桜田ひよりが選んだ1冊は?「ひと言で恋愛小説と括れない二人の感情と想像を全て覆された展開に魅了されました」

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年5月号からの転載になります。

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、桜田ひよりさん。

(取材・文=倉田モトキ 写真=干川 修)

「いつも、次の台本が届くまで時間が空くと、本屋さんで小説を何冊か買って一気に読むんです。この小説は、特に一番のお気に入りでした」

 作家の名や作品の話題性に左右されず、本を選ぶ際は直感で決めるという桜田さん。住野よるの小説を手にしたのも、この時が初めてだった。

「主人公は中二病を自称するような性格の男子高校生カヤで、そんな彼が謎の少女チカと出会う。そこには単純にSFや恋愛小説というジャンルで括れない複雑さがあり、不思議な感覚になりました。しかも後半には、えっ?えっ!?と驚く怒涛の展開があり、次々と予想を覆されていく。読んでいて気持ちよかったです(笑)」

 桜田さんが強く惹かれたのは、真逆ともいえる性格の二人の心の距離。「歪だけど調和が取れた関係に、恋愛を超えた繋がりを感じた」そうだ。

「普段、恋愛小説を読んでいて男女の付かず離れずの展開が続くと、私は“早く正直になろうよ!”ってモヤモヤしちゃうんです(笑)。でも、カヤたちの間には簡単に解決できない壁があるから、“どうしようもないよね”と、すごく感情移入できる。二人が目指す答えを明確にせず、読み手に委ねているところも素敵で。だからこそ結末には驚かされました」

 恋愛を超えた男女の関係性を描いた作品という意味では、間もなく公開の映画『バジーノイズ』も同じといえるかもしれない。音楽創作だけが生きがいだった清澄と、彼の前に現れた破天荒な少女、潮。原作を読み、桜田さんは「彼らの行く末を見守りたいという気持ちが強く、読む手が止まらなかったです」と話す。

「潮ちゃんは他人との距離の詰め方が少し周りと違って(笑)。でも、そんな彼女だから、殻に閉じこもっていた清澄を外の世界に連れ出せたんだと思います。ただ、彼女の言動は一歩間違えると嫌な人間にも見えてしまう。ですから、どんな人が相手でも、他人の懐にスッと入っていける子をイメージして演じました」

 清澄と潮の出会いはやがて二人に大きな変化をもたらす。それはプラスの面でも、マイナスの面でも……。

「清澄の音楽が世間に知られるようになると、潮ちゃんの中で清澄と彼の音楽が遠い存在になっていく。そこには自分の居場所を失う怖さや、逆に自分が彼の近くにいることで迷惑をかけてしまうというもどかしさもあって。そうした、彼女自身も自分の本心が分からないほどぐちゃぐちゃになっていく感情や過程にも注目していただけたらなと思います」

ヘアメイク:池上 豪(NICOLASHKA) スタイリング:前田涼子 衣装協力:カーディガンとワンピースのセット2万1450円(税込)/LILY BROWN ルミネエスト新宿店、その他スタイリスト私物

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