第2次エディー・ジャパンの新たな船出は1勝4敗も、ジョーンズHC「チームを変革させるには時間と忍耐が必要」
ご存じのように、第2次エディー・ジャパンの第一歩となるサマーシーズンはほろ苦い結果に終わった。若いメンバーで構成されたJAPAN XVとして臨んだ『リポビタンDチャレンジカップ2024』マオリ・オールブラックス戦は初戦10-36で屈したが、第2戦は26-14の歴史的勝利を手繰り寄せた。だが、肝心のテストマッチは3連敗となった。『リポビタンDチャレンジカップ2024』でイングランドに17-52の完敗を喫すると、ジョージアには数的不利が響いて23-25の逆転負け、逆にイタリアには数的有利となったものの14-42の力負け……。新生ラグビー日本代表は超速ラグビーの可能性の片鱗を見せながら、結果を残すことはできなかった。
7月23日の総括会見に出席した永友洋司日本代表チームディレクター(TD)とエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ(HC)は次のようにコメントした。
永友TD「協会としても勝利することが最大の目標だったので、試合結果は望んだものではなかった。そんな中次のシリーズがはじまる。あくまで2027年『ラグビーワールドカップ』に向けてエディーHC、サポートするコーチ陣はよくやっていると思う。これからKPIを出していき評価しなければならないが、エディーHCが目指す方向性は間違いないと今回のシリーズで私自身評価している」
ジョーンズHC「非常に厳しいスタートになってしまった。テストマッチで負けてスタートするのはいつであっても厳しいもの。だが、チームが向かう方向性については希望を持っている。チームを作るには時間がかかるもの。このチームは現在合計200キャップあるが、そのうちの半分近くの90キャップはリーチ マイケルがマークしたもの。イングランド戦、ジョージア戦、イタリア戦で我々がうまくいく時間帯もあった。とくにジョージア戦はレッドカードでひとり少なくなるまでうまくいっていたと思う。だから、このような状況は長く続かないと思っている。素晴らしい若手も育ってきている。アマチュアでまだまだ若い矢崎由高が世界のトップクラスのチームとテストマッチを3試合も戦ったことを考えれば、その成果はご理解いただけるだろう。今後彼が30回、40回とテストマッチをこなした時にどれほどの選手になっているか考えると、それは末恐ろしいほど。FWも若いメンバー陣が多かった。イタリア代表戦では苦戦したが、彼らにとっていい勉強になったはず。若い彼らは時間をかけながら、成長していくだろう。
みなさんが結果に失望しているのは理解しているし、私自身結果に失望しているが、チームの方向性には失望していない。最初から時間がかかることはわかっているし、これまでのチームからこれから先の若いチームへ変革していくのには時間がかかるもの。若い選手の育成が必要だし、チームを変革させるには時間と忍耐が必要」
選手たちの超速ラグビーの理解度を問われると、ジョーンズHCはこのように返答した。
「最初の20分間を見ると、だいたい私たちがどのようにプレーしたいか、選手たちの理解度は高いと言える。しかし、プレッシャーが掛かるとすぐに悪い癖が出てしまう。昨年の『RWC』から、世界のトップ10のチームに勝てるようなチームを作るのは理想だが、プレッシャーに負けてしまうのが現状だと思う。これはトレーニングでプレッシャーが掛かる状態でも自分たちのラグビーをする土台を作っていきたいし、『パシフィックネーションズカップ(PNC)』でも続けていくつもり。選手たちは自分たちがどうプレーするかを理解していると思う。もちろん、選手の中には違う意見があることも理解している。ゆっくりとプレーした方がいいと思う選手、フィジカリティなラグビーをしたい選手もいるが、ジャパンでプレーするには集団としてスピーディにプレーするのが正しい方向だと理解している」
5試合でハーフ団の組み合わせを固定しなかった点を尋ねられると?
