昼夜それぞれの魅力を放つ、見どころ満載の2演目。歌舞伎座「七月大歌舞伎」開幕

7月1日(月)、歌舞伎座「七月大歌舞伎(しちがつおおかぶき)」が開幕した。上演は昼夜それぞれの魅力を放つ2演目、『星合世十三團 成田千本桜(ほしあわせじゅうさんだん なりたせんぼんざくら)』と『千成瓢薫風聚光 裏表太閤記(せんなりびょうたんはためくいさおし うらおもてたいこうき)』。宙乗り、早替り、立廻りなど、見どころ満載のひと月となる。初日公演のオフィシャルレポートを紹介する。

昼の部は、通し狂言『星合世十三團 成田千本桜』。令和元(2019)年7月に、市川海老蔵(現、團十郎)により初演され、三大名作のひとつ『義経千本桜』をもとに、娯楽性に富んだ演出や新たな趣向、宙乗り、大立廻りを取り入れ、テンポ良く繰り広げられる物語に加え、主要な13役を鮮やかな早替りで見せるという、これまでにない試みも好評を博した本作。

単独で上演されることの多い、「渡海屋/大物浦」碇知盛、「すし屋」いがみの権太、「川連法眼館(四の切)」狐忠信佐藤忠信実は源九郎狐という大役をはじめ、左大臣藤原朝方、卿の君、川越太郎、武蔵坊弁慶、入江丹蔵、主馬小金吾、鮨屋弥左衛門、弥助実は三位中将維盛、佐藤忠信、横川覚範実は能登守教経という、『義経千本桜』でお馴染みの登場人物を、市川團十郎が早替りで勤める。團十郎の衣裳替えの回数はなんと39回。トータル27ポーズに及ぶ衣裳を次々と変え、舞台の至るところから姿を現し、鮮やかに役々を演じ奮闘する團十郎の姿に、客席からは大きな拍手がおくられた。

序幕の最後には美しい星の光に包まれる中、知盛の霊が天へと昇っていく幻想的な宙乗り、大詰には狐忠信の華やかな宙乗りが繰り広げられ、観客の目が釘付けとなった。幕切れには大量の桜の花びらが舞台上、そして客席に降り注ぎ劇場の熱気も最高潮に。一時も飽きさせないエンターテインメント性に富んだ演出が続く。

発端の源氏と平家の相関図を用いた口上に始まり、「今のお客様にもご理解いただきやすいよう、聞き慣れない言葉を分かりやすい言葉に言い換えるなど、相談しながら、満を持して臨みます」と話す團十郎。さらに「通し狂言で演るからこそ、みえてくるものがあります。人間は欲にまみれ、義理に悩み、争いを繰り返す。そんな中で、親への愛情を貫く源九郎狐の純粋さからは、学ぶものがあると思います。世界中で戦争が続く今、お客様にも感じていただけるのではないでしょうか」と今回の再演への強い思いを筋書で語っている。

発端・序幕から大詰まで、『義経千本桜』のドラマ性と人間模様を凝縮し、古典の名作に新たな息吹を吹き込む。中村梅玉の源義経、中村魁春のお柳実は典侍の局、中村雀右衛門の静御前、市川右團次の相模五郎、中村児太郎の若葉の内侍・小せんなど、源平の時代に生きた人間たちの運命と修羅を描く壮大な物語となっている。

華やかな表、悲劇的な裏を織り交ぜた物語

夜の部は、昭和56(1981)年の初演以来、そのスケールの壮大さに一度も再演されることなく伝説の舞台となった『千成瓢薫風聚光 裏表太閤記』(奈河彰輔脚本、藤間勘十郎演出・振付)。天下人・豊臣秀吉の出世物語「太閤記」から、秀吉の活躍が光る華やかな表の物語と、その陰にある明智光秀らの悲劇的な“裏”の物語を巧みに織り交ぜた舞台だ。実に43年ぶりとなる今回の上演では、宙乗り、早替り、本水を使った大滝での大立廻りなど歌舞伎の醍醐味に溢れたケレン味溢れる演出が盛り込まれ、新たな構想で幕を開ける。

