川﨑皇輝「期待を超えたい」 思い出の地・シアタークリエで初のミュージカル主演に意欲

「何をしていても楽しめる、それが僕の一番の長所」だと、川﨑皇輝は笑顔で語る。少年忍者のリーダーとしてのアイドル活動はもちろん、舞台やドラマ、バラエティ番組など、さまざまな作品に携わってきた彼のモチベーション、それが “楽しい”こと。そして今回、シアタークリエで上演される『町田くんの世界』でミュージカル初主演を果たす。ひとりの俳優・川﨑皇輝として、彼はこの作品をどう楽しもうとしているのだろうか。

作品の世界観に忠実なミュージカルに

漫画家・安藤ゆきが2015年~2018年に「別冊マーガレット」(集英社)で連載した『町田くんの世界』は、勉強も運動も苦手だけれど人間が好きで、周囲の人にも愛される高校生・町田一(まちだ・はじめ)の物語だ。単行本全7巻で描かれた優しく温かな世界は多くの人に愛され、2019年には実写映画化もされている。今回、ミュージカル化に挑むのは演出・ウォーリー木下、脚本・作詞にピンク地底人3号、音楽・作詞に和田俊輔をはじめとするスタッフ陣。そして、彼らは町田一役に川﨑を選んだ

「シアタークリエは事務所に入所した時から毎年のようにライブで出演させていただいていて、少年忍者として初めての単独公演も行いました。たくさんのミュージカルを観させていただいた劇場でもありますし、思い出がすごく詰まっている。そんな劇場で、事務所の舞台ではない本格的なミュージカルに、しかも主演させていただけるなんて。お話をいただいた時はすごく嬉しかったけど、大丈夫かなっていう心配もあります。でも選んでいただいたからにはがんばろうと思って、準備を進めています」

1月上旬の取材時は、準備稿の台本と冒頭の楽曲ができあがったという段階だった。既に原作を繰り返し読んでいるという川﨑は、どのように感じたのだろう。

「漫画はとても心あたたまる作品で、すごくすてき。どういうふうにミュージカルにするのか、本当にミュージカルにできるのか、不思議に思った方は多いと思いますけど、僕も同じ感覚でした。でも届いた楽曲が、『町田くんの世界』をそのままミュージカルにしたらこうなるよね、という楽曲で、作品の世界観をとても忠実に表現している。それがすごく嬉しかったし、ある意味安心できたし、実際にこれをやるんだっていう実感がわいて楽しみにもなった。ここからしっかり創り込んでいこう、という気持ちになりました」

先行して行われたビジュアル撮影が、実質的には初めて“町田くん” を演じた瞬間だった。町田くんのイメージに合うメガネを選び、髪も少し切り、制服を着てリュックを背負い、空を見上げる。撮影に参加したスタッフの「町田くんっぽいね」という声が、川﨑にとっての自信になったそうだ。

「楽しみながら撮影させていただきました。町田くんってちょっと特殊で、天然で、誰よりも人間を愛していて、その愛もきょうだい的な愛というか、聖人みたいな面をすごく感じる。周りにクセの強いキャラクターが大勢いるけどその中でも“天然”で、でも間違いなく一番優しくていい人なのが町田くんで、その優しさによって周りの人たちも変わっていくんですよね。町田くんのそんなところを理解して近づいていけるように、今は台本と漫画を読み込んで、稽古が始まったらウォーリーさんにご相談しつつ共演する皆さんと一緒に演じていくうちに、お芝居も変わっていく。時間をかけて“ナチュラルボーン・人たらし” な町田くんになっていきたいですね」

ミュージカル『町田くんの世界』メインビジュアル

川﨑の話を聞いていると、町田くんを演じるための大きな課題は、その“ナチュラル”なところにあるようだ。舞台で演じるということ、特にミュージカルは、数多くの段取りから成り立っている。だがその作為的な部分を感じさせてしまったら、『町田くんの世界』は崩れてしまう。だからこそ、川﨑も誰かの頭を突然なでるような町田くんの行動がキザに見えてしまわないように、と表情を引き締めるのだ。

「ミュージカルでもいける」と思ってもらえるように

ここで、川﨑が漫画を読んで印象的だった場面を聞いてみた。すると、それは町田くんと同じ高校の生徒と別れ話をした、後輩の高嶋さくらを気遣った町田くんがうずくまっている彼女にそっとミルクティーの缶をあげるシーンだという。

「町田くんは人の気持ちの弱っているところに気づいて、そこをフォローするのが得意なんですよね。でも、失恋して泣いている女の子の傍らにミルクティーを置いてくって、ちょっとやりすぎじゃないですか(笑)? しかも、何も言わずに去っていくなんてずるいですよね……(ため息)。他にも似たような場面はありますけど、その中でもミルクティーは、僕にとってはクリティカルヒットでした。町田くんとさくらのシーンは面白いし、その辺りからヒロインの猪原奈々も町田くんを意識して、自分の気持ちをどんどん出すようになっていく。いわば作品の変わり目になったシーンでめちゃくちゃ面白いし、大好きですね」

こうした発言からも、キャラクターの心情や物語の構造といったところまで、川﨑は深く読み込んでいることがわかる。芝居に対する、彼のまっすぐな取り組み方が伝わってきた。

