黒木華インタビュー いよいよ開幕!『ふくすけ』で、“矛盾”を楽しんでほしい
松尾スズキの作・演出で1991年に初演された伝説の舞台『ふくすけ』が、98年、2012年の再演を経て、この夏12年ぶりに『ふくすけ 2024-歌舞伎町黙示録-』のタイトルで再登場する。薬剤被害によって障がいを持った少年“フクスケ”を中心とした群像劇であったこれまでの上演から、今回は台本をリニューアル。フクスケが入院する病院の警備員・コオロギと、盲目のその妻・サカエの夫婦を軸に、毒と哀切にまみれた狂騒の人間ドラマが展開する。阿部サダヲ、荒川良々、皆川猿時ほか松尾の信頼を得た劇団大人計画の手練れの面々、さらに岸井ゆきの、松本穂香、秋山菜津子ら豪華キャストが集結。新たな伝説の幕開きを前にサカエ役の黒木華が語る、新生『ふくすけ』に懸ける思いとは。
今回のサカエはコオロギ以上に危険?!
――黒木さんは12年前に上演された前回の『ふくすけ』をご覧になっていると伺っています。その時の印象からお話しいただけますか?
もう衝撃でしかなかったですね。内容に対する衝撃はもちろんのこと、キャストの皆さんのパワーに圧倒されて、すごく疲れて帰った記憶があります(笑)。いっぱい笑ったけど、笑ってよかったのかな!? とか、いろいろ考えたりして。一緒に観に行った友人と、しばらくふたりで「うん……」って言葉が出ないような状態になって(笑)。それくらい大きなものを受け取った、そんな印象でした。
――ご自身もその劇空間に立ってみたい、といった思いは?
そうですね。やってみたい、とは思いました。松尾さんとは役者として共演したことはありましたが、舞台では演出を受けたことはなかったので、どういうふうに作品を作られているんだろう、もし自分だったらどの役をどんなふうに出来るだろう、はたしてついていけるのかな、といったワクワクした気持ちはありましたね。
――12年後にチャンス到来ですね。今回は「歌舞伎町黙示録」と副題がついて台本が改訂されているそうですが、12年前とはどのような違いがあるのでしょうか。
阿部サダヲさんが演じるコオロギと私が演じるサカエ、このふたりの出会いからその後の流れがしっかり描かれていて、登場人物たちそれぞれの関係性が前回よりも想像しやすくなっているなと思いました。でも全体的なイメージはそのままで、フクスケが登場した時のものすごい衝撃は変わっていないし、さらにパワーアップしたものになっている印象です。
――コオロギの盲目の妻、サカエという女性は今回どのような人物と感じ取っていますか?
今回の稽古場で私がサカエに対して思うのは、すごく嫌なリアルとフィクションが混ざったような人物と言いますか。私、コオロギにとてもエキセントリックなイメージを持っていたんですけど、今回のサカエはそれ以上に危険な感じがするんです。今回のコオロギはずるかったり、逃げようとしたり、弱いところが見えるので人間らしさを感じるんですけど、サカエはリアルにどこか心のタガが外れている、情緒が安定していない人という印象があって。
コオロギがサカエにだけ暴力を振るわないことに対して、認めてもらえていない寂しさを感じていたり、また子どもが出来ないことに負い目を感じているところも大きいのかなと。もし子どもが出来ていたら何かしらの絆が生まれて、もう少しまともでいられたのかも……なんて考えるとすごく切なくなりますね。松尾さんに言われたのは、サカエはコオロギに対抗しようとして、そのパワーについていこうとしてどんどん狂っていくんだと。あっ、そうなんだ……と思いました。コオロギに認めてもらいたくて、自分に出来ることを探していった結果、自身に妙な神様が降りてきてしまうのかな〜みたいなことを考えながら今、稽古をしています。
岸井ちゃんと松尾さんなりの『ふくすけ』が立ち上がっている
――阿部サダヲさんとの共演も楽しみにされていたそうですが、稽古場での様子はいかがですか?
