葵わかなが選んだ1冊は?「不器用に生きる主人公の姿を通して気づかされることがたくさんありました」

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年10月号からの転載です。

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、葵わかなさん。

(取材・文=倉田モトキ 写真=TOWA)

「学生の頃から綿矢りささんの作品が大好きなんです。世の中に揉まれていたり、人生に焦りを感じている女性が主人公の物語が多く、その描き方も魅力的で。ただ、この小説の海松子はぶっ飛んでいる(笑)。読むほどに、彼女に会いたくなりました」

 人付き合いが苦手で、着飾ることもせず、恋にも無頓着な大学生の海松子。しかし誤解されやすいものの、決して人嫌いではない。あらゆる点で規格外だが、そんな彼女の言動は、読み手の感情を心地よくくすぐる。

「海松子は不器用なだけなんですよね。それでもマイペースで生きていく彼女は本当にかっこいい。心の中で、他人に少し変わったあだ名を付けて呼んでいる姿もかわいくて。最初は共感しづらい主人公だなと思っていましたが、気づくと“彼女の一番の理解者はきっと私だ!”と思えるほど親近感を抱いていました(笑)」

 強く心に残っているのは、親友の萌音や幼馴染の奏樹と島に行く場面。

「青春の1ページとも言えるとても尊い時間なはずなのに、彼女の視点で描かれると全然ロマンチックじゃない(笑)。でも、私自身も世の中に溢れている美しいものに気づいてないことが多いのかもしれない。そんな気持ちになったのを覚えています」

「小説を読んでいると、いろいろ想像で脳が満たされていく。あの感覚が大好きです」と葵さん。現在出演中の『おいち不思議がたり』の原作を読んだ時も、「時代劇だけどファンタジー要素もあり、初めて味わう世界観に魅了されました」と感想を。

「医者になることを夢見るおいちには、無念を残してこの世を去った人の声や姿に触れられるという特別な力が宿っている。そこで彼女は彼らの声を聞き、残された人たちが前に進むための手助けをする。霊であろうと、今を生きる人たちであろうと、人の心を救うのはやはり同じく人の心なんだということが描かれた、とても素敵な作品になっています」

 そんな彼女の理解者であり、尊敬する医者でもある父親役には玉木宏。

「おいちにとってはすごく頼れる存在ですね。泣きつくこともできるし、何かあった時は受け皿にもなってくれる。当時はまだ女性が医者を目指すこと自体が珍しかった時代。そうした中でのおいちの悩みであったり、彼女が持つ力を使い続けるべきか否かの葛藤などもこの先の物語では描かれていきます。また、どんな時でも父はおいちを一人の大人の女性として尊重してくれる。そうした二人の関係性にも、ぜひご注目ください」

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