天児牛大が遺した『海の賑わい 陸の静寂─めぐり』。山海塾が初演の地、北九州でリ・クリエーションにのぞむ

山海塾が2015年に初演した『海の賑わい 陸(オカ)の静寂─めぐり』をリ・クリエーションし、上演する。山海塾の創設者として、舞踏家・振付家・演出家として数々の作品を遺した天児牛大による作品。初演の地、北九州での9年ぶりとなる凱旋公演だ。

日本発のダンス表現である「舞踏」を世界に広めたアーティストのひとりである天児牛大。3月にもたらされた彼の訃報に、多くのファンは深く悲しみ、その偉業に思いを馳せた。1975年、天児牛大により創設された山海塾は、1980年より海外進出、主にフランスと日本を創作活動の拠点とし、1982年からはパリ市立劇場との共同プロデュースで創作を続けてきた。舞踏を「重力との対話」と捉える天児は、演出・振付のほか、空間や衣裳のデザインも総合的に手がけ、数々の作品を生み出した。ワールドツアーでは48もの国々を巡り、2001年5月にロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で上演した『遥か彼方からの―ひびき』では、イギリスで最も権威のある舞台芸術賞ローレンス・オリヴィエ賞の最優秀新作ダンス作品賞を日本のカンパニーとして初めて受賞するなど、高い評価を得ている。北九州芸術劇場は、2005年度より山海塾の新作の共同プロデュースに参加、数々の作品を日本初演しているが、同劇場初の山海塾による世界初演作品として注目されたのが、2015 年に上演された本作だ。

©Sankai Juku

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天児が『海の賑わい 陸の静寂─めぐり』でモチーフとしたのは、ウミユリ。ユリといっても植物ではなく、ウニやヒトデと同じ棘皮動物の一種で、古生代の海に繁栄、いまも深海に数種が生息しているという。舞台の暗がりから浮き上がってくるのは、ウミユリの化石がかたどられた大きな壁。太古の生命のざわめきが刻まれた、不思議な魅力を放つ舞台空間に、しばし目を奪われる。そこで繰り広げられるのは、太古の豊かな海で騒々しいほどに繁栄を極め、やがて化石となって地上に現れ、長い時の果てに、暗い深海の静けさの中でひっそりと生命を繋ぐウミユリが、あるいはこの地球が、さらには私たち人類が辿った、気が遠くなるような長い長い歴史だ。全身白塗りの舞踏手たちにいざなわれ、観る者の想像力は、途方もない時間を飛び越え、掻き立てられてゆく。初演の地でのリ・クリエーションは、天児が遺してくれた壮大かつ美しい世界を、より鮮やかに再生させるだろう。

公演は5月12日(日)福岡県・J:COM北九州芸術劇場 中劇場、チケットは発売中。

文:加藤智子

<公演情報>
山海塾「海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり」リ・クリエーション

演出・振付・デザイン:天児牛大
音楽:加古隆 / YAS-KAZ / 吉川洋一郎
演出助手:蟬丸
舞踏手:蟬丸 / 竹内晶 / 市原昭仁 / 松岡大 / 石井則仁 / 岩本大紀 / 髙瀨誠 / 伊藤壮太郎

2024年5月12日(日)
会場:福岡・J:COM北九州芸術劇場

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2406142

【プレトーク開催】
「舞踏の宇宙~「Butoh」を世界に放った山海塾と天児牛大」
日時:5月12日(日)10:30~12:00
会場:朝日カルチャーセンター北九州教室(リバーウォーク北九州2階)
講師:吉田純子(朝日新聞編集委員)
プレトークの詳細・お申し込みはこちら

J:COM北九州芸術劇場公演サイト
https://q-geki.jp/events/2024/sankaijuku/

山海塾公式サイト
https://www.sankaijuku.com/

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