楽しいですね! やっぱり松尾さんと長くお仕事をされているから、松尾さんの言葉をすぐに汲み取ってサラッとやってのけている感じがして、すごいな! と思って見ています。それは荒川良々さんとか、ほかの大人計画の劇団員の方々にも感じるところですね。阿部さん、何を考えていらっしゃるんだろう!? っていまだにわからないんですけど(笑)、そういうところが素敵だなと思います。
――阿部さんが前回、前々回で演じたフクスケの役を、今回は岸井ゆきのさんが演じることに、これまで『ふくすけ』を観てきた方々は驚いたのではと思いますが、岸井さんの稽古場での様子も教えていただけますか。
岸井ちゃんもすごく楽しくやってらっしゃって、度胸があるな〜と思いながら見ています。小柄だけどものすごくパワフルで、これからの稽古でもっと自由に暴れていくだろうな、どんどんブラッシュアップしていくだろうなと思います。今までにない、岸井ちゃんと松尾さんなりの『ふくすけ』が立ち上がっていて、お客さまがこれをどうご覧になるんだろう!? と楽しみです。あっ、全然関係ないんですけど、岸井ちゃんはすごくいい匂いがするんですよ。私、匂いフェチなので(笑)、通りすがりにあれっ? と思ったら、岸井ちゃんから、香水なのかな、いい匂いがして。それにとても癒されています。
――気になっていらした稽古場での松尾さんはいかがでしょうか。
厳しい感じなのかなと勝手に思っていたんですけど、とっても穏やかでした。でもおっしゃることはズバッと芯を突いていて、あ、そうか! と気付かされることが多いです。遊び心、ユーモアのセンスが素晴らしいなといつも感じています。「こういう感じでやってみて」って松尾さんがやって見せてくれることがすでに面白いんですよね。やっぱり素敵だなと思いながら稽古をしています。
――松尾さんが描かれる、笑いをまぶしながらいわゆる不適切、不謹慎のラインのギリギリを攻めていく劇世界。その魅力をどのように感じていらっしゃいますか。
私はとても好きですね。演劇の自由さはこういうところにあるなと感じています。ある表現に対して、嫌いとか苦手と感じることも自由だし、好きだと思うことも自由だと思うんです。今の時代、言葉の一部分だけを切り取って、そこだけで判断してしまうような傾向があるじゃないですか。全体を通して見た時に、本当に言いたいことを汲み取ったり、想像したりする、そんな余裕が今は許されていない時代なのかなと。演劇では、その何時間のあいだ、その場にいて、目の前で起こったことを感じ取ってほしい。『ふくすけ』を観に来ようと思われる方は松尾さんの作品が好きで来てくださる方が多いでしょうけど、松本穂香ちゃんや岸井ゆきのちゃんなど、好きな俳優さんが出ているから今回初めて来られる方もいらっしゃると思います。そうした方々に「不謹慎だけど笑っちゃった」とか、「嫌な場面もあったけど面白かった」とか、そういう矛盾を楽しんでほしいなと。芸術は、いろんな側面を感じられるほうが絶対に面白いですよね。私はこれまでいろんな芝居を観て来て、こういうものは好き、とか、これは嫌いかも……なぜ嫌いなんだろう? とか、そんなふうに感じながら自分の世界が広がっていったと思っています。
皆さんがちょっと疲れて帰るくらいパワーみなぎる舞台に
――1991年の初演、そして98年、2012年と再演を重ねて2024年の上演を迎えます。これほど長いスパンで支持される本作の核となるもの、観客を惹きつけるものについてはどうお考えになりますか?
私が思うのは、愛情に対する枯渇した気持ち、寂しさ……、そういった感情に惹かれるのかなと。皆が皆、ちゃんと関わりきれていなくて、埋められない穴を何かで埋めなきゃともがいている、そんな切なさを感じるんです。誰かと繋がりたいんだけど、きちんと繋がれない、歪な形でしか自分を保てない、そういう姿はとても人間らしいと感じますし、“埋める何かを探す”というところに惹かれるのかなと思います。居場所のない人たちが集まっている……その芝居を歌舞伎町(THEATER MILANO-Za)でやるというのもすごいことですよね。観終わった後、歌舞伎町の街を帰っていく時にどんな気持ちになるんだろう?と。
――「歌舞伎町黙示録」の意味するところを体感するのか、はたして…!? 賑々しくも切ない人間模様を見届けたいと思います。
観客の方々をパワーの波で飲み込むような、思い切りエネルギーをぶつけられるような舞台にしたいです。皆さんがちょっと疲れて帰るくらいに(笑)。パワーみなぎる2024年の『ふくすけ』に期待していただけたらと思います。
取材・文:上野紀子
<公演情報>
COCOON PRODUCTION 2024『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』
作・演出:松尾スズキ
出演:
阿部サダヲ 黒木華 荒川良々 岸井ゆきの 皆川猿時 松本穂香 伊勢志摩 猫背椿 宍戸美和公 内田慈 町田水城 河井克夫 菅原永二 オクイシュージ 松尾スズキ 秋山菜津子
加賀谷一肇 石井千賀 石田彩夏 江原パジャマ 大野明香音 久具巨林 橘花梨 友野翔太 永石千尋 松本祐華 米良まさひろ 山森大輔
ミュージシャン:山中信人(三味線)
【東京公演】
2024年7月9日(火)〜8月4日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6 階)
【京都公演】
2024年8月9日(金)~8月15日(木)
会場:ロームシアター京都メインホール
【福岡公演】
2024年8月23日(金)~8月26日(月)
会場:キャナルシティ劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/fukusuke2024/
公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/24_fukusuke/
07/08 12:00
ぴあ