CRYAMY“最初で最後の日比谷野音ワンマン”は命懸けの3時間半公演だった【ライブレポート】

Text:小川智宏 Photo:村井香、サトウミズキ、三浦苑人

6月16日日曜日、日比谷野外大音楽堂でCRYAMYのワンマンライブ「CRYAMYとわたし」が開催された。アメリカ・シカゴで今は亡きスティーヴ・アルビニと傑作アルバム『世界 / WORLD』を作り上げ、帰国後にはカワノが心身の消耗によって体調を崩し、そこから這い上がるようにしてツアー『人、々、々、々』を走りきり、そしてたどり着いた約束の地。「最初で最後の日比谷野音ワンマン」と銘打たれ、文字通り決死の覚悟でこの1年を進んできたCRYAMYがすべてを捧げたライブはじつに3時間半にも及んだ。

(Photo:サトウミズキ)

開演時刻は17時。まだまだ明るい野音にジョイ・ディヴィジョン「Disorder」が鳴り渡る。〈I've got the spirit, but lose the feeling〉――「魂はあるが、感情は失った」と繰り返すこの曲が終わる頃、ステージにフジタレイ(g)、タカハシコウキ(b)、オオモリユウト(ds)が現れた。そして最後にカワノ(vo/g)が登場。黒のスラックスに白いシャツという、ちょっとフォーマルないでたちだ。そのままギターを手に取り、おもむろに歌い始めた1曲目は「WASTAR」。野音という場所のもつ独特の空気を切り裂き、塗り替えていくように、鋭いバンドサウンドが鳴り響く。フジタが一心不乱にギターをかき鳴らす横でカワノは絶叫し、ギターをもった手を大きく広げてみせる。

(Photo:村井香)

「こういうときなので、かっこいいことを言おうと思ってたんだけど――」。「crybaby」まで4曲をノンストップで披露したあとカワノは客席を見渡してそう言った。「これ(目の前の風景)を見てどうでもよくなりました。みなさん、よく来てくれました」。さらに彼はこう続けた。「音楽でひとつになろうとか、1対1で向き合って歌いますとか、素晴らしいことだと思うけど、それ以前の話で。今までいっぱいライブやってきて、あまり楽しいとかうれしいとか感じたことはないけど、僕はステージの上からみんなの顔を見るのが大好きでした。忘れないように、焼き付けて帰ろうと思います」――最初のMCなのにまるでお別れの挨拶のよう。あえて過去形で語られたその言葉に、ここに懸けてきたカワノの意思を見る。だがその別れの予感を振り切るように、ここからCRYAMYはますます怒涛の勢いで楽曲を積み重ねていくのだ。

タカハシコウキ(b) Photo:村井香

オオモリユウト(ds)Photo:村井香

〈どうせ死ぬのなら いや消えるのなら/それまであなたと生きたいのだ〉と歌う「まほろば」から「俺たちの恩人、スティーヴ・アルビニに捧ぐ」という言葉とともに演奏されたニュー・アルバム収録曲「光倶楽部」は音源よりも数段荒々しさを増した音で、まるでアルビニの魂が乗り移っているようだ。「変身」でも「注射じゃ治せない」でも、まるで生き急ぐかのようなハイテンションな演奏が続く。CRYAMYというバンドはずっとそうなのだ。いつか死んで消えることがわかっているから、誰よりも生きることに前のめりになる。今この瞬間の生を燃やして発光させることに命懸けになる。それが側から見るととても危うく、アンバランスに見える。でもそれはただ猛烈なスピードで生きているだけなのだ。ここに集まったオーディエンスとCRYAMYはいわば共犯者として、この形でしか表現できない生を謳歌している。

(Photo:サトウミズキ)

オーディエンスの手が次々と上がった「物臭」でライブの高揚感にますます拍車をかけると、〈君が特別だったんだ〉と歌う「Delay」を経て、「ALISA」へ。まるで遺書のようなこの曲を最後はひとりで歌い終えると、カワノは静かに「ありがとう」と呟いた。「これまでいっぱい綺麗事を吐いてきた。それを一生懸命聴いてくれてありがとうございます。感謝してます、心から。歌の中くらいは綺麗事を言いたい。綺麗なものが好きだったから。でも残念ながら僕は綺麗な人間でも素晴らしい人間でもなかった。人を殴ったこともあるし、殺してやろうと思ったこともある。俺には歌を歌う資格がないんじゃないか(と思った)」。でも目の前にいる人のいろいろな表情を見ているときだけは、本当になりたかった姿に導かれていったような気がする、そう言って、カワノはこう言葉を継いだ。