幕が開くと、そこは天下の極悪人・松永弾正(市川中車)の館。自らの主君に、将軍・足利義輝を滅ぼし、東大寺を焼き払った罪を追及する織田信長の使者らを、隙をついて斬り捨て、息子の明智光秀に御家再興を託して、自ら放った炎に包まれる。いっぽう、織田信長(坂東彦三郎)への復讐の機会を狙う明智光秀(尾上松也)は、重ねて受けた恥辱を晴らすため、計略を巡らせ本能寺で信長の野望を打ち砕く。さらに所変わって愛宕山では、信長の嫡子・織田信忠(坂東巳之助)が酒宴の最中に襲われるが、立廻りを繰り広げ、光秀の妹・お通(尾上右近)との間に設けた子・三宝師をお通に託す。幕開きから物語がスリリングに展開し、悲劇的かつ緊迫感ある場面の連続を、客席は固唾を飲んで見守った。

二幕目は、中国地方を秀吉が攻める備中高松城の場面から。冒頭、秀吉の軍勢を見張る出井寿太郎(市川寿猿)が、何を聞かれても「今年で94歳!」と答え、客席は笑いと拍手に包まれた。現役最高齢の歌舞伎俳優・市川寿猿は今月も元気いっぱいだ。秀吉との戦の敗北を悟った鈴木喜多頭重成(松本幸四郎)とその息子孫市(市川染五郎)の苦衷が竹本の語りに合わせて表現された場面は、序幕とは打って変わった親子の情愛が込められた物語に客席は感動に包まれる。さて、光秀追討のため、都へ急ぐ秀吉一行を嵐が襲うが、スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』の一場面を彷彿とさせる演出でお通が海に身を捧げると、突如として海の神・大綿津見神(松本白鸚)が現れる。荒波で揺れる海上のダイナミックな舞台が一変し、会場は荘厳な雰囲気で満たされた。大海原から船が宙を飛び、大綿津見神の力によって秀吉一行が琵琶湖に到着すると、光秀方と秀吉方の兵たちが客席通路を隅々まで使った歌舞伎座の客席を通路や二階席まで使った迫力ある立廻りが繰り広げられる。間近で繰り広げられる大立廻りに客席が圧倒されるなか、舞台上いっぱいに、琵琶湖の坂本の大滝が。すごい勢いで流れ落ちる本水のなかでの秀吉(幸四郎)、光秀(松也)、孫市(染五郎)の3人による水しぶき飛び散る立廻りに、客席は歓声を上げ、熱気は最高潮に達した。

大詰は天界で大暴れする孫悟空(松本幸四郎)が登場。これまでの秀吉の物語から一転、突如として始まる「西遊記」の世界に舞台は華やかさを増し、大暴れした孫悟空が金の瓢箪を手に日の本へと飛び去る、コミカルで意表を突いた宙乗りに、客席の温度は一気に上がる。うたた寝の夢から醒めた秀吉は太閤となり天下人。北政所(中村雀右衛門)と淀君(市川高麗蔵)、徳川家康(市川中車)による優麗な踊りの後、栄華を極めた秀吉とその忠孝なる家臣たちによる大坂城での三番叟へと続く。秀吉、前田利家(尾上松也)、加藤清正(坂東巳之助)、毛利輝元(尾上右近)、宇喜多秀家(市川染五郎)の5人で、パワフルでエネルギッシュ、そして華やかな三番叟を魅せ、圧巻の幕切れに大興奮の客席から割れんばかりの拍手が贈られた。

幸四郎が「(二世市川猿翁が43年前に創作した本作の)スケール、エネルギー、熱量を受け継ぎ、今の時代に合わせ、興奮して観ていただける歌舞伎を作り出したい」と筋書で語ったように、竹本の語りや常磐津節に乗せた所作事など、歌舞伎の古典的な様式美を織り込みつつ、迫力の宙乗り、大立廻り、本水を使った大がかりな演出といった、スペクタクル要素溢れる舞台を勤めあげた。

「七月大歌舞伎」は7月24日(水)まで、東京・東銀座の歌舞伎座で上演中。

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<公演情報>
「七月大歌舞伎」

【昼の部】11:00~
通し狂言『星合世十三團 成田千本桜』

【夜の部】16:30~
『千成瓢薫風聚光 裏表太閤記』

2024年7月1日(月)~7月24日(水)
※10日(水)、16日(火)休演
※昼の部9日(火)、19日(金)、
夜の部3日(水)は学校団体が来観

会場:東京・歌舞伎座

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2421357&rlsCd=001&lotRlsCd=

公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/877

※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。

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