感を大切にしてますね。それこそ詩羽は、向こうが距離感バグっている子なので(笑)、あまり気を遣わずに済むんですけど、人によっては『これ以上は入ってきてほしくない』っていう線引きがあるじゃないですか。お互いに心地良いラインを探りつつ、楽しい時間を過ごせるように気をつけているかもしれません」
人それぞれ、心地良いパーソナルスペースがある。親しき仲にも礼儀あり、という、当たり前だからこそ難しい人間関係の機微。「ちょっと寂しいな、と思うときもありますね」と本音がチラリと顔をだす。
「宮世琉弥とか藤原大祐とか、細かいことを考えずに仲良くできる友人もたくさんいて。みんなそれくらい距離を縮められたらいいのかもしれないですけど、やっぱり人それぞれのパーソナルスペースは尊重したいですよね。そこはやっぱり礼儀だと思うし、守るべき距離感を守っていれば、ずっと仲良くいられると思うので」
お守りは「おばあちゃんの手作りネックレス」
本編では、澄彦が荒邦からピアスをもらうシーンがある。物語の伏線となるシーンになぞらえて、奥平にも「ずっと大切にしている宝物」があるかどうか聞いてみた。
「僕も澄彦みたいに、人から贈ってもらったアクセサリーを大事にしています。あまり自分で買うことはなくって。いつも、すっごくキラキラ光ってるネックレスを二つ付けてるんですけど、それはおばあちゃんからもらった手作りのもの。つい最近、そのうちの一つが千切れちゃって、慌てておばあちゃんに連絡して、また新しく作ってもらいました」
昔からおばあちゃんっ子だったという奥平。自身の誕生日に贈られて以来、肌身離さず付けているネックレスは、まさにお守りのような存在。反対に、奥平が大切な人への誕生日に贈るものは、どんな基準で選んでいるのか。
「申し訳ない話なんですけど、誕生日にプレゼントをした経験があまりなくって……。それこそ相手に合ったものが良いのか、アクセサリーならあまり重すぎないものが良いのか、基準がわからなすぎて悩みまくって、タイミングを逃しちゃうんですよね(笑)。だから、僕は趣味で洋服のリメイクをするんですけど、遠くに引越しする友人がいたら、リメイクしたものを『これあげるよ!』って言って渡すことは、結構あります」
誕生日にではなく、あえて何かの節目に、一点もののプレゼントを贈る。それはお互いにとってのターニングポイントが、より特別さを増す予感に満ちている。そんな奥平自身の誕生日も近い(9月20日。取材は7月上旬)。
「欲しいものがあったら衝動買いしちゃうタイプなので、誕生日に合わせて『これが欲しい!』みたいなのって、あんまりないんですよね……。う〜ん……あ! いつも使ってるお香がちょうど切れちゃったので、良い香りのお香が欲しいです。おばあちゃん家みたいな香りがするから、癒されるんですよね」
仕事後のリフレッシュは旅行で
自身のSNSでは「若いうちに、行ったことのないところへ行きたい」と旅行欲について綴っている奥平。仕事のモチベーションを持続させるのも「クランクアップしたあとの旅行」なのだとか。
「一つの作品が終わったあとでも、身体は撮影中のリズムを覚えているから、どうしても早起きしちゃうんですよね。そのタイミングで旅行をすると、一気に仕事からプライベートのモードに切り替わって、リフレッシュできます。自分の生活に戻った感じがあるというか。一人でも行きますし、友達と行くこともあります」
一人旅の楽しさに目覚めたのは、高校一年生の頃。中学最後の修学旅行に、体調不良のため全日程に参加できなかったことが、悔しさとなって残っていた。高校生になってから、リベンジのため一人旅。自由に観光地をまわる楽しさが癖になり、一人でさまざまな土地をまわるようになったという。
「一人旅も好きですけど、友達と一緒に現地の美味しい食べ物を楽しむのも好きです。同じ『旅行』ですけど、それぞれの楽しさがあると思います。仕事終わりにリフレッシュして、また新しい作品に入っていく。自分にとって、旅行が良い切り替えになってますね」
おばあちゃんから贈られた手作りのネックレス、友人との旅行など、奥平からはしきりに「家族」「友人」の話題が飛び出す。振り返れば、彼が俳優の世界に足を踏み入れたのも、友人と遊びに出ていた渋谷駅の改札でスカウトされたことがきっかけだった。人との縁に導かれている彼が、誰よりも“人との距離感”に配慮しているのは、必然に思えてならない。
映画『赤羽骨子のボディガード』8月2日(金)より公開
(撮影/友野雄、取材・文 北村有、スタイリング/伊藤省吾(sitor)、ヘアメイク/速水昭仁(CHUUNi))
08/02 12:00
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