「お芝居へのアプローチ法は、特に決まっていません。これまで一番多くやってきたことは、めちゃくちゃ時間がかかりますけど、ひたすら台本を読み続けること。繰り返し読んでいると、小説を読んでいて伏線回収をしているような感じで、どのセリフがどこから繋がっているものなのかがわかってくる。ひとつずつ解明しながら、ゆっくりたどり着いていくんです。でも、それもやりすぎると情報量が多くなりすぎてしまって、以前出演した舞台では台本を置いて芝居する時に頭が混乱してしまいました。だから最近では必要以上に考えすぎず、台本にも稽古の中で伝えられた指示などは書き込んでも自分の解釈は書かないようにしています。もしかしたら『町田くんの世界』では新しいやり方が見つかるかもしれないし、楽しい発見もできたらいいですね」

では、これまでさまざまな作品に出演してきた川﨑にとって、演じることの楽しさや幸福感、手応えはどのような時に感じてきたのだろうか。

「舞台だったら千穐楽を迎えて幕が下りた後や、家に帰った時に、やりきることができた嬉しさを感じるような気がします。千穐楽までの間にお客さんからのリアクションもすごくたくさん感じるし、その都度いろいろありますけど、やっぱり全部終わった時かな。ドラマだったら撮影がアップした時ではなく、オンエアが終わったところ。そこで、ひとつ務めきれたんじゃないかっていう気持ちになる。もちろん芝居している最中も、感覚がなじんでいくにつれて芝居自体もどんどん変わっていくのがすごく楽しい。それを踏まえて、全部終わった時にそれまでのことがフラッシュバックするような感じがして、一番印象に残ります」

そうした達成感があるからこそ演じ続けられる、という部分もありそうだ。

「達成感はどちらかというと副産物みたいなものですけど、それが大きいほど自分がどれぐらいがんばれたのか、しっかりできたのかを感じられることは確か。だから、それも大切ではありますね」

『町田くんの世界』では、川﨑はどのような手ごたえを得るのだろう。千穐楽を迎えるまでに達成したい目標はあるだろうか。

「町田くんに選んでいただいたということは、それだけ期待していただいているからじゃないですか。その期待を超えたい気持ちはあります。だから、川﨑は『意外とミュージカルもいける』じゃなくて『やっぱりミュージカルでもいける』と思ってもらえたら。それが次のミュージカル作品への出演に繋がればいいな、と思っています」

その先に見据えているのは、例えば度々共演している堂本光一や、ずっと憧れているという櫻井翔といった、事務所の先輩たちの姿。既に帝国劇場で0番(舞台上センターの主演俳優の立ち位置)を経験している川﨑だが、これからも先輩たちのように舞台はもちろん、映像やバラエティ番組など、マルチに活躍していきたいと今後の希望を語る。とはいえ、先輩たちに追いつき、追い越すのは並大抵のことではない。

「いつかは追い越さなきゃいけない、というのはあるんですけど、追い越すためにはいったん追いつかなきゃいけない。そこがやっぱり難しいところ。例えば櫻井さんは海外に行ってレポーターをやるなど僕がやりたいことをほとんどやってらっしゃるので。自分の世代だからこそのやり方で、後追いにならないように違いをみせていきたい」と意欲を燃やす。どの現場も「楽しい」と笑顔で向き合う川﨑は、そうした挑戦も軽やかに果たしていきそうだ。

そして最後に、ミュージカル『町田くんの世界』を楽しみにしている皆さんへのメッセージを。

「僕にとっては、ミュージカル初主演という記念すべき公演。でも、それを抜きにしても本当にすてきな作品ですし、ミュージカルとして純粋に楽しんでもらえる作品にしたいので精いっぱい努めます。ぜひ、楽しみにしていてください」

シアタークリエが町田くんならではの世界観で満たされる公演は、3月29日(金)~4月14日(日)。その後、大阪公演あり。

取材・文:金井まゆみ 撮影:石阪大輔
スタイリスト:柴田拡美(Creative GUILD)
ヘアメイク:服部幸雄(メーキャップルームプラス)
衣裳:ジャケット¥17,600 / soerte(株式会社アンティローザ TEL070-7645-3725)・ベスト¥4,180 / Lull(SPINNS TEL0120-011-984)・シャツ¥28,600 / CULLNI(CULLNI FLAGSHIP STORE TEL03-6416-1056)・眼鏡¥35,200 / 眼鏡(白山眼鏡WALLS TEL03-5468-0397)、その他スタイリスト私物

<公演情報>
ミュージカル『町田くんの世界』

原作:安藤ゆき『町田くんの世界』(集英社マーガレットコミックスDIGITAL 刊)
演出:ウォーリー木下
脚本・作詞:ピンク地底人3号
音楽・作詞・演奏:和田俊輔

出演:
川﨑皇輝 長澤樹
神里優希 斎藤瑠希 礒部花凜 大月さゆ 浜崎香帆 岩橋大 鶴岡政希
湖月わたる 吉野圭吾

【東京公演】
2024年3月29日(金)~4月14日(日)
会場:シアタークリエ

【大阪公演】
2024年4月19日(金)~4月21日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

チケット情報
https://w.pia.jp/t/machidakun-stage/

公式サイト
https://www.tohostage.com/machidakun/

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