カワノ(vo/g)Photo:サトウミズキ

「みんなのおかげで、僕、人間になれたような気がしました」。そうして歌われた「GOOD LUCK HUMAN」は、引き裂かれながらも人間を信じ、肯定し、愛そうとする彼の心の叫びのような歌だと思った。「僕の〈あなた〉はここにいるみなさんです」という言葉とともに息を吹き返したようにフレッシュなバンドサウンドが鳴り渡った「ディスタンス」でライブの「本編」は終了……しかし振り返ってみれば、それはこの日の「プロローグ」に過ぎなかった。

フジタレイ(g) Photo:サトウミズキ

(Photo:村井香)

「人間になれた気がしました」というカワノの言葉が示していたのが、この野音で生まれ変わったCRYAMYの姿だとするなら、ライブはそれで終わるわけにはいかない。再びひとりでステージに戻ってきたカワノは、「やる予定はなかったんですけど」と弾き語りで「道家の歌」を披露。さらに「本人たちがいないから先に言っておきます。メンバー3人、感謝してます。僕は変な人だから、5年間よく我慢してくれたなと思います。あまり上手にやれなかったから」。その言葉は確かにあまりに人間くさく、そして等身大だった。

そしてフジタ、タカハシ、オオモリも戻ってきたステージで、カワノは「ここからはあなたに聴いてもらうために歌います」と言って「アンコール」を始めたのだった。ひときわ明るく、力強く響いた「鼻で笑うぜ」、メンバー4人で向かい合って始まった「戦争」、メンバーのコーラスがカワノの歌を支えた「ウソでも「ウン」て言いなよね」……バンドとしてのCRYAMYがステージ上で復活していくような熱を感じながら、バカみたいに「いいバンドじゃないか」と思った。そして「完璧な国」と「天国」で美しいアンサンブルを描き出すと、「歌を聴いてくれて、ありがとうございました」と4人は再びステージを降りていった。

(Photo:村井香)

だがライブはまだ終わらなかった。三度帰ってきたカワノは「余力は残されてる。歌い切るって約束したので、しばしお付き合いください」といってマイクの前に立った。「シカゴで録ったアルバムは俺の遺書や遺言、そんな気持ち。あの11曲のどこを切り取って『これがCRYAMYの、カワノの遺言だ』と言われても後悔はない」と改めて『世界 / world』というアルバムに込めたものを言葉にすると、「歌ってるときはおまえ、貴様、君、ひとりひとりのほうを見て心を割いて歌ってきたという自負がある。どうか受け取っていただきたい」と告げ、絶叫から「葬唱」へ。ストロボライトとスモークに包まれる中、ヘヴィなタカハシのベースが、フジタの切先鋭いギターが、再び野音をカオスに叩き込んでいく。〈歌うということは/負けるってことだよ〉というこの曲の歌詞は、大団円の美しい終わりなどどこにもないし、だからこそ必死に続けていくしかないんだという覚悟なのかもしれない。

さらに同じく『世界 / WORLD』からの「待月」でフィードバックノイズがけたたましく鳴る中伸びやかな歌を響かせると、「月面旅行」や「プラネタリウム」といった代表曲を届けていく。「マリア」「THE WORLD」を終えると、メンバーが去り、またしてもカワノはひとり残された。「大したこと言えなくて悪いな。体に気をつけて。悪い人もいるけど、いい人もいるから、忘れないで。最後に……長生きしようね」。

(Photo:サトウミズキ)

そんな言葉とともに弾き語りで歌われた「人々よ」は、とてもパーソナルで温かく響いてきた。〈最期まで私の声は私が/決めたように響くから〉。その歌詞が、この「最初で最後」の野音を終えた先のCRYAMY、というかカワノの心を体現するように聞こえてくる。そう、CRYAMYは続いていく。最後の最後、メンバーが戻ってきて演奏された「世界」は永遠に終わらないのではないかというその長さと怒涛のインプロヴィゼーションは、そのことを自ら証明しているようだった。気がつけば終わったのは20時30分。野音の音出し制限時刻ギリギリまで、彼らは叫び、鳴らし続けていた。

(Photo:三浦苑人)

<公演情報>
「CRYAMYとわたし」

6月16日(日) 日比谷野外大音楽堂

セットリスト

■第一部
1. WASTAR
2. Sonic Pop
3. 普通
4. crybaby
5. まほろば
6. 光倶楽部
7. 変身
8. 注射じゃ治せない
9. 豚
10. E.B.T.R
11. Pink
12. HAVEN
13. 物臭
14. Delay
15. ALISA
16. GOOD LUCK HUMAN
17. ディスタンス

■第二部
18. 道化の歌(弾き語り)
19. テリトリアル
20. 鼻で笑うぜ
21. 戦争
22. ten
23. ウソでも「ウン」て言いなよね
24. 完璧な国
25. 天国

■第三部
26. 葬唱
27. 待月
28. 月面旅行
29. プラネタリウム
30. 街月
31. マリア
32. THE WORLD

■第四部
33. 人々よ(弾き語り)
34. 世界

CRYAMY公式サイト:
http://cryamy.tokyo/

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