とんねるず、29年ぶりも変わらぬ「ワンフー愛」 常識を壊してきた2人が見せた“らしさ”全開のステージ

●1曲目直後にまさかの場内アナウンス
2024年11月、とんねるずの石橋貴明と木梨憲武が、29年ぶりに2人だけのライブステージに立った。8日・9日の2日間にわたって東京・日本武道館で行われた『とんねるず THE LIVE』――多くの“ワンフー”(※逆さ読みした「ファン」の呼称)たちがチケットを取ることができず、会場外で“音漏れ観戦”する人も続出したこのプレミアムなライブで、2人はどんなステージを繰り広げたのか。その一部をレポートする。

○『みなさん』最終回とは違った「情けねえ」

開演時刻直前、自然と発生した手拍子で2人を迎えようとする客席。それに呼応するかのように、スピーカーから鼓動を打つリズムが鳴り出すと、今度はそれに手拍子を合わせ、緊張感と一体感が徐々に増していく。

そんな中、激しいスポットライトに照らされた2人が、真っ白な衣装でせり上がってきた。大歓声と「タカさーん!」「ノリさーん!」の声援が飛び交う中でスタートした1曲目は「情けねえ」(91年)。6年半前、前身番組から30年続いた『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)最終回のラストで2人が歌った曲だ。

6年半前の歌唱では、石橋が終始眉間にしわを寄せ、まるで怒りをぶつけるかのように歌っていたのが印象的だった。この時は、歌詞の「この国を 滅ぼすなよ」を「バラエティを 滅ぼすなよ」に変えて歌っただけに、“コンプライアンス”や“世帯視聴率”に手足を縛られた状態で番組が終了することへの忸怩(じくじ)たる思いを、歌に乗せていたのではないかと感じていた。

しかし、今回の表情は全く違った。サビの「♪情けねえ!」で拳を上げる瞬間は力が入って眉間にしわの表情だが、時折見せる柔らかい笑顔にこのステージに立った喜びがあふれ出ているようだった。
○「ご退場ください」vs「アンコール」

イントロもなく始まるド頭の「♪情けねえ!」の“叫び”で一気にヒートアップした客席は、当然総立ち。キャノン砲で金テープが発射されたり、長い終奏でステージの端までやってきて何度も手を振ったりと、まるでクライマックスのような演出が、これまで数々の常識を打ち破ってきたとんねるずイズムが健在であることを確認させてくれる。

こうして初っ端からピークを迎えたような熱気の中、2人がステージから去ったところで1曲目が終了。次はMCか? そのまま2曲目か?……と期待が膨らんだところで、「以上を持ちまして、本日の『とんねるず THE LIVE』は全て終了でございます。ご来場いただき、誠にありがとうございました。係員の指示に従い、ご退場ください」と、淡々とした場内アナウンスが流れた。

かつて、『とんねるずのみなさんのおかげです』で「緊急放送! 木梨憲武さんを偲んで…」というジョークを放送してフジテレビに抗議電話が殺到した騒動もあったが、それから33年、とんねるずとともに人生を歩んできたワンフーに、1曲でライブ終了と捉えて怒りだす人はいない。爆笑で受け止めながら、何度も流れる場内アナウンスに負けじと「アンコール」の声が響き渡る。

このせめぎ合いが3分弱経過したところで2曲目のイントロが流れ、黒の衣装にチェンジした2人が再び姿を見せると、会場は大歓声。そこから4曲連続ノンストップというパワフルなステージは、エネルギーがほとばしりまくる“あの頃のとんねるず”と全く変わらず、心を打つものがあった。最近、石橋はメガネ姿で番組等に出演することが多いが、このライブでは昔のように裸眼だったことも、ビジュアル面の効果として大きいと感じた。

●MC第一声は「ただいま」
開演から30分が経った最初のMCタイムで、石橋の第一声「ただいま」に続き、木梨は「アンコールありがとうございます」とニヤリ。1日目の疲れが残る石橋が「体が痛くて、朝ベッドから起きれなかったんですけど(笑)」と漏らすと、木梨は「全力で行くんで皆さん、お付き合いください」と、まだまだ序の口であることを示唆する。

