村上春樹 ローリング・ストーンズが長くバンドを続けてこられた要因を分析「“おれたちは所詮、悪ガキのロックンローラーなんだ”と開き直っていたからじゃないかと思うんです」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。10月27日(日)の放送は「村上RADIO~ローリング・ストーンズ・ソングブック~」をオンエア。1組のアーティストに焦点を当てて特集する「ソングブック」シリーズの第5弾は、1962年の結成以来、音楽史にその名を残し続けるロックバンド、ローリング・ストーンズを特集しました。
この記事では、中盤2曲について語ったパートを紹介します。
◆Otis Clay「Wild Horses」
いろんなブルーズ歌手がストーンズの曲を歌うトリビュート・アルバムがありまして、『Contemporary Blues Interpret The Rolling Stones』っていうタイトルなのですが、黒人ブルーズをコピーすることからキャリアを開始したストーンズの持ち歌が、本場の黒人ブルーズ歌手たちにカバーされるというのは、彼らにとってはやはり感無量だったんじゃないでしょうか。
その中からオーティス・クレイの歌う「Wild Horses(ワイルド・ホーセズ)」を聴いてください。野生の馬のことですね。とても良い曲です。1971年にリリースされたアルバム『スティッキー・フィンガーズ』に入っていました。僕はその頃、新宿の小さなレコード店でアルバイトをやっていまして、このアルバムをたくさん売ったことを覚えています。アンディ・ウォーホルがデザインした、例のジッパー付きブルージーンのジャケットのやつです。「ワイルド・ホーセズ」、オーティス・クレイ。
◆Herbie Mann「Bitch」
「ワイルド・ホーセズ」と同じアルバムに入っていたのが、この「ビッチ」です。LPのB面の1曲目でした。ストーンズって、刺激的というか、問題のあるタイトルをつけるのが好きみたいですね。ビッチ、雌犬、ふしだらな女。しかしこの曲のリフはいつ聴いてもかっこいいです。ビリビリきます。
ジャズ・フルートのハービー・マンの演奏で聴いてください。『ロンドン・アンダーグラウンド』というアルバムに収められています。大ヒットしたアルバム『メンフィス・アンダーグラウンド』の続編、英国版ですね。ロンドンのスタジオでの録音で、マンさんはイギリスの若いミュージシャンたちと共演しています。ここでギターのソロをとっているのは、オリジナルの「ビッチ」にも参加していたミック・テイラー、かっこいいです。
さっき、ストーンズは基本的にリフ・バンドで、ビートルズはメロディー・バンドだと言いましたが、もちろんそんなに単純にぴったり割り切れるものではありません。1960年代後半を併走してきた2つのバンドは、それぞれに相手を刺激し、それぞれに影響を与えています。ビートルズにもハードなリフを持った曲がありますし、ストーンズにも美しいメロディーを持った曲があります。このように2つの卓越したバンドが競って活躍したことによって、60年代のロックは目覚ましい深まりを見せていったということになると思います。
ビートルズは1970年前後にあえなく空中分解してしまいましたが、ストーンズはメンバーを1人、また1人と失いながらも現役バンドとして活動し続けています。ミックとキースは今でもがっちり手を組んでいます。その2つのバンドの違いがどこにあったのか? もちろん僕にも詳しいところはわかりませんが、いちばんの原因はたぶんストーンズが「おれたちは所詮、悪ガキのロックンローラーなんだ」と開き直っていたからじゃないかと思うんです。ビートルズのように、ラブ&ピースとか、東洋哲学とか、そういうカウンターカルチャーの精神的な側面に惹かれたりすることはなかった。もちろん少しはありましたけど、それほど強い影響は受けなかった。とにかくロックンロール一筋でやってきた。それが長年にわたってバンドとしての結束を維持できた1つの要因じゃないかと、僕は思うんですが。
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10月27日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 11月4日(月・振休)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO~ローリング・ストーンズ・ソングブック~
放送日時:2024年10月27日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
この記事では、中盤2曲について語ったパートを紹介します。
◆Otis Clay「Wild Horses」
いろんなブルーズ歌手がストーンズの曲を歌うトリビュート・アルバムがありまして、『Contemporary Blues Interpret The Rolling Stones』っていうタイトルなのですが、黒人ブルーズをコピーすることからキャリアを開始したストーンズの持ち歌が、本場の黒人ブルーズ歌手たちにカバーされるというのは、彼らにとってはやはり感無量だったんじゃないでしょうか。
その中からオーティス・クレイの歌う「Wild Horses(ワイルド・ホーセズ)」を聴いてください。野生の馬のことですね。とても良い曲です。1971年にリリースされたアルバム『スティッキー・フィンガーズ』に入っていました。僕はその頃、新宿の小さなレコード店でアルバイトをやっていまして、このアルバムをたくさん売ったことを覚えています。アンディ・ウォーホルがデザインした、例のジッパー付きブルージーンのジャケットのやつです。「ワイルド・ホーセズ」、オーティス・クレイ。
◆Herbie Mann「Bitch」
「ワイルド・ホーセズ」と同じアルバムに入っていたのが、この「ビッチ」です。LPのB面の1曲目でした。ストーンズって、刺激的というか、問題のあるタイトルをつけるのが好きみたいですね。ビッチ、雌犬、ふしだらな女。しかしこの曲のリフはいつ聴いてもかっこいいです。ビリビリきます。
ジャズ・フルートのハービー・マンの演奏で聴いてください。『ロンドン・アンダーグラウンド』というアルバムに収められています。大ヒットしたアルバム『メンフィス・アンダーグラウンド』の続編、英国版ですね。ロンドンのスタジオでの録音で、マンさんはイギリスの若いミュージシャンたちと共演しています。ここでギターのソロをとっているのは、オリジナルの「ビッチ」にも参加していたミック・テイラー、かっこいいです。
さっき、ストーンズは基本的にリフ・バンドで、ビートルズはメロディー・バンドだと言いましたが、もちろんそんなに単純にぴったり割り切れるものではありません。1960年代後半を併走してきた2つのバンドは、それぞれに相手を刺激し、それぞれに影響を与えています。ビートルズにもハードなリフを持った曲がありますし、ストーンズにも美しいメロディーを持った曲があります。このように2つの卓越したバンドが競って活躍したことによって、60年代のロックは目覚ましい深まりを見せていったということになると思います。
ビートルズは1970年前後にあえなく空中分解してしまいましたが、ストーンズはメンバーを1人、また1人と失いながらも現役バンドとして活動し続けています。ミックとキースは今でもがっちり手を組んでいます。その2つのバンドの違いがどこにあったのか? もちろん僕にも詳しいところはわかりませんが、いちばんの原因はたぶんストーンズが「おれたちは所詮、悪ガキのロックンローラーなんだ」と開き直っていたからじゃないかと思うんです。ビートルズのように、ラブ&ピースとか、東洋哲学とか、そういうカウンターカルチャーの精神的な側面に惹かれたりすることはなかった。もちろん少しはありましたけど、それほど強い影響は受けなかった。とにかくロックンロール一筋でやってきた。それが長年にわたってバンドとしての結束を維持できた1つの要因じゃないかと、僕は思うんですが。
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10月27日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 11月4日(月・振休)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO~ローリング・ストーンズ・ソングブック~
放送日時:2024年10月27日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
10/29 20:00
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