syrup16g、peridots、tacicaの3バンドによるドラマー中畑大樹50歳の宴をレポート

Text:青木優 Photo:河本悠貴

syrup16gと、キーボードに河野圭。この4人がアンコールの最後に演奏した「Reborn」が本当に、本当に感動的だった。
syrup16gの作品の中でもとりわけ多くの人たちに愛されているこの曲は、お互いが歳をとり、そこで変わりながらも生きていくことについて唄っている。それは50歳の誕生日を迎えたドラマー・中畑大樹を祝う夜のクライマックスとして、あまりにもふさわしい歌だった。

今夜のO-EASTは、中畑大樹という人の空気感がそのまま流れているかのような場になっていた。入口には中畑のために届けられた花の数々。フロア内に流れる音楽は、VOLA & THE ORIENTAL MACHINE、杉本恭一、北出菜奈、チリヌルヲワカ、長瀬智也とのKode Talkersという、彼がドラマーとして関わってきたバンドやアーティストたちの曲。そしてステージの後ろの幕に大きく浮かび上がっているのは、このイベントのために中畑が描いたイラストだ。それは毒もユーモアもあるようで、しかしそのどっちにも着地していない感じがちょっと中畑らしい気がした。

peridots

そもそも中畑大樹という人は廻りの人をキズつけるようなことを言ったり、行動に表したりはしない。その場にいる人たちすべてを尊重し、自分が出すぎるようなことは決してしない性格なのだ。もちろん自分を飾りもしないし、気取らない。周りに気を配る。こうしたパーソナリティは、タイトでムダのないビートを叩き出す、彼のドラミングに通じているところがあると思う。

18時半の開演時、その中畑は舞台に現れ、あいさつをした。「こんばんは。今日来てくださって、ありがとうございます。今日ここでずっとドラム叩きます、中畑大樹です。よろしくお願いします」。ていねいなあいさつだった。ソールドアウトの会場は、自分が主宰するこの宴を楽しみにして来たオーディエンスばかりなのに、彼はこう言うのだ。

そして客席に向かって訊きたい事がふたつあると言った。「ちょっと答えづらい質問だと思うので、みなさん目をつむっていただいて。わかんないように、そーっと挙手をしてもらいたいです。まず、ひとつめの質問。ぶっちゃけ、中畑大樹ってあの人なんだ? っていう人!」。

tacica

かすかな笑いが起こる会場で、手を挙げた人は何人いただろうか(見れないので不明)。続いて、もう一問。「僕、今日で50歳になるんですけど、自分もちょうど50歳だという方!」。さらに微妙な質問で、これは数人は手が挙がったと思う。「手を挙げていただいた方。私は忘れません!」。
この夜はこんなふうに、ゆるい笑いの中で始まった。

peridots

最初に登場したperidotsは、マネージメントが同じだったこともあり、syrup16gとは付き合いの長いバンドである。今夜はメガネ姿のタカハシコウキがあの美しい声を、時おりファルセットも交えながら響かせていく。そのビートを担っているのは中畑で、バンドメンバーになって10年になる。タカハシは3曲目の「エチュード」のあとに後ろに視線をやり、「中畑大樹!」と紹介。それに中畑は「紹介してくれてありがとう。さっき(自分を)知らない人もいたみたいだから、良かった」と笑って返す。

そしてタカハシは思い出を話しはじめた。「大樹ちゃんとも長い付き合いになりますけど、初めて会った時はギンギンのサングラスをかけてたんです。あの時は<絶対に友達になれる人じゃないな>と思ってたんですけど、こんなに仲良くなるとは思ってませんでした。ありがとうございます」。この話の時に中畑はドラムセットを離れ、タカハシのすぐそばで話を聞いていた。その雰囲気が、どこかかわいい。

peridots タカハシコウキ(vo)

後半のperidotsは「リアカー」(この後に出番を待つtacicaの猪狩翔一もカバーしているという曲)から。ここからはパフォーマンス中の中畑に照明が当てられるシーンがあったり、彼を中心にしながらセッション的な展開があったりと、演奏はより白熱。そしてタカハシは合間に「ありがとう! 中畑大樹!」と彼にメッセージを送った。peridotsの現在形と、タカハシから中畑への思いが感じられる時間だった。

続いての登場のtacicaは、初期のナンバー「鼈甲の手」から始まるセットリスト。思えば彼らも2000年代からバンド・シーンで戦ってきた存在で、中畑が関わる今夜の3バンドは、あの時代からロックに親しんできたファンであれば気持ちが高ぶる顔合わせでもあったはずだ。序盤、猪狩翔一は「中畑さん、誕生日おめでとうございます。今日は僕ら史上一番カッコいい中畑大樹を見せられるように頑張ります」と言って、「アロン」に突入。高揚感の中、中畑の激しいドラミングが興奮をさらに高める場面があった。

tacica 猪狩翔一(g/vo)

セットの終盤で猪狩は、中畑が自分たちのライブで叩きはじめたのが結成10周年の頃だったと回想。そして「僕らはめちゃくちゃ中畑さん大好きで、みんなも中畑さん大好きなんだろうなと思ったら、今日は最高の日だなと思いました。そして今日僕らがここで演奏できるのも、めちゃくちゃ光栄です」、さらに中畑には「60歳(の記念ライブ)も、ぜひ呼んでください」と告げた。そのたびに会場中から拍手が起こり、そのたびに中畑はうれしそうな表情を見せた。

tacica

こうして会場はトリのsyrup16gの出番を迎えたのである。五十嵐隆が「お待たせ!」と言って演奏を始めたのが、いきなり新曲。これが暗黒の淵から浮上するかのようなミディアムテンポの曲で、まさにこのバンドらしいナンバーだった。それから初期の楽曲「天才」ではバンドのプレイが苛烈さを重ねていく中、キメの箇所で中畑が両手のスティックを鋭く鳴らす瞬間が幾度も訪れる。熱い。