「4年のプランで進めていこうと思う。最初の1年は才能がどこにあるのか、誰が進歩し続ける適性を持っているのかを見極める時間だと思ってといる。2年目、3年目になればコンビネーションの組み合わせを検討するし、4年目はもちろんベストの33人を選んでいきたい。だが今年は、いろいろな組み合わせを見て、選手たちに自分の力を発揮するチャンスを与えていきたい。いい選手はその能力を発揮し、そうでない選手はどんどん機会を失っていくことになるだろう」
ハーフ団は超速ラグビーの舵取りに苦戦している点を指摘されると。
「私たちがやりたいプレーは、基本的にボールの75%をラインアウトかキックリターンからはじまる。世界のほとんどのチームと同じようにラインアウトからアタックをはじめる。ラインアウトでは多くの決断を下すことはないし、3フェーズ後にはモーメンタムをもってスコアしてほしい。今の段階では、多くの選手がそれを理解していない。しかし、我々はまだ学んでいるところ。そこを頭ごなしに叩き込みたくはないし、強制もしたくない。彼らは学ばなければならない。判断のいいキック1本で、相手にプレッシャーをかける場面は何度もあった。我々はまだできていないが、選手たちはキックのプレッシャーゲームを学ばなければならないし、ゲームの原則を学ぶ必要がある。
例えば、ボールを奪って前進しているのなら、プレッシャーを掛け続けたい。そして相手のWTBが上がって来たら、裏のスペースにキックを蹴る。サイドからサイドに展開するのであれば、スペースを作らなければならない。これは個々の判断ではなく、プレーの原則。だから、個人の判断とプレーの原則の両方の要素がある。
我々はゲームの原則を教え、選手たちに決断させる必要がある。現状リーグワンでは、選手はパターン化されたスタイルでプレーしている。だから、彼らはパターン通りにプレーするだけ。私たちが彼らに求めているのは、もし前進していないなら前進する方法を見つけなければならない」
ジョーンズHCはFB矢﨑やHO佐藤健次、PR森山飛翔ら大学生が担う役割の大きさを力説した。
「昨日、矢﨑と真剣に話をした。矢崎にとって、早稲田大学に戻ってもワールドレベルのプレーヤーのようにトレーニングすることが大事になる。彼がワールドレベルのラグビーを周りの選手に知らせることで、大学ラグビーのレベルを上げることができると思う。周りの選手たちにそれを示すことはできる。彼はまだ20歳だが、そうする必要がある。彼がワールドレベルを知らしめることで、大学ラグビーのレベルを上げることができるはずだ。森山も帝京大学に戻り、同じようなことをしてほしい。早稲田主将の佐藤も、(明治大学FL)の利川(桐生)もチームに戻り、より高いレベルでトレーニングを積んで、大学チームのレベルアップに貢献してほしい。そうすることで、重要な変化がもたらされることになるだろう。私は日本ラグビーの未来は、間違いなく大学の選手の育成に懸かっていると思っている。今後8年間は、大学生の育成がカギになる。周知の通り、リーグワンでは完全にプロ化されている。だが、日本人の出場機会は53%にしか達していない。この数値を上げるためには大学からの8年間の選手育成は非常に重要。私たちは大学側のサポートに感謝している。日本のラグビー史上、最も大学ラグビーが重要になることだろう」
今回の5試合から見えた課題はこうである。
「ゲームのスタッツを見ると、修正したい点はある。ラグビーでは勝ち試合に必要な大事な数値が7~8つのスタッツがあり、それに基づいて99%の結果を予測することができる。我々はキャリーメーターに優れている。アタックは素晴らしい。キッキングゲームを追加する必要があるが、それは経験を積めばほとんどできるようになる。だから、3、4年かけて発展させたい。
我々の規律、ペナルティの数はかなりよかった。ジョージア戦ではレッドカードとイエローカードがあったが、我々は規律を保って戦っている。一貫してできなかったのは、ボールをターンオーバーされた回数。イタリア戦では、イタリアが18回に対して我々は27回もターンオーバーされた。それがそのまま勝敗を分ける要因となった。その内訳はラインアウトで7回ターンオーバーされた。その点が我々が勝つか負けるかを分けている。もうひとつターンオーバーの要因となったハンドリングエラーがある。9回もボールを相手に返してしまった。だが、その部分は個人のスキルの問題なので、高めていくしかない。もしターンオーバーレートを減らすことができれば、試合に勝つ確率も上がるだろう。もうひとつ、ラグビーのやり方を学び直す必要がある。相手のゴールラインまで行くと、15人のディフェンダーがいる。(横幅が)60mだから、(ディフェンダー)ふたりの間にスペースはない。そこでオーソドックスなパワーゲームに戻ってしまった。よりよいゴールラインアタックを考えなければならない。それには流動性が必要だし、もっと動きが必要だ。そのためにはかなり革新的でなければならない。『PNC』ではターンオーバーを改善し、ターンオーバーを減らしたい。ゴールラインアタックも改善させていきたい」