その予告通り、スタンドマイクからハンドマイクに持ち替えた2人は、ステージをところ狭しと駆け回り、気づけばジャケットを脱ぎ捨てていた。一方のワンフーたちも、曲ごとにおなじみの振りを完璧にこなし、端席の人は列を飛び出して全力で踊る姿も。

しかし、とんねるずも60代になり、同じように年齢を重ねたワンフーたちも体力の衰えは隠せない。立ちっぱなしの客席に、石橋は「座って座って。脚パンパンになっちゃうんで」と気づかい、木梨が「20分休憩頂けますか?」とリクエストすると、今度はワンフーたちからの「頑張れー!」があちこちから聞こえ、まるで互いを労うかのような構図に愛を感じた。

○カラオケ風映像にまさかの人物

今回のライブでは、とんねるずが世に放ってきた名曲の数々が、怒涛のように繰り出された。

「やぶさかではない」(86年)では、カメラに駆け寄っての接近パフォーマンスを見せ、『オールナイトフジ』(フジ)でカメラを倒した事件や『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』(日本テレビ)のオープニングを彷彿とさせてくれる。

日本歌謡大賞など数々の賞を受賞した「雨の西麻布」(85年)では、カラオケ風映像をバックに歌唱。実際に西麻布でロケをしたこの映像には、石橋本人のみならず超有名女優も登場し、爆笑とどよめきが走った。

バンドのメンバー紹介では、サックスの藤井尚之がチェッカーズの「ONE NIGHT GIGOLO」を披露。そうなると、『みなさん』のコントでおなじみだった「Kill you」のギャグも再現され、ノリ男(木梨)の「痛いじゃないかよ~」が飛び出した。

●「またどこかでお会いしましょう」「俺も」
ほかにも、「嵐のマッチョマン」(87年)、「一番偉い人へ」(92年)、そして140.9万枚のミリオンセールスを記録した最大のヒット曲「ガラガラヘビがやってくる」(92年)など、20曲以上を歌いきった2人。

アンコールのアンコールまで全力で走りきり、声をからした石橋から「またどこかでお会いしましょう」と次回開催を示唆する言葉が飛び出すと、木梨は「俺も」と同調。そして、最後に石橋が「ワンフー愛してまーす!」と叫ぶと、木梨はここでも「俺も」と続き、ステージを後にした。

以前、『みなさん』で演出・プロデューサーを務めた港浩一氏(現・フジテレビ社長)にインタビューした際、「貴明は優れたプロデューサー的な感覚を持っている」「憲武は面白い存在感がある」とそれぞれの魅力を語っていたが、この最後のメッセージを含め、今回はそんな2人の“らしさ”が凝縮されているように感じた。

○剛腕・港社長が指示? FODで独占配信

『みなさん』のプロデューサーだった石田弘氏にとんねるずの魅力を聞くと、「昔のお笑いの人は、どっちかというとダサいタイプだったけど、とんねるずは身長は高いわ、みてくれは良いわ、歌も歌ってコンサートもやるわ、ドラマも出るわで、エンターテイナーの要素を全部持ってるんだから、それは人気が出るに決まってんじゃない」と答えてくれたことがある。今回の2時間半にわたるライブは、“面白い”だけでなく“カッコいい”が前面に出ており、まさに“お笑い芸人”の活動の概念を壊したとんねるずを象徴する内容だった。

60代になっても、変わらない面白さとカッコよさを見せてくれた2人。彼らのエネルギーをもっと浴びたいのか、終演後にはその姿を一目見ようと、武道館外の関係者出口で待ち続ける大勢のワンフーたちでごった返していた。

『とんねるず THE LIVE』は、フジテレビの動画配信サービス・FODで、12月20日21時からPPV(ペイ・パー・ビュー)独占配信。木梨によると、当初は他のテレビ局で放送されることになっていたが、港社長がFODでの配信を決めたとのことで、それを指示する様子を「おい! うちでやれよバカヤロー!」と、おなじみの“小港”になって再現していた。

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