やがて曲間で、中畑が五十嵐に向けて、印象深いひとことを口にした。「たぶん、あなたと知り合って30年ぐらい経ちますけど。ずっとファンです」。フロアからは、この日一番の歓声! 五十嵐は照れ隠しなのか「フゥ~!」と返し、「たしかに今年の誕生日にLINEが来たのは、木下くん(ART-SCHOOLの木下理樹)と中畑くんだけだった」と言うと、またも会場が笑いに包まれる。それにしてもこういうことをお客さんの前で言えるところに、中畑の実直な人柄を感じる。このウソのない性格とともに彼は生きてきたんだろうと思った。

syrup16g 五十嵐隆(vo/g)

「(I can't) Change the world」以降は完全にこのバンドだけの爆音とダークネスが場を埋め尽くす。本編最後の「落堕」は中畑のタフなドラミングから入り、ベースのキタダマキが客席を煽る仕草を見せ、そこからバンドが渾然一体となっていく流れに、胸がいよいよ熱くなった。
こんなふうにライブが進むにつれ、中畑のホームはsyrup16gというバンドなのだという事実が強く感じられた。

peridotsとtacicaでの中畑は、本当にいいドラマーとしての姿を見せてくれた。彼が参加してきたバンドやアーティストを見ると、とくにボーカリストはどれも個性の強い人ばかりだが、そのそれぞれの歌の世界に寄り添い、ビートをしっかりと支える中畑はきっと頼れるプレイヤーであり、安心できる存在じゃないかと思う。彼もプロになって20何年かが経過していて、音楽的に幅のあるアーティストたちとこれだけの場数を踏んできただけに、ドラマーとしての引き出しも増えた。激しい演奏も、複雑な変拍子も、時にアドリブ的なメンバー同士の演奏も、当たり前に乗り切る力量の持ち主である。

syrup16g

しかしsyrup16gで演奏する中畑を見てあらためて感じたのは、中畑は何を差し置いてもこのバンドのドラマーで、五十嵐隆というひどく面倒くさく、先が何も読めない才能の、音楽での盟友であるということだ。言ってしまえばsyrup16gのギター・ロックはperidotsやtacicaと比べてもシンプルで、ストレートである。ただしそこでの中畑はバンドの一員というより、五十嵐が解き放つ感情の翻訳と拡散のための起爆剤の役割を果たしている。共に苦しみ、共に叫ぶ、syrup16gというバンドの完全なる一部分なのだ(その構図は、キタダのベースラインが不動の強さを貫いているからこそでもある)。ここで五十嵐の魂をすくい上げているのは、五十嵐の涙をぬぐっているのは、中畑のドラミングなのだ。

syrup16g キタダマキ(b)

ライブは、冒頭で書いたとおりのアンコールを迎えた。今夜peridotsでキーボードを弾き、過去にはsyrup16gと仕事をしたこともある河野圭を招いてのスペシャルな編成で、中畑は「今日ぐらいじゃないとこんなわがまま言えないから、わがまま言ってみました」と彼を呼び込んだ。五十嵐は「何を隠そう、<リアル>はこの人が作りました」と紹介した。

syrup16g

すべての演奏を終えると、ステージの真ん中に歩み出畑のところにケーキが運ばれてくる。河野が鍵盤で「ハッピーバースデー」を弾き、客席みんなで合唱。
中畑は最後のあいさつをした。「今日お集まりのみなさん、ありがとうございます。あと、今日のイベントのために尽力してくださったスタッフの方々、ありがとうございます」。それから出演バンドのメンバー全員の名前をひとりずつ挙げて、「本当にありがとうございます」と言った。さらに現在参加しているVOLA&THE ORIENTAL MACHINE、杉本恭一、北出菜奈、チリヌルヲワカ、それにKode Talkersにも謝辞を述べた。長瀬智也から花が届いたことも。本当に実直だ。

「今日は3バンドだったけど、みなさんにとっていい一日になったらいいなと思います。ありがとうございます。今日がいい一日だったとしたら、それはみなさんがいたからです。気をつけて帰ってね! ほんとにありがとう」

幸せそうな笑顔を見せる。中畑大樹という魅力的なドラマーの、そして魅力的な人の、50歳を祝ったライブ。ひとりの実直なミュージシャンが生きる姿そのものを見るような、素敵な夜だった。

中畑大樹

<公演情報>
「中畑大樹50祭」

7月25日(木) Spotify O-EAST

セットリスト

■peridots
1. 時間旅行
2. 真只中
3. エチュード
4. リアカー
5. 4×4
6. 100%
7. ライフワーク

■tacica
1. 鼈甲の手
2. アリゲーター
3. アロン
4. 新曲
5. ハイライト
6. 人鳥哀歌
7. アースコード

■syrup16g
1. 新曲
2. ソドシラソ
3. 天才
4. (I can't) Change the world
5. 正常
6. 希望
7. 落堕
En1. Everything is wonderful
En2. Reborn

<ライブ情報>
syrup16g
「遅死11.02」

11月2日(土) 日比谷野外大音楽堂
開場16:45 / 開演17:30
チケット料金:6,000円
一般発売日:9月28日(土)

tacica
「ROCK the ROCK!! 2024」

8月2日(金) 名古屋CLUB UPSET

「TIMELINE for ”HOMELAND 11 blues”」

8月31日(土) 梅田Shangri-La
9月1日(日) 名古屋ell.FITS ALL
9月7日(土) Veats Shibuya

公式サイト

syrup16g:
http://www.syrup16g.jp/

peridots:
https://peridotsonline.bitfan.id/

tacica:
https://tacica.jp/

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