イタリア戦では若いFW陣が苦戦したが。
「まずイタリアの方が我々よりも一枚も二枚も上手だったことは認めないといけない。イタリアはフロントローがタフで、彼らのスクラムの組み方に対応できなかった。ラインアウトの面でも彼らは我々より前に出てきた。我々のフロントローは若い。原田(衛)が3キャップ。竹内(柊平)が6キャップ。茂原(隆由)が3キャップで経験豊富なイタリアのフロントローに太刀打ちできなかった。だが、それは選手たちが受けるべきレッスンで、自分たちが学ぶ唯一の方法だ。ワーナー(・ディアンズ)はまだ6、7キャップに満たない(実際は14キャップ)。彼はまだラインアウトのコールの仕方を学んでいるところ。これらは貴重なレッスンであり、チームを作る上で必要不可欠なレッスン。もちろん結果にはがっかりしているが、チームとしての方向性には失望していない。日本には有望なタレントが揃い、勇敢でタフネスを発揮し、粘り強く戦ったが、相手が一枚も二枚も上手だった。現段階では、対戦したチームは我々よりも格上だということを認識しなければならない。魔法の粉をかけて突然すべてが劇的に変わるわけではない。ハードワークを続けていくことが必要だ」
トップ10の強豪に勝つようになるまで、どのくらい時間を要するのか聞かれると、指揮官はこう答えた。
「正直に言うと、いつとは言えない。このような若いチームを勝てるようにするためにはハードワークし続ける必要がある。そして、どこかの試合でブレイクスルーを起こす必要があると思う。チームはブレイクスルーを経て、上昇気流に乗ることがある。これまでの経験で言うと、2013年のウェールズ代表戦がブレイクスルーとなり、チームの中で本当に自分たちのことを信じはじめ、自分たちはやれると信じ抜くができた。今回のチームが、いつブレイクスルーを迎えるかはわからない。ただハードワークを続け、信念を貫き、正しい選手をセレクションして、そのブレイクスルーの時を迎えたい。その時は必ずくると思う」
リーチ主将とSH齋藤直人は『PNC』には参加しないとジョーンズHCは明言した。
「齋藤は『PNC』には参加しない。彼は(スタッド・)トゥールーザンへ行くので、応援したいと思う。また35歳以上のプレーヤーは休みにする。未来の選手は全員参加する。どの選手も参加したがっているし、プレーしたがっているし、身体的な心配はないと思っている。ただ、リーチには休養が必要。彼は東芝でのケガを抱えており、リハビリが必要なので休ませる。しかし、残りの選手はセレクションに参加できる」
リーチや齋藤が不在でもHCは『PNC』で結果は求める。
「『PNC』の目標は優勝すること。私たちが見たいのは、チームがいかに進歩し続けられるか、ジャパンのアイデンティティを持ってプレーし続けられるか。そしてセレクションの面でも、私たちにとって重要な時期になる。終盤には欧州ツアーがある。日本代表にとってビッグゲームが3つ控えている(10月26日(土)・日産スタジアムでのニュージーランド戦、11月9日(土)・スタッド・ド・フランスでのフランス戦、24日(日)・トゥイッケナムでのイングランド戦)。ビッグゲームに向けて、我々が目指す形に少しでも近付けるようにしたい」
日本代表は束の間の休息を経て、『パシフィックネーションズカップ 2024』プールBでカナダ、アメリカと戦う。プールAはフィジー、サモア、トンガ。8月25日(日)・カナダバンクーバーにてカナダ代表×日本代表、31日(土)・アメリカロサンゼルスにてアメリカ代表×カナダ代表、9月7日(土)・熊谷スポーツ文化公園 ラグビー場にて日本代表×アメリカ代表、14日(土)・秩父宮ラグビー場にてプールA3位×プールB3位、プールA1位×プールB2位、15日(日)・秩父宮にてプールA2位×プールB1位、21日(土)・東大阪市花園ラグビー場にて3位決定戦、決勝がキックオフ。
取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)
07/26 18:00
ぴあ