戦場の厨房で安田顕×林遣都が繰り広げる謎めいた舞台『死の笛』
安田顕の企画・プロデュースによる舞台で、林遣都を共演に迎えたふたり芝居『死の笛』が7月5日に草月ホール(東京・赤坂)にて開幕。ゲネプロの模様が関係者と報道陣に公開された。
安田がドラマ「初恋の悪魔」(2022年)で共演した林の演技にほれ込み、共演を熱望したことで実現したというこのふたり芝居。脚本の坂元裕二、演出の水田伸生も「初恋の悪魔」と同じ座組であり、ドラマ「Mother」、「anone」などの名作を世に送り出してきた強力コンビが今度は舞台でタッグを組むことに。
舞台上のセットは『ターザン』を思わせるような鬱蒼としたジャングルが広がる。舞台の真ん中には木で造られた小屋があり、その屋根の上にも昇ることができるようになっており、屋上の左右には小さなテーブル、無線機のようなものや積まれた本が見え、舞台のちょうど中央にはフェンスのような仕切りが存在する。
そこが日本なのか? 海外なのか? 架空の国なのか? そして現在なのか? 過去なのか?
近未来なのかも明示されないまま、物語は進んでいく。
最初に登場するのは、安田が演じる男。薄汚れた格好で、少しおかしな日本語を話し、小屋の横の調理場で野菜を料理する。不明瞭ながらも、その語りから、彼が娘を無残にも殺された過去を持ち、その復讐のために犯人が現場に残した証拠品の軍靴を履き、犯人が再び現れるのを待っているということがわかってくる。
しばらくすると、林が演じるもうひとりの男も姿を見せる。安田と同様に薄汚れた衣装を身にまとい、こちらも文法のおかしな日本語を話し、同じく炊事に勤しむ。
そこでふたりは初めて顔を合わせ、言葉を交わすが、なんとも嚙み合わないふたりの会話の断片から、そこが戦場で彼らは炊事担当の兵士であり、ふたつの国が彼らの真下を通っている地下鉄の権益をめぐり争っていること。そして彼らのいる場所(中央の仕切り)がちょうどふたつの国の境であり、彼らは敵同士であることがわかってくる。
互いを警戒しつつも、“炊事兵”であるふたりは殺し合うことはせず、それぞれの仕事に打ち込みつつ、言葉を交わし、徐々に打ち解けていく。戦場で敵同士の兵士たちの姿を描く物語は、ボスニア紛争の中立地帯を舞台にした映画『ノー・マンズ・ランド』をはじめ、数多くあるが、本作は戦場における感動の友情物語というだけではない、なんともミステリアスな空気をまとっている。
時折、激しく鳴り響くブザーと無線から聞こえてくる謎の声。ふたりが決まった時間に打たなくてはいけないことになっている怪しい注射(安田演じる男はそれを“生きる薬”と呼ぶ)。林が演じる男がジャングルで出会い、恋焦がれる、近隣に暮らすという“リップルさん”という名の女性。そしてタイトルにもなっている「吹くと死ぬ」と言われている “死の笛”など、ところどころに謎めいた伏線が散りばめられているが、第3幕の終盤から最終第4幕にかけて、物語を覆っていた霧が晴れ、全ての謎の答えが明らかになり、彼らがいる世界の姿が戦慄と共に浮かび上がってくる。
ふたりは何者なのか? 戦争の結末は? 安田が演じる男の娘が殺された事件の真相は? この戦場の厨房で何が起こっているのか――?
ちなみに、事前に公開されている本作のプロモーション映像では安田と林が、戦争や戦争とは結び付かない洒落たスーツに身を包み、ベンチに腰掛ける姿が映し出されているが、最後まで物語を見ると、なぜ彼らがスーツ姿だったのか「なるほど」と思わされる仕掛けになっている。
最初は意味不明だが、慣れてくるとコミカルに思えてくるおかしな日本語で奇妙な会話を繰り広げ、観客を物語に引き込んでいく安田と林の見事な演技力、緻密な舞台美術に加え、重要な場面で奏でられる平松由衣子によるチェロの生演奏が、この物語の世界観の一翼を確かに担っている。
ドラマとはまた異なる、坂元×水田が紡ぎ出し、安田×林が体現する怪しげで、コミカルで恐ろしい世界を堪能してほしい。
<公演情報>
TEAM NACS Solo Project 5D2 -FIVE DIMENSIONS II-『死の笛』
企画・プロデュース:安田顕
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
出演:安田顕 林遣都
【東京公演】
2024年7月5日(金)〜7月14日(日)
会場:草月ホール
【札幌公演】
2024年7月17日(水)〜7月19日(金)
会場:かでるアスビックホール
【大阪公演】
2024年7月24日(水)〜7月28日(日)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
07/08 15:00
